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第3回:(株)クラレ つくば研究所
(株)クラレ つくば研究所 (つくば市御幸が丘)
 6月27日、(株)クラレのつくば研究所を訪問させていただきました(溝口、大枝)。立派な建物で、いかにも最先端の研究が実施されているな、という雰囲気の研究所です。もう25年も前になりますが、(溝口は)工業技術院の「次世代制度、高分子分離膜材料」に参加していたころ、仮施設であったこの研究所の前身をお訪ねしたことがあり、玄関に立ったときには今昔の感を懐かざるを得ませんでした。

 寺田所長と挨拶を交わしながら、高分子膜の素材として同社のPVA(ポリビニルアルコール)を融通していただいていたことのお礼を申し上げたりして、懇談が始まりました。
 最初に、当方からつくばサイエンスアカデミー(SAT)についてごく簡単に紹介、そのあと、企業紹介パンフレットを見ながら、繊維から<エバール>、医療機材までクラレの事業、研究開発状況について概略のご説明をいただきました。

Q:出発点はレーヨン、というお話でしたが、今のご説明では樹脂というか高分子のお話が多かったように思うのですが。
A:その通りなんです。現在、繊維は売上高の1/4程度になっています。

Q:私(溝口)の中学生時代、最初の合成繊維ということでのビニロンの学生服を着ていました。最近は、ビニロンはあまり作っておられないのでしょうか?
A:ビニロンは、湿ると少し重く感じられたのではありませんか?衣服関係ではもう作っていないのですが、石綿代替とか産業資材として今でも重要です。

Q:当時は傘をよく壊して、学生服が雨に濡れると重かったように記憶しています。ところでビニロンの元はPVAですが、事業全体としてはやはりPVA中心の機能性樹脂の製造、ということでしょうか?
A:PVAというよりモノマーである酢酸ビニルをベースとした事業が基幹になっているといった方がよいかもしれませんね。PVAについて言うと、液晶用の偏光フィルムにはPVAフィルムが使われているのですが、当社のシェアは80%です。

自動車用燃料タンクにも使われる<エバール>樹脂
Q:<エバール>がビニルアルコールとエチレンの共重合体ということは知っています。酸素の透過性が非常に小さいようですが、これは狙って作ったのでしょうか?
A:そうではなくて、もとは繊維として使えないかということだったのです。ポバール(PVA)が溶融成形できないので、エチレンを入れて溶融紡糸して糸にしようということです。しかし当時、糸として際だった特徴が見出せず、それよりも樹脂でということで、検討の結果、ガスバリア性のあることがわかったのです。<エバール>は食品用の容器や包装材として使われています。それに自動車用燃料タンクに使われていて、アメリカではもう70%がこの種のタンクになっています。<エバール>は、構造中のOH基のために結晶性が高く分子鎖間の隙間も小さくて気体分子やガソリンなどを通しにくいのです。それに、融点が180℃と比較的高く、成形しやすいのです。

Q:素材として他にメタクリル樹脂(PMMA)も扱われているようですが?
A:メタクリル樹脂は光学用材料として重要です。水族館の窓などに使われていることはご存じと思います。液晶画面のバックライト用の導光板としても大切です。導光板は携帯電話にも使われていますよ。

人工皮革<クラリーノ>製品の数々
Q:ホームページを見ると、有名な<クラリーノ>は素材というより加工方法に特徴があるように思います。他の製品にもその技術は使われているのでしょうか?
A:<クラリーノ>は、極細繊維の不織布にウレタン樹脂を含浸させています。素材と加工技術で、天然の皮革に近づけるようにしています。他の製品には使われておりません。<クラリーノ>は最近では、北京オリンピックのバレーボールの公式球として採用が決まりました。

Q:熱可塑性エラストマーの話も面白いと思いました。
A:熱可塑性エラストマーの<セプトン>は、ポリスチレンー水添ポリイソプレンーポリスチレンの3元ブロックポリマーで、ミクロ相分離構造をとっています。
水添ポリイソプレンの部分が柔軟性を発揮し、ポリスチレン部分が架橋点として働き、全体として弾性のあるゴム様の性質を発現しています。イソプレンに水素添加して化学的安定性を高めているのですよ。

Q:もとに戻って、液晶用の偏光フィルムについてですが、PVAだけでなくヨウ素を吸着させて使うということですが、ヨウ素はどういう役目を果たすのでしょうか?
A:ヨウ素はI5、I7のように長い分子構造をとりやすいのですが、PVAはヨウ素と錯体を作り、延伸すると両方ともうまく並んで偏光性が高くなります。つけ加えると、延伸は偏光フィルムを作る会社でやっていて、我々のところは延伸前のPVA膜を製品としています。フィルムとしてムラがないように作ることが非常に重要で、うまく作れるのは日本の2社だけです。先ほども触れましたが、そのうち80%は当社で作っています。

Q:ナノ材料、光学材料へも展開しておられるようですが?
A:光学材料では、液晶表示用の導光板や光取り出しフィルム等に注力しています。ナノについては、当社では、<クラリスタ>という透明性、ガスバリア性が高く、レトルト処理(加圧水処理)に耐えるフィルムを製造していますが、これはポリエステルフィルムの両側に薄い膜をコーテイングしたもので、この膜にはナノサイズの無機材料が複合されています。この無機材料でガスバリア性を高め、耐レトルト性を発現しているのです。

Q:合成や加工技術をもとに、樹脂材料で広い分野に事業展開しておられるように思います。今後はどのように展開していかれるのでしょうか?
A:光学、電気・電子材料、環境・エネルギーといった分野です。その次にライフサイエンス、自動車部品といったところでしょうか。思い切って、燃料電池の電解質膜にも出ようとしています。詳しくは申し上げられませんが、当社の製品は柔軟で強いという特徴があります。

お話を伺った寺田所長
Q:最近の原料高が影響するということはありませんか?
A:研究としては、今のところ大きな影響はありません。しかし長い目で見て、バイオマス原料に注目する必要があると思っています。

Q:倉敷にも研究所があるようです。つくばに研究所を置かれたのは、国立研究所との連携を考えられたのでしょうか?
A:会社の方針として、お客さんに近いところに研究所を、ということがあります。当社は、新潟など東日本にも工場があり、それでこちらにも研究所を置くことになったのです。もちろん筑波大や国立研究所との連携も大切なことだと思っています。実際、こちらからだけでなく先方から声を掛けてもらうこともあり、お互いいくつか交流、協力しています。NEDOの助成型プロジェクトにも参加しているのですよ。企業間の協力はやはり難しいところがありますね。協力の大切さはよくわかっているつもりです。よいテーマがあればぜひ取り組みたいと思います。

Q:面白いお話を聞かせていただきました。長時間、有り難うございます。これからも賛助会員として、SATをご支援下さい。また、テクノロジーショーケースにもご参加いただきたいと思います。
A:こちらこそこれからもよろしくお願いいたします。ショーケースも考えさせていただきます。


(印象)
20以上の質問を用意して出かけたのですが、打てば響くように、またわかりやすくお答えいただいて、あっという間に1時間が経ってしまいました。帰路、「クラレは本当に素材産業の会社だよね」、「合成から加工技術まで広い技術の蓄積で自信をもっておられるようだね」と事務局の二人で語り合いました。クラレでは電気・電子材料や光学材料、環境エネルギー分野と思い切った展開を考えておられるとのこと、こういう思いを産学官で結集してつくば発の新材料・新技術が構築できないか、つくばの皆さんは同じように思っておられるでしょうが、何かの形でぜひ実現したいものです。

(参考)
(株)クラレ ホームページ
http://www.kuraray.co.jp/


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