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第24回:日京テクノス(株)
日京テクノス(株) つくば営業所建物外観

 日京テクノス(株)は旧社名が日京製作所です。私(溝口)が現役の研究者であった頃(旧繊高研)、今から30年も前のことですが、日京製作所の営業マンの方が研究室に何度も足を運んでくれていました。恒温槽であったか小さな装置を購入した記憶があります。今回、SATの賛助会員になって下さっているとのことで、ホームページを一覧したところ、単にディーラーであるだけでなく、NEDOや科学技術振興機構のプロジェクトに参加するなど、積極的に機器開発に取り組んでおられるようです。機器開発に乗り出したのはいつ頃で、きっかけはどういうことだったのでしょうか?現在はどの分野に力点を置いておられるのでしょうか?
 平成22年3月5日、同社つくば営業所をお訪ねしました(溝口、野上)。同社からは、根岸社長、関常務にお付き合いいただきました。
 最初のご挨拶で驚いたのですが、前述の営業マンが根岸社長だったのです。社長も私の顔を覚えて下さっていたようで、久闊を叙しながら、Q&Aに入りました。Q&Aは主に根岸社長と溝口の間で行われ、関常務にもところどころ加わっていただきました。今回は、いつものSAT紹介は最後に行われました。


(Q&A)
Q:30年前の科学機器営業マンと、ここでお会いできるとは思いませんでした。どうぞよろしくお願いします。早速質問ですが、まず会社の規模、売上高などについてご紹介ください。
A:年商約40億円、バイオ関係が主でしてバイオ70%、ノンバイオ30%です。

Q:ホームページを見させていただくと、御社は単に科学機器のディ−ラーというだけでなく、周辺機器の開発も行っておられるようですが。
A:機器開発といっても、今のところはまだ売り上げの5%程度で、商社機能が95%を占めています。しかし、外国の製品の情報に上手く乗せられ、非常に高いものを買わされている、という感がありました。
 ディ−ラーはお客様に近いため、肌理細かなニーズを把握することができます。このニーズを具体化させようと言う意気込みが、周辺機器の開発に繋がっています。

Q:取扱商品の主力はバイオのようですが、そのようになった出発点は?
A:私(根岸)はこの会社に入ってすぐ、東大の駒場と近くの東京教育大学(筑波大学の前身)農学部が担当となり、生化学の研究室に出入りしていまして、当時の先生方・学生さんとは随分親しくしてもらいました。つくばの営業所に転勤になったのも、教育大農学部のつくば移転がきっかけです。私が転勤するときには、駒場の皆さんが歓送会まで開いてくれました。
 このときの学生さんたちが、後に立派な研究者としてつくばで活躍しておられます。バイオテクノロジーという言葉が定着したのは25年位前と思いますが、こういうことが縁でバイオとともに育ってきたという想いがありますね。

Q:バイオが主であるとして、機器開発に乗り出されたきっかけは?
A:会社の理念として研究者が満足できるものを提供したいと考えています。 メーカー指導の自動化には限界があります。お客様が、メーカーの装置に合わせて実験を進めることになってしまいます。この手作業を自動化できないか、この分注の精度を上げられないか、高速化できないか、等のニッチな要求に対して、一般的なメーカーではこういうことまでは対応しきれない、当然のことだと思います。このニッチな部分を埋めていく必要性(要求)に迫られ、機器開発を始めることになったのがきっかけです。
 このような考えで取り組みだしたのが、私が社長に就任して間もなくの時期で、8年くらい前になります。結果的に研究者とのコラボレーションに成功し、世界最速、世界初の製品を多く生み出すことになりました。
液体中の溶存気体を脱気する脱気ユニット

Q:お考えは良く分かるのですが、日本では科学機器の代理店(ディ−ラー)がメーカーをかねるという例はあまりないように思います。
A:無いと思います。過去にもありませんし、これからメーカーを始める代理店も無いでしょう。
 日京は創業96年の歴史がありますが、将来的には代理店(の必要性)がなくなるのではないかとの不安もあり、ニーズを反映した物作りを始めることで新しい代理店の形を模索しているところです。

Q:ノンバイオ系ではいかがでしょうか?
A:ラボスケールの脱気装置の開発があります。20年程前になりますが、当時NECの関本社長が、NHKの番組で「半導体の洗浄水は、含まれる有機物よりも、溶存酸素が問題になる」との提起をされていました。これがヒントになり脱気装置の開発に着手しました。ニュートリノ(小柴先生)の研究にも脱気の技術でお手伝いさせて頂いたんですよ。

Q:ニッチかもしれませんが、大切なところに目をつけておられると思います。
A:日本の職人的な技術が活かされていない、海外に負けたくない、そんな思いが根底にあるのです。
 一般論になりますが、技術の継承は大切です。ところが仕事が無い、技術者の高齢化が進むということで、若い人は町工場で技術の習得ができない。 また、定年になられた研究者の方は高いレベルの知識・技術を持っておられる。こういう方々をうまく使って技術継承の場を作る、そういうことが大切だと思います。閉校になった学校を利用してオープンラボを設ける、このとき国の補助があってもいいように思います。当社でも、ベテランの方々の力を大いに活用しようと考えています。
質量分析計へのサンプル分離・導入用装置NANO HPLC CAPILLARY COLUMN

Q:国家的なプロジェクト研究にいくつか参加しておられるようですが、どのようにして参加されたのでしょうか?国家プロジェクトへの参加は簡単ではないと思います。
A:総合的な開発力・技術力を評価されたこともあり、様々なプロジェクトに参画しています。例えば、タンパク3000プロジェクトにおいて、高エネルギー加速器研究機構構造生物学研究センターでも大規模なタンパク質の構造解析が行われていました。このプロジェクトを推進するためにも結晶化条件検索システムの開発が急務でした。また、この開発には世界最速との条件も付加されました。非常に厳しい仕様でしたが、装置を完成させることができました。「大規模タンパク質結晶化システム」の共同開発を行い、平成16年7月にプレスリリースされました。
 また、エーザイ(株)とのNEDOプロジェクトで「バイオインフォーマティクスと融合した、先進プロテオミクスプラットフォームの創造」の共同開発に参画させて頂き、5件の特許を出願することができました。

Q:NEDO共同研究で開発された機器の販売が始まっているとのことですが、具体的には?
固相抽出チップ SPE C-TIP

A:ここにカタログがありますが、主力機器としてゲルピッカーやゲル内消化装置があります。既に製品化され、販売実績もあります。
 C−TipとNanoLCキャピラリーカラムは前処理用の消耗品になります。
C−Tipは、チップの先端にシリカ充填剤が重層されたテフロンメンブレンが充填された固相抽出チップであり、サンプルの濃縮・脱塩を行います。
C−TipはNature Protocolで掲載されています。
 NanoLCキャピラリーカラムは、先端部に充填剤が詰まらないように、微小な充填剤がブリッジを形成しているカラムです。
 分離の向上と感度の向上を目的として、Nano Flow HPLCを分離系に採用するケースが多くなり、このキャピラリーカラムは多くのお客様にご使用頂いております。
 また、これらの製品は海外にも輸出され、非常に高い評価を頂いております。バイオ関連の製品が輸出されて、外貨を得ているのは稀なケースではないでしょうか。

Q:興味深いお話です。こういうものの開発は何人くらいでやっておられるのですか?
A:弊社の開発要員は、最適な自動化のために装置の構築をしている担当者が一人、実験担当者が一人で、合計2名だけですが、協力体制にある技術者の方々が多数サポートしてくれています。

Q:よくやっておられますね。経営理念として、「さまざまな分野の技術者とインターフェイスの役割を担う」とうたわれています。具体的にインターフェイスの役割を担っている例がありましたら。
A:タンパク3000プロジェクトへの参画が、最たる例だと言えます。「大規模タンパク質結晶化システム」の開発を行うにあたり、バイオとは全く無縁の、シリコンウェハ搬送ロボット、精密測定、半導体洗浄、粘着フィルム開発、プラスチック成型、等の専門企業に参加頂き、この装置を完成させることができました。しかし、インターフェイス役が、非常に大変であることも痛感しました。

Q:事業内容に、実験設備の設計・施工というのもありますが。
A:産総研の糖鎖医工学研究センター立ち上げには、徹夜でお付き合いしたこともあります。やはり、研究を応援したいという気持ちがあるのですよ。我々の業界は研究者の担い手です。
 ディーラーとしての営業の仕方も変わってきています。カタログだけで注文がくる、お客様の方から「こういうものが欲しい」、などというような話しはどんどん減ってくるでしょうね。

Q:御社の外国製品の売り上げはどうなっているでしょうか?
A:半分以上、60%くらいです。バイオ関係がメインですね。日本の分析機器メーカーでは、島津、日立、JEOLの3社になりますが、それぞれの販売戦略がまったく独立しています。3社が団結して外国に輸出していくという意気込みがあってもいいと思います。

Q:ホームページに出てくるDRCというのは?
A:元々電気泳動用ゲルの事業部だったのですが、現在は子会社化しています。

Q:つくばでの売り上げはどの程度でしょうか?関西に営業所は無いのでしょうか?
A:つくばでは35%くらいです。関西では、協力して頂ける代理店に情報を提供して製品の供給をお願いしています。

Q:最新情報の提供ということもうたっておられますが?
A:その研究者に関係ありそうなニュースを知らせるようにしています。
最近は皆さんお忙しいので、御用聞きは歓迎されませんし、会話も無くなっています。待っていてはダメですね。根岸さんがくると情報がくる、という感じで、当てにしてくれる人もいます。技術営業というのでしょうか、今はそういうものが必要になっています。

Q:外国企業との取引は、最初は大変だったのではありませんか?
A:最初のお取引はミリポア(純水装置メーカー)社です。担当者の方と気が合ったこともあり、問題は起きませんでした。バイオがブームになるころで、輸入品が市場を席巻していました。ミリポアをきっかけに、多くの外資系企業とのお付き合いが始まりました。
溝口コーディネーターに会社の概要を説明する根岸清代表取締役社長、関悦夫常務取締役(写真左から)

Q:外国人社員は?
A:外国人社員はおりません。そろそろ海外の販売網を作ってもよいかもしれません。

Q:機器開発で頑張っておられるようですが、社員数と業務は?
A:技術系は先の話のように2名、事務10名、営業28名、純水関係3名です。将来的には、開発と営業を50:50にしたいと思います。それと、定年後の研究者の方々に入ってもらいたいと考えています。これからは、機器開発を進めていかないと、利益が出せない時代になると思います。

Q:最後にアカデミーへのご注文がありましたら。
A:筑波からは企業研究所の撤退が進んでいます。話を聞くと、どうもあまり交流が無いということらしい。パイプ役をしっかり務めていただきたいですね。

Q:本日は長時間お付き合いいただき、有難うございました。今後も賛助会員としてご支援、よろしくお願いいたします。ショーケースにもぜひご参加ください。「知の触発」研究会という新しい研究会の立ち上げを検討しているのですが、こういうものにもお付き合いいただきたく思います。
A:交流会には、前向きの人は出てきます。私も情報を得たいと思いますし、特に懇親会には出るようにしています。

(溝口 記)



(感想)
 今回の訪問は最後のSAT紹介を含め、2時間近くになってしまいました。思いがけないことに、根岸社長と30年ぶりにお会いしたということで話が弾みました。旧知の方にお会いするのは嬉しいものです。話の中で、社長は「研究を応援したい、日本の技術を大切にしたい」と、何度も繰り返しておられました。科学機器の商社はどこでも、研究の応援、という気持ちをお持ちだ思うのですが、実際に現場の研究者とコラボして、必要な資材を作ってしまうというのは応援の一つの極限といえると思います。それは一方で商魂のたくましさでもあるのでしょうが、いずれにせよ日京テクノスの姿勢には感銘を受けました。必要は発明の母、ということでしょうか、HPLCキャピラリーなど、つくばからの発信例としても良い話であると思います。
 「定年後の人材を活用したい」というお話にも、共感するところ大。機器開発には、広い分野の人材の力を借りることが必要でしょう。つくばはその意味で人材の宝庫、現役のときに比べれば、OBの方は時間の余裕があると思います。積極的に応えていただきたいものです。

(溝口 記)


(参考)
日京テクノス株式会社 ホームページ
http://www.nikkyo-tec.co.jp/


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