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第25回:ペンギンシステム(株)
ペンギンシステム(株)執務中の社内の様子

 ペンギンシステム(株)はソフトウェアの会社、数年前からつくばで頑張っておられます。ソフトというと、私(溝口)も現役時代、微分方程式や代数計算などのプログラムは作ったことがありますが、現在ではワープロや表計算ソフト、通信用ソフト、ゲームソフト、動画ソフト・・・と、非常に複雑そうで、とても近づけないような気がします。ペンギンシステムでは研究支援ソフトの開発を中心にしておられるようですが、そもそも研究支援ソフトとはどういうものなのでしょうか?そのイメージをクリアに把握し、できれば学術間、産学間連携のきっかけを提案できるようにしたい、そんな思いでインタビューをお願いし、平成22年5月31日、つくば研究支援センター内の同社をお訪ねしました(溝口、野上)。同社からは、仁衡社長にお付き合いいただきました。
 最初に事務局長からSATの概略を説明させていただき、合わせて6月25日開催予定の「第4回賛助会員交流会」を案内させていただいて、Q&Aに入りました。


(Q&A)
Q:最初に事業内容について、簡単にご説明ください。その前に、私から見た企業イメージは「業務支援ソフトの開発」ということですが、そういう理解でよろしいでしょうか?
A:イメージとしては、業務支援というより「研究者支援ソフトのオーダーメイド開発」というようにご理解いただければと思います。事業内容としては、ソフトの設計開発が90%程度、残りはシステム運用業務と販売代理店業務を行っています。

Q:東京で創業された会社ということですが、その後「筑波への本社移転」をされた意味についてご説明ください。
A:私どもは創業28年目を迎えていますが、独立資本で28年というのは、この分野では古い方です。創業時は東京・神田でした。当時も研究所業務もやっておりましたが、在庫管理ソフトなど、それこそ業務支援ソフトのようなものも作っており、いわゆる「何でも屋」で特に特色というものはありませんでした。
 2006年に私が社長になったのですが、「何でも屋」的ですと競争が激しく、利益が十分に出ない状況で、やや経営的に厳しい状況でした。さてどうするか、業務の「選択と集中」を行い、特色有る企業に脱皮したい、というときに、数ある業務の中で「つくばでの専門性のある研究支援ソフト開発」が光って見えたのです。研究者支援ソフトは腰を据えてじっくりやれる、そして仕事を面白いと思うことも多いですし、長期のプロジェクトの場合は比較的安定した売上も得られます。
 ほかの様々な業務を敢えて捨てて、研究者の持つデータをいかにわかりやすく処理・解析・可視化して世の中に出すか、そこに集中することにしたのです。このときにつくばに移転し、第二の創業、と位置付けた次第です。そしてこの4〜5年かけてようやくつくばの地にもなじんできたように思います。
 第二の創業という事でいえば、茨城・つくばになじむということがその第一フェーズ、共同で仕事をし、新しいものを作り出して提案する・脱皮する、それが第二フェーズになると思います。そのタネはできてきています。

Q:ペンギンという社名の由来は?
A:創業した28年前、ITやパソコン関係ではIBM,MACのようにアルファベット3文字の会社が多く見られました。これだと何だか意味がわからない。親しみのもてるもの、できれば動物ということでペンギンが選ばれました。ペンギンは、愛嬌もありますし厳しい条件でたくましく生きている、我が社もそんな企業でありたいと考えての選択でした。

ペンギンシステム(株)のロゴマーク

Q:ペンギンのPがprogramのPとか思ったのですが、そういうことではないんですね。
A:そうなんです。スペルに特に意味があるわけではありません。

Q:現在の業務の力点はどの辺りにあるのでしょうか?
A:私どもは、常に面白いことにチャレンジをという姿勢でいます。そのため、面白いことをいつも探しています。また、Windows用のソフトも勿論作りますが、研究所でよく使われているUNIX、Linux、MacOSなど多様なOS向けの仕事をしています。具体的な業務で言いますと人工衛星関連で15年くらい、放射線医療関連で5年くらいやっていまして、いずれもやりがいがあり大きな柱になっています。

Q:話がそれるかもしれませんが、研究支援の意味について、ちょっと議論させてください。私は大学院のとき、懸濁重合の研究をしていました。これは小さな液滴の中で重合反応をさせる方法で、最後は透明な固い粒子になるのですが、途中でだんだん高分子ができてきて液滴の粘度が高くなる、そうすると液滴同士が固まって操作が不安定になる。どういうときに粒子が固まるのかということで、途中でサンプリングして顕微鏡写真をとり、粒子の大きさを一つ一つ測って粒子径分布を調べる。粒子が重なり合ったりして粒子径を一つ一つ測るのは大変でして、粒子径分布の測定法や粒度分布解析法があると良いのにな、とよく思ったものです。研究の本筋ではないのですが、こういった測定法や解析プログラムの開発も非常に大切でして、実際、後になってこれらは両方とも開発され市販されています。
 研究支援というのは、こういうときに助けてくれる仕事であり、解析プログラムがソフトであると思うのですが、いかがでしょうか?

A:まさにそういうことだと思います。お話を聞いていて驚いたのですが、私どもでも、微粒子測定支援ソフトを丁度今、作っております。
 こういうことで困っているという話が、研究支援ソフトの出発点です。研究者が研究そのものに集中できるよう支援する、それが私どもの仕事です。

Q:研究支援というと、相手先の研究内容が良くわかっている必要がある。そのたびに勉強しなければならないし、これはなかなか難しいのではないでしょうか?
A:専門書等で予習するなどの努力をしております。その上でわからないことは素直に聞いて教えて頂くようにしています。スタートアップの時点ではこちらが門外漢のために研究者の方にもご説明のお手間を頂いてしまうこともあります。ただ「同じことを二度は聞かない」ということを心がけております。そのうち内容もわかってくる。システムを作るための土台として研究者の言うこともわかってきます。
 また、研究内容が多種多様だといっても、バラバラのようでどこかでつながることもあります。たとえば放射線医学総合研究所で重粒子線での研究・治療がありますが、筑波大学では陽子線をやっている。産総研で第一原理計算の仕事をしたら、筑波大学計算機センターの大規模第一原理計算の仕事につながりも感じますし、KEKや物材機構でも同様の業務があり、つながります。

(独)放射線医学総合研究所で行われている高度先進医療「固形がんに対する重粒子線治療」を支えるべく、どこに放射線を照射するかを決めるための治療現場用ソフトウェアを開発しています。

Q:大切な仕事をしておられて、支援というより共同研究というようにも思われます。連名発表や特許出願ということはないでしょうか?
A:受託ではなく、共同研究になることもあります。それが先ほど申しました「第二の創業第二フェーズとして考えている共同開発・提案型企業への脱皮」の実現であると考えております。実際、昨年からKEK(高エネルギー加速器研究機構)と一件、共同研究を実施しております。

高エネルギー加速器研究機構と共同研究開発している「量子ビーム検出器向け解析・可視化ソフトウェア」

Q:「固形ガンに対する重粒子線治療」を例にとると、具体的にはどういう形で研究支援するということになるでしょうか?重粒子線の強度コントロール技術など治療方法に近いところまで考えるとなると、既に支援というレベルではないと思いますが?
A:いえ、治療方法に近い部分のアルゴリズム、機能のイメージなどはやはりあくまで先生に考えて頂きます。その機能設計・分割・プログラム化・高速化・判りやすい表示などを我々がやる。やはり本筋ではなく、支援です。

Q:人工衛星関係のお仕事では?
A: 人工衛星関連では過去何件かお仕事させていただいておりますが、データをシステムに取り込む部分や、データベース部分、データ処理を制御する部分、観測結果の可視化などを担当してきました。

Q:ホームページに出ているPV-WAVEとはどういうものでしょうか?
A:これは可視化用のプラットフォームで、研究者に多く使われており、これを使うとデータの可視化を行うことができます。私どもはPV-WAVEの販売代理店をしておりまして、本業の開発業務との相乗効果を狙っています。

Q:言語としては何をお使いでしょうか?
A:プログラム言語として特定のものにこだわりすぎないようにしています。JavaもFortranもCもBasicもPerlもPythonも…なんでも使います。データ処理はFortranで、制御はCで、表示部はPythonで・・・それでまとめてシステムとするといった感じで、一つのシステムにおいて複数の言語を使うこともあります。

Q:実際のソフトウェア開発の進め方はどのようにしておられるでしょうか?
A:つくばに立地していることを強みに、頻繁に打ち合わせます。仕様書を出してもらって終わりということにはなりません。むしろお話をお伺いした上で、仕様書はこちらで用意し、それを確認して頂く様にしています。そういうことを繰り返して、スパイラルアップで良くしていく。発注者と請負というより、共同して仕事を進めるという姿です。

Q:そういうことのためのベースの技術は?
A:私どものところでは、どんな研究でも十分打ち合わせてソフトを作り上げていく、研究者のイメージの具体化に貢献します。そういう姿勢こそがベースといえると思います。

Q:あるテーマでの開発期間はどれくらいになりますか?
A:研究の内容によりますね。短いものは3週間、長いものでは6,7年ということもあります。

Q:コストについてはいかがでしょう?お答えになりにくいかもしれませんが。
A:コストはすべて人件費と考えていただいてよいと思います。実際のコストはテーマによります。システムの一部だけ作るということもあります。

Q:ソフトウェア開発で現在困っていることは?
A:これはできない、ということはありません。目を通す論文内に記述された数式そのものがわからないということはありますが、プログラム作成上は大きな問題にはなりません。

Q:そういうお仕事をどれくらいの陣容でやっておられるのでしょうか?
A:正社員は12名でそのうち事務が1名です。その他契約社員が4名ほどおりまして、全体として技術職としては15名ほどになります。
溝口コーディネーターに会社の事業について説明する仁衡琢磨(にひら たくま)代表取締役社長(写真右)

Q:理系の社員が多いですか?
A:特に理系に偏っているということはありません。「プログラム言語」と言いますように、プログラムは「言語」なので文系の人も向いている部分があります。

Q:これからの事業展開はどのように考えておられますか?
A:これからも現在行っている「柱」の業務は大切にしたいと思っています。人工衛星関係と放射線医療関係などですね。それから先ほども申しましたように、KEKで開発されている画期的な放射線検出器向けのソフトを共同で開発しているのですが、多少持ち出しになっても、次のステップにしたいと思っています。

Q:営業については?
A:もっとアピールしていかなければいけないかな、と思っています。営業面では、コーディネーターさんのお世話になることもあります。

Q:海外展開というか、国際化への対応はどのように考えておられますか?外国人プログラマーを雇用するとか。
A:ソフトの会社で海外にアウトソーシングしているところは多いですね。ヒエラルヒーと分業制というのでしょうか、システムエンジニアリングは国内で、プログラムは国外でというわけです。私どもではそういうことはやっていません。研究支援ソフトは、先生方との頻繁で綿密な打ち合わせが必要で、実際上分業できないのです。
 逆に、アウトソーシングでなく、世界で使えるソフトを海外販売することは視野に入れておきたいと思っています。

Q:つくばの国立研究機関との交流は進んでいるようですが、民間企業との交流はいかがでしょう?
A:民間からは研究所も勿論、工業団地内の企業から受注することもあります。

Q:長い時間お付き合いいただき、有難うございます。これからも賛助会員としてSATをご支援ください。最後に、つくばでの交流・連携、あるいはSATへの期待などについてコメントをいただけませんか?
A:ショーケースには3年連続で出させていただいています。アピールになるし勉強にもなります。SATフォーラムでの小林先生のお話も面白かった。折に触れて、つくばの研究者の成果もSATフォーラム等で聞かせていただきたいと思います。


(感想)
 ソフトウェアの会社を訪問するのは初めてのことでして、十分なインタビューができるかどうか、ちょっと心配しながら出かけたのですが、2時間に近いインタビューで、研究支援の意味、あるいは支援ソフトの意味がクリアになり、個人的にも良い経験になりました。
 第二の創業ということで、研究支援ソフトに特化し、つくばで地道に実績を積み上げてきたという事実は、それ自体たいしたものだと思いますが、まったく知識がない専門分野でも積極的に挑戦し、同じ質問を繰り返さないくらいに勉強するという姿勢には感銘を受けました。仁衡社長は「あくまで支援です」と謙遜しておられましたが、お話を伺っていると、支援を通り越して、実質的な共同研究になっているケースも多いように思えました。また、ある分野で開発されたソフトが、ほかの分野にも適用できる、という可能性も見て取れました。ソフトウェア開発は、広い分野を横断的に見るという役割を負っているように思えます。これからもSATに積極的にお越しいただき、交流・連携のひとつの核としてご活躍いただきたく思います。

(溝口 記)


(参考)
ペンギンシステム株式会社 ホームページ
http://www.penguins.co.jp


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