VISIT MEMBER'S ROOM


第10回:東京化成工業株式会社 つくば事業所
左から中園つくば事業所長、中島グループリーダー

 東京化成工業株式会社(TCI)は試薬で有名な会社、化学系の研究者の皆さんにはなじみ深い名前と思います。私(溝口)も旧工業技術院、静岡大学の時代に何度もお世話になりました。このつくばサイエンスアカデミー(SAT)に来て初めて、同社つくば事業所(筑西市)に賛助会員になっていただいていることを知り、試薬会社にはどんな特徴があるのだろうか、そんな思いで訪問させていただきました(10/15、溝口、大枝)。ご対応は、中園事業所長と中島総務グループリーダーのお二人です。
 最初のお話で、同事業所は生産工場ではなく試薬小分け業務が主事業とのこと、ちょっと戸惑ったのですが、中園所長は製造畑ご出身で、いろいろ興味深いやりとりになりました。

Q: この事業所には工場も研究所もあるのでしょうか、敷地がかなり広いように思います。
A:ここは深谷工場からの製品を小分けして保管しておく場所です。大小合わせて70万本以上の試薬が保管されています。当初つくば市に営業所がありましたが、15年前に小分け業務の事業所を開所しました。
 研究面では、王子事業所が出発点でして、今は戸田、王子、深谷の3箇所に研究所があり、戸田は受注を主にして化成品、深谷は生産と密接に結びついてスケールアップなど、王子は小スケールの試薬開発、というようにすみ分けしています。

Q:ホームページを見ると事業領域が、有機試薬、ファインケミカル、受託、その他となっています。イメージとして御社は試薬が主であるように思いますが。
A:その通りでして、試薬関係が売り上げの60%、他に受注、化成品・ファインケミカルといったところです。試薬も有機薬品が主で、カタログ品のほか受注しているものもあります。特に医薬品関係では、継続的に年数トン規模で出しているものもあります。
2008年〜2009年版試薬総合カタログ

Q:カタログを見ると試薬の種類が実に多く、そろえるだけでも大変と思います。
A:カタログには18000種の品目が載っています。これは2年に1度改訂されますが、そのたびに700〜800品目が新製品として加わります。

Q:どのような試薬を新しく加えるか、それはニーズによるのでしょうか?
A:大学の研究室とタイアップしながら加えることもありますし、また必要と思われるものを狙って、ということもあります。
 非常に沢山のカタログ製品ですから、10年間ほとんど売れないというものもあります。しかし新たなニーズが出てきたときに、改めて合成するのは大変なことですし、特異な薬品を豊富にそろえる事で、お客様のニーズに短時間に対応すべく多くの在庫を持っています。社内には学術部があって、カタログつくりを担当しています。

Q:試薬つくりには、研究という面もあるように思います。
A:研究者として博士号を持つ人もいますし、顧問の先生もおられます。

Q:ホームページに有機色素の話が出ていたのですが、有機色素を例にどういう狙いでどのように試薬を作っていくのか、お話願えませんか?
A:ユーザーが必要とされるだろう一連のシリーズものとして、ラインナップしています。最初は使われなくて、在庫を抱えてしまうリスクもあります。試薬量としては、せいぜい5〜10リットル。顧客ニーズによりスケールや製法も変化していきます。技術が進んで純度を上げたら発色しなくなった等の泣けない話もあります。

Q:試薬によって、随分、量の大小があるように思いますが。
A:極微量のもので、利益の出ないものもあります。しかし社長が「試薬を通じて、社会に貢献する」という方針を出しておられますし、試薬メーカーとして責任を果たす意味で、さまざまのスケールで揃えています。
18,000を超える製品の品質保証には総合的な知識、判断力が必要とされます。

Q:とてもよいお話をお聞きしました。ところで開発費はどれくらいになるのでしょうか?
A:私どもは社員300人、そのうち技術系は100人くらいです。開発には必要があれば投資する方針です。
 今は海外にも事業所があり(アメリカ、ベルギー、上海)、営業所も含めると6カ国にまたがります。

Q:試薬の最近の動向はいかがでしょう?
A:今注目の医薬・電材用の試薬も作っています。

Q:液晶や有機ELについてはいかがでしょう?
A:いずれも少量は作っています。他にヒアルロン酸も作っています。生物学的に調製された当社のものは、劣化が遅くて長く持ちます。
 先駆け的に新しいものも手がけますが、試薬メーカーとして実験者に対する供給を第一義として考えています。

Q:御社の特別な技術がありましたら、お差し支えない範囲で。
A:最先端よりも試薬のデパートとして、様々の設備をスケールと共に持っていることが特徴であり、強みと考えています。

Q:特許管理については?
A:試薬は販売量が少ないので、特許はあまり意味がないように思います。

Q:産業全体の中での試薬産業の位置づけというと、応援型、というように思えます。
A:そのようにとっていただけると嬉しいですね。試薬産業の中では、有機に特化した少量多品種ということが特徴と思います。

Q:最近の資源高、エネルギー高の影響はいかがでしょう?
A:他業種と同様に石油由来原料が殆どであり、困っています。継続的に販売しているモノは特に困りますね。コスト低減は難しいです。

Q:事業所をつくばにもっておられるのは、何か意味があるのでしょうか?
A:営業所をつくば市に開所 していた関係で、茨城県の誘致策で15年前にこちらに来ています。
東京化成工業(株)つくば事業所 (筑西市)

Q:最近の国際化の流れについては、どのように見ておられますか?
A:海外メーカーだけでなく、国内他業種メーカーの参入もあり、しのぎを削っています。力を蓄え、外に展開する時期と考えています。

Q:今後の事業の進め方についてお聞かせ下さい。
A:この事業所の話になりますが、日々新しい薬品が開発される中で人材育成が会社の維持発展に大切と思っています。

Q:どうもいろいろ面白いお話を有り難うございました。アカデミーをこれからもご支援下さい。テクノロジーショーケースにもご参加いただければと思います。
A:このように来ていただいて嬉しく思っています。テクノロジーショーケースなど、本社にも伝えるようにいたします。


(印象)
 化学系の大学、独立行政法人、企業の研究室は、どこでも試薬に囲まれています。化学という学術分野そして化学関連産業・素材産業は、試薬によって成り立っていると言って過言ではありません。東京化成のお二人の話の端々に、化学を支える誇りを垣間見ることができます。「試薬を通じて社会に貢献する」という社長のお言葉にも、そういった心意気が感じられて共鳴するところ大です。
 そうは言っても、企業である以上適正な利益は生むべきですし、それをもとに、アルドリッチのような世界的企業とも競争してもらわなければなりません。従業員の中には博士号を持った研究者もおられるとのこと、純度の高い試薬を安く供給してもらうためご奮闘いただきたいと思います。
 それにつけても、つくばの大学、研究所との交流は、試薬の新しい展開を展望するためにも大切なことと思います。東京本社を通じて大いに交流していただきたいものです。(溝口記)

(参考)
東京化成工業株式会社 ホームページ
http://www.tokyokasei.co.jp/


[ 一覧へ ] [ ホームへ ]
Copyright (c) Science Academy of Tsukuba. All Rights Reserved.