VISIT MEMBER'S ROOM


第5回:ツジ電子株式会社
ツジ電子(株)本社(土浦市神立町)
16CHステッピングモータコントローラ
 ツジ電子(株)は土浦の地元企業、顧客の注文に応じてエレクトロニクス製品を設計製作している会社、と聞いています。IRDA(注参照)の展示会で、ステッピングモーターコントローラーの説明を受けた記憶があるのですが、私(溝口)は化学系の出身ですので、エレクトロニクス製品ということだとしっかりした質問がしにくいかな、と心配しながら訪問させていただきました(8月4日、コーデイネーター溝口、事務局大枝の2名)。同社からは、辻社長にお付き合いいただきました。
 いつもと同じように、最初に、当方からつくばサイエンスアカデミー(SAT)についてごく簡単に紹介、そのあと、1時間20分ほどのインタビューが続きました。

Q:御社のパンフレットを見ると、ステッピングモーターとそのコントローラーが主力製品のようですが、そういう理解でよろしいでしょうか?
A:そうではないのです。ステッピングモーターは作っておりません。そのコントローラーをつくっているのです。実は、カタログに載る製品というより、研究者や技術者の要望に応じて必要なエレクトロニクス製品を作る、特注品を作る、というのが一番のスタンスなのです。顧客ニーズの多いものについてカタログに載せている、ということです。ステッピングモーターコントローラーは比較的多いのですが、それでも全体の20%程度です。いろいろなところから注文を受けて、その意味で仕事の範囲が広がっています。

Q:売り上げはどのくらいなのでしょうか?
A:年に2億くらいでしょうか。

Q:従業員は?
A:15名くらいです。

Q:先ほどのお話で研究者のニーズに応えるというと、具体的にどんなことがあるのでしょう?
A:つくばの中、特に高エネ研関連が多いですね。神戸のSPring−8(スプリングエイト)からも注文を受けています。最初にお話のあったステッピングモーターコントローラーも、初めは高エネ研から注文がありました。
 シンクロトロン放射光は、X線など多くの波長の電磁波が入った白色光なのですが、このうち必要な波長のX線のみを取り出すのはなかなか大変で、その方法のひとつとしていくつかの結晶フィルターを組み合わせたいわゆるモノクロメーターがあります。注目する波長に応じて結晶の位置を決めていく、そのときにステッピングモーターコントローラーが必要になるのです。必要波長のX線がボタン一つで手に入るということです。

Q:随分精密な制御が必要なのでしょうね?
A:よく使われるステッピングモータの回転方向位置決め精度は1/500〜1/1000回転が基本ですが、今ではもっと細かく、さらにその1/10、1/100、1/200までできるようになっています。

Q:そうすると御社の技術の中心というか、売り物はどのように言ったらよいでしょうか?
A:装置の中身にさわれる、ということでしょうか。ある波長の光を被測定物に当てる、出てきた光を受ける、というような場合、この装置にはいくつもの部品が入って一つのシステムになっていますが、装置は見かけは大きな箱のようなものです。この装置が停電で止まった、しかし、一つのモーターを動かせば当面の測定は可能、という問題が起きたとして、我々は中身がわかっているので、一部に触って修理して当面の問題はクリア、のように対応することができます。
 最近は安いものは海外で作られてしまいます。値段ではかないません。そういうものを自分たちで作ったり、またパソコンは安いがソフトを作るのは大変、ということもあります。この部分をハードに置き換えて、見えて触れてソフトレスにする、そういう方向で事業を進めています。

Q:パンフレットにあるNIMというのは何でしょうか?
A:これは原子力関係の特別な規格のことです。ケースの形が決まっていて、これに合うようなサイズや規格にする、といったことです。

Q:製品開発指針で、ハードとソフト、通信技術という3つが上げられていますが、それぞれ協力してやっていくということでしょうか?
A:主にハード・ソフトですが、それほど規模の大きいハード、ソフトを扱うわけではありません。ですからこの両方がわからないと駄目なんです。

Q:実際問題として、そのように対応できる学卒者はいるのでしょうか?むしろ育てる、ということになるように思いますが。
A:その通りですね。分野にもよりますが、一人前になるのに5年はかかります。安心できるには10年くらいでしょうか?

Q:楽しみという面もありそうに思います。
A:そうですね。今は選択肢が多く、一方で何をやってもいい、ということになっている。でもそれでは、若い人が何をすべきか迷ってしまうように思います。うまくリードしてやれるかどうかが大事です。

Q:最近の資源高、石油価格の高騰は影響しているでしょうか?
A: 去年後半から値上げの話がよく出ています。この15年くらいは値上げの話はなかったので、やむをえないかと思っていたら、1年も経たないうちにまた値上げでそれも30%、50%で大変です。さいわい材料費の比率がまだ小さいですし、特注品はそのときどきで見積もりできるので何とかなっています。ここは技術を売る商売ですので、仕事で力をつけていくという面があります。場合によっては値段は二の次で、授業料を払う形になってもよいと思っています。

Q:国際化についてはいかがでしょう?
A:海外で作ることは考えていません。海外にも客はいますが、5%程度です。海外からは特注品でこういうものを、と声を掛けてもらうことがあり、その場合、顔を見ないでメールでやり取りして製品化して送る、などということもあります。

お話を伺った辻信行代表取締役
Q:つくばの研究機関との交流という点についてはいかがでしょう?
A:高エネ研のほか、産総研や筑波大、物材機構などともやり取りさせてもらっています。

Q:お話を聞いていると、商売というより筑波の下支えというように思いますが。
A:そうですね。つくばでよい成果を上げてもらえれば、こちらもサポーターとして嬉しいですね。

Q:売り込みはなさっているのですか?
A:顔見知りの方は沢山おられます。声がかかれば、いろいろ挑戦して事業を広げたいと思っています。

Q:特許についてはいかがですか?
A:出願中のものはありますが、今のところ取得していません。いろいろ対応できる技術力で勝負、ということです。

Q:アカデミーに対して何かご要望はおありでしょうか?
A:つくばで大切な存在と思います。ぜひ発展して欲しいですね。


(感想)
 インタビューの間、淡々としかし経験に裏打ちされた力強いお答えをいただきました。「中身にさわれる」という表現を何度もしておられましたが、それには強く共感するところがあります。複雑化した製品の中身(技術)はわからなくてよい、むしろそれを使いこなすことが大切、というのが最近の大きな流れかもしれませんが、不器用ながらハンダゴテで配線を完成させたときの充実感・征服感は忘れがたいものがあります。そういう経験をつむことは、研究者としても大切であるように思います。
 「つくばの下支え」という話を持ち出したとき、辻社長はにっこりしておられました。つくばの研究はこういう方々、こういう企業に支えられているのだな、とあらためて思います。「仕事で力をつけていく」というお話なので、ドンドン難しい問題を出すようにしたらどうでしょうか。多くはつくばの中だけで十分解決する、と私には思えます。

(参考)
ツジ電子株式会社 ホームページ
http://www.tsujicon.jp

(注) IRDA:
茨城県研究開発型企業交流協会の略称。茨城県内に事業所を有し研究開発を積極的に志向する企業を会員とし、技術交流事業、技術PR事業、情報提供事業を行っている。事務局は茨城県商工労働部いばらきサロン、現会長はツジ電子(株)の辻社長。

[ 一覧へ ] [ ホームへ ]
Copyright (c) Science Academy of Tsukuba. All Rights Reserved.