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第7回:クリタ分析センター株式会社
クリタ分析センター(株)(つくば市高野台)
 浜松に佐鳴湖という小さなそして風光明媚な湖があるのですが、CODでは日本一汚れているとのことで、その浄化に官民挙げて取り組んでいます。私(溝口)も浄化プロジェクトのメンバーだったのですが、この湖と上流・下流河川の水分析を行うとなるとサンプル数が膨大で、とても大学の2、3の研究室で片がつくものではありません。こんなとき地元の分析会社が水質分析を引き受けてくれて、大いに助かりました。
 クリタ分析センター株式会社は、水質分析を得意としておられるようで、この佐鳴湖のことを思い出したりしながら訪問させていただきました(9/1,溝口、大枝)。広く環境問題が取り上げられる今日、このような企業は、「環境」をキーワードに実質的に広い分野の交流の中心になっていくようにも思われます。同社からは、岡村技術管理課長、阿部同課教育チームリーダーにお付き合いいただきました。

Q:御社はつくばでいつごろから事業展開しておられるのでしょうか?
A:設立は5年前です。実はその前からつくばに株式会社クリタスという会社があり、ここは栗田工業の子会社で水処理施設の維持管理を主とした会社なのですが、その分析部門と栗田工業株式会社の分析部門とが合併独立して「クリタ分析センター」になったのです。ご存知のように、栗田工業は水処理プラントの技術開発・計画・設計・施工、水処理薬品の製造・販売を中心とした環境の会社です。研究開発のための分析は行いますが、証明事業としての分析は行わないので、ユーザーサポートの分析を含め、我々のところで分析を担当しております。

Q:企業規模について、お差し支えない範囲でお教え下さい。
A:年売り上げが30億円くらい、従業員はパート契約社員を含め330人くらい、正社員は100人くらいです。すぐ役に立つよう地域密着型で、いろいろな地域に事業所を持っています。ただ、大阪は手狭になり、周辺の宅地化も進み分析会社として立地環境が保てないことから移転を計画したのですが適地が無かったことから、今は営業所のみで分析事業は行っておりません。そのとき、事業の再編成をして、環境分析が中心のつくば本社と、新たに用水分析中心の厚木事業所を別機能の拠点として開設しました。

Q:大阪で事業所がないと不便なのではないでしょうか?私(溝口)は、浜松の佐鳴湖という湖の浄化プロジェクトに参加して、地元の企業に水質分析をお願いしたのですが、短い時間でデータを出してもらって、随分助かりました。
A:サンプリング部門は残していますし、分析については分析納期の短縮化を図ることでカバーしています。但し、サンプリング当日に分析をして結果を報告するような依頼については受けられないので不利ですね。

Q:水質分析以外の事業展開はいかがでしょう。
A:新しい方向として、輸出用製品の分析、たとえばプリント基板やパッキン、接着剤などですが、その中の重金属、臭素化難燃剤の分析を始めています。

Q:ホームページを見させていただいても、事業の中心は水質関係で、そのほかいろいろ分析を実施しておられるようですが。
A:現在の事業で言えば、水質関係で65%、ほかには土壌分析10%、排ガス分析・作業環境測定・グリーン調達分析他が25%というころでしょうか。我々の事業は、新たな規制基準ができるとそれで新しい分野ができる、というところがありますが、今のところそういうものは出てきていません。したがって既存の分野での競争になっているので業界内での競争が激しく、その場合の差別化のポイントは納期と費用、ということになります。分析ニーズ自体は増えているのですが、既存部分は市場価格の値下がりがあり売上規模は横ばいか、やや減少の傾向にあります。

クリーンルームを用いた超純水の分析
Q:環境が社会的に大変注目されるようになっています。それにともなって、御社のような分析企業の活躍の場は広がっていると思うのですが。
A:環境事業は増えているのですが、分析はそういった事業の要素の一つなんです。有害視されている有機化合物をより低濃度で分析することも考えたいのですが、多数の有機化合物ひとつひとつに対応するためには、それなりの設備投資が必要です。アスベストも分析項目が追加になったことから今がブームなのですが、当社の分析事業での占める割合が小さく、やはり水が中心になりますね。
 今の水質分析は工業用水や飲料水、環境水が主ですが、水の利用は非常に大切ですから、これからは農業用水の分析などが出てくるかもしれません。

Q:大気分析についてはいかがでしょう?
A:もちろん大気分析も行っています。大気分析は法規制の分析が主でして、SOX、粉塵、ダイオキシン等の分析を行っています。

Q:新しい分析技術開発の可能性はいかがでしょう。経営ビジョンで分析技術の創造をうたっておられるので、お聞きしたいと思います。
A:当社は設立してから5年と期間が短いため、まだ技術の蓄積が少ないので、公定法や世の中に出ている技術を応用して、精度が保てるか、あるいはより低濃度の分析が可能かを検討している、というスタンスです。しかし、法で分析方法まで規定されている場合は、それ以上の改良・改善がおこなわれない状態です。たとえばBODについていうと、イギリスの産業革命後のテムズ川の汚染度合いを測るために考案された分析法ですが、生物の働きを使って測定するので、データがバラついてしまう。また、測定に5日間の時間も必要です。データの蓄積はあり、BODも大切な指標ですが、現在の技術を考えればこれでよいのか、という思いはあります。当社としても徐々に現在のスタンスを変えて、技術の創造へシフトしていきたいと思います。また、これまで有用な物質の濃度を測るということはあまり取組んでいないのですが、有用な物質をはかるという発想も大切なように思います。

Q:有用なものの分析というのは、非常に大切な視点であるように思います。ところで、グリーン調達分析というのは、具体的にどういうことなのでしょうか?
A:たとえばRoHS(ローズ)基準というものがあります。これは、電気・電子機器を廃棄処分したときに環境汚染が起きないよう、製品中の特定有害物質の使用制限に関するEUの基準なのですが、グリーン調達分析は、製品に入ってはいけないものが入っていないかを分析するというものです。ほかにも類似のいろいろな基準があり、エコ製品になっているかどうかを分析しています。

Q:国立研や大学で新しい分析技術を構築するとして、どんな要望をお持ちでしょうか?
A:標準物質ができるだけ多くの種類で作成して欲しいですね。分析の基準として非常に大切と思います。それと、灰の中の金属やダイオキシンの濃度がわかったものなどのようなモデル物質も欲しいと思います。

Q:御社はつくばに本社をお持ちですが、それは何か必要があったのでしょうか?
A:さきほども申し上げたのですが、クリタスが拠点としてつくばにビルを建設しました。クリタスは水処理装置の維持管理を行う企業で、技術はソフトウエアです。拠点が大都市の中心に無くても技術力は発揮できますし、研究学園都市という全国に通じるネームバリューを背景にできると考え、つくばに拠点をおいたと聞いています。
当社も同様で、分析技術というソフトを発揮する企業ですし、宅急便等の流通のシステムが完備されていることから、1日あれば日本国内殆どの地域からサンプルが届きます。活動拠点として研究学園都市という全国に通じるネームバリューは大きいと思います。

お話を伺った阿部技術管理課教育チームリーダー、岡村技術管理課長(左から)
Q:資源高、エネルギー高からの影響はあるのでしょうか?
A:試薬の硝酸銀やポリエチレンのビンの価格が上昇しています。今のところは購買努力や工夫で影響をおさえていますが、物価高による顧客の購買量の減少から、分析の依頼を減らすなどといった影響も出てきそうです。

Q:つくば内での協力関係・交流についてはいかがでしょうか?
A:研究所の一部ではありますが相談をしたり、意見を伺うという交流がわずかにある程度です。分析は計画や検証をするときの判断材料の一つなので、主役になりにくい事業です。つくばサイエンスアカデミーで我々も参画できる企画を創っていただければ、参画して交流を深めたいと考えますし、交流が深まれば協力関係も生まれると考えています。

Q:国際化の流れについてはどう見ておられますか?
A:現在のところ、国内法である計量法が海外からの進出を拒んでいるところがあり、また当社の場合はクリタグループから経由してくる依頼が大半なので、国際化の流れに直面することはありません。ただし、栗田工業がアジアに強く、それとのつながりはあるので、これから現地での分析マンを作りにいく、ということはありそうに思います。また、国際ルールに対応していくことも大切です。たとえば、国際規格であるISO/IEC17025の認定を受けてグリーン調達分析を行なうといったことが必要なように思います。

Q:どうも長時間有難うございました。よい勉強をさせていただきました。これからもアカデミーをご支援下さい。最初に説明申し上げたのですが、今回のテクノロジーショーケース、ぜひ企業からもご出展いただきたいと思っています。お付き合いいただきたいと思います。
A:こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。私どもはこれまでクリタの枠内にいて、そとを十分見ていないところがあります。アカデミーは大切な存在と思います。


(感想)
「水も限りある資源」と言われて久しいですが、私たちが水に求めるものは絶対的な「量」とともに、その「質の高さ」であるように思います。それを支えるのが「分析」であることは誰もが疑うところはないでしょう。お二人の穏やかな語り口からも、そのような職人気質を伺い知ることができる1時間でした。「特殊技術を活かした業界」のイメージを持って臨みましたが、その競争は厳しく、差別化のポイントは納期と費用というのは少し意外でした。しかし、水は環境と切っても切り離せないもの。大気の汚染、廃棄物による土壌汚染も最終的には水の問題に行き着きます。水の分析で培った技術を水以外の環境分野に応用していこうとする姿勢は、「水と環境の世紀」にふさわしく、分析という需要は将来的に大きな伸びを予感させるものでした。(大枝記)

(参考)
クリタ分析センター株式会社 ホームページ
http://www.kuritabunseki.co.jp/


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