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第39回:(株)エア・リキード・ラボラトリーズ
 (株)エア・リキード・ラボラトリーズは、国際的な産業ガスメーカー(フランス系)の日本における研究開発機関です。日本での産業ガス売り上げはどうなっているのか、国際企業として今後の展開はどのように考えているのか、非常に興味深いものがあります。
 平成26年10月27日、北部工業団地の同社をお訪ねしました(渋尾事務局長、溝口)。ご対応は、飯田社長と横田マネージャーです。
 あらかじめお送りしておいた質問票に合わせ、PPTをご用意いただいており、横田マネージャーからわかりやすいご説明がありました。途中、飯田社長にもお加わりいただき、技術面にも踏み込んで、有意義な議論をさせていただきました。
 以下、Q&Aです。

Q:最初に、事業内容、主事業、規模、従業員数などからお願いいたします。
A:エア・リキードは国際企業でして、1902年にフランスで設立され、現在は世界80か国で事業展開、売上高約2兆円、従業員は5万名以上のワールドリーダーです。日本国内でも、主要大手の一角を占めています。
 日本には1907年に進出、帝国酸素、テイサン、日本エア・リキード、その後大阪酸素工業との合併により、ジャパン・エア・ガシズとなり、2007年に再度社名を日本エア・リキード株式会社にしておりますが、100年以上日本におけるビジネスを継続しています。

Q:そうすると、世界の中での日本の位置づけというか特徴はどういうことになりますでしょうか?
A:日本ではエレクトロ二クス関連のガスビジネスが多いのが特徴です。エレクトロニクス事業の売り上げに占める比率はグループ全体では約8%ですが、日本では約4割を占めています。エレクトロニクス用材料ガスはつくばが発祥の地でして、分子設計からやっており、かなりの強みを持っています。
あらゆる業種にガスを供給  (日本エア・リキードHPより)

Q:国内で見て、産業ガスのうちで売り上げが一番大きなものは?
A:窒素、酸素、水素、アルゴン、ヘリウムですね。

Q:ヘリウムガスが一時期品不足になりましたが、それはなぜだったでしょうか?
A:ヘリウムガスは、実は石油・天然ガスの副産物なんですね。ところがシェールガスが出てきた。こちらにはヘリウムが入っていないのです。世界的にシェールガスの需要が多くなるなど、そうした要因により品不足になったというわけです。この状況に対して、昨年弊社はカタールに世界最大のヘリウムプラントを立ち上げ、安定供給に努めております。

Q:窒素/酸素の分離は、やはり深冷分離によるのでしょうか?一種の蒸留法なので、100%分離は難しいように思います。例えば膜を使うとか、その他の方法はとられていないでしょうか?
A:膜や吸着法も検討対象です。これはプロセス全体で考えるべき問題と思っています。

Q:プロセス全体で考えるべき、というのはよくわかります。窒素/酸素分離では、かなりの量が扱われるでしょうから、膜や吸着を組み込むには、分離性能の向上あるいは大型化がネックになるように思いますが、いかがでしょうか?
A:おっしゃる通り分離性能と大型化が膜や吸着分離ではネックになってきます。お客様より求められる窒素//酸素は高純度・大流量となりますので深冷分離法がガス製造会社として最も効率が良いと考えています。ただ、小流量・低純度の窒素用途があれば、膜分離の適用など当然考えられると思います。

Q:クリプトンやキセノンなどのレアガスについてはいかがでしょうか?
A:クリプトン、キセノンは、いまのところロシアや南アから入手しています。これらは空気中に微量含まれているため、窒素/酸素の製造時に回収されるのですが、よほど大型のプラントでない限り十分に取れません。クリプトン、キセノンを大量に使用するはっきりした目的があれば別ですが、窒素/酸素分離の効率化の方が弊社としてはインパクトが大きくなります。

Q:半導体用のガス、CVD/ALD(原子層堆積法)用のガスは種類が非常に多いように思われます。また純度も必要でしょう。こういうものは自家製造なのでしょうか?
A:多くは製造しており、品ぞろえは世界一と自負しています。一定の製品群は我々独自の分子設計からきており、これらのスペックは世界的に統一されつつありますね。

Q:スペックの統一・標準化が進むと、コスト面など競争が激しくなるような気がしますが・・・。
A:やはり厳しい世界です。特に半導体業界においては、世界中どの場所においても一定した品質を保っての供給が求められますので、世界規模で活動が可能なエア・リキードの強みを生かせると思っています。

Q:ガスのメーカーとして、燃料電池技術への期待は大きいのではないでしょうか?水素ガスについてはどのような対応をお考えでしょうか?
A:燃料電池自動車(FCV)が一般化されると、水素ステーションが必要になります。商用水素ステーションは、現時点での稼働は2基ですが、2014年度までの予算で合計41基の設置が決まっており、これから順次開所していく予定です。なお、政府目標として2015年度までの予算で100基を目標としています。エア・リキードとしては、水素ステーションの建設を通じて、水素社会の広がりに貢献することが重要だと考えております。

Q:医療はこれから重みが増してくると思われます。家庭用の酸素など、今後の対応については?
A:ヨーロッパでは、確かに進んでいますね。ホームケアということで、ガスとモニターが一体化して売られています。

Q:日本でもそういう流れがあってもよいように思いますが、むずかしいのでしょうか?医療機器としての規制があったりするのでしょうか?
A:各地域により医療機器の規制が異なるため、難しいのが現状です。特に弊社としてはホームケアのメイン拠点がヨーロッパにありますが、例えばヨーロッパで開発された製品をそのまま日本で使うことは出来ず、日本の規制にあった申請、改造が必要となってきます。
産業ガス・医療ガスの用途展開 (日本エア・リキードHPより)

Q:ちょっと話題を変えさせていただいて、最近の原料高について。
A:円安による輸入価格の上昇は、日本国内のみで考えた時には問題となりますが、世界的な規模からみれば、かならずしも原料高とは言えないのではないでしょうか。

Q:これからの事業展開、研究展開、とくに力点を置く分野についてお聞かせください。
A:一つには水素が大きいと思います。公的補助を受けつつ、水素ステーション建設に関与することが重要だと考えております。もう一点としては半導体産業向け材料ガス製造の強みを生かした、新たなアプリケーション開発に力点を置き、日本ベースで対応していくことを考えています。

Q:具体的にはお答えしにくいでしょうが、新しいガスについて、もう検討しておられるのですね?
A:はい。継続的に行っております。

Q:つくばにこのラボラトリーズを設けられた目的や効果については?
A:エア・リキード・ラボラトリーズは1986年に設立されました。その後90年代以降、広く産業界に使われるガスの開発を進めてきています。最近は少し手狭になり、移転について検討を始めたところです。

Q:手狭になっているというのは、新しい展開が始まる、また本社がそれに期待しているということと思います。素晴らしいことと思いますが、中心になるのは、半導体用ガスということでしょうか?
A:そうですね。半導体向けガスの強みを活かしつつ、新たな活動展開をするためにもより広い環境が必要になっていると考えています。

Q:つくば内の国立研究所とは、具体的に交流しておられますでしょうか?
A:今度NEDO及び経済産業省からの事業補助をいただくのですが、これが初めてのケースになります。

Q:こういう話ははじめてお聞きしました。簡単には言えないかもしれませんが、ぜひ一緒につくばを盛り上げる枠組みを作っていただきたいですね。それでは、一般論としてつくばへの期待を一言、お願いいたします。
A:パリでは、いろいろな分野の研究者たちが集まり議論するようなフリースペースがあり、活発に交流しています。そのような環境の整備を活発にしていただけるなら素晴らしいと思います。つくば市にも、積極的な活動を期待しています。

Q:SATへのご注文がありましたら。
A:今お話したことも含めて、積極的な旗振り役をお願いしたいと思います。

Q:若手研究者、ポスドクの採用については、どのようにお考えでしょうか?
A:アジア、特に日本人のドクター、ポスドクは積極的に採用したいと考えております。ただ弊社研究員の1/3以上が外国人のため英語が必須となります。英語への苦手意識からか、日本人の採用が中々進んでないのが現状です。

Q:最後になりますが、今後も賛助会員としてご支援をお願いいたします。テクノロジー・ショーケースにもご参加ください。
A:こちらこそよろしくお願いします。いきなり発表するのは難しいのですが、ショーケースには一度ぜひ顔を出させていただきます。


(感想)
 同社には2年ほど前に、入会のお願いで丸山総務委員長と訪問、結果的に飯田社長に入会をご快諾いただきました。国際的な産業ガスメーカー、特に、このラボラトリーズはフランス本社の直属ということで、そのときのお話が印象深く残っています。
 今回は、技術面を少し深くということで質問を用意したのですが、この訪問記を用意していると、いつものことながら、もう一歩の踏み込みが足りなかったかなと反省させられます。しかし、インタビュー自体は談論風発、非常に楽しく良い勉強になりました。
 手狭になったため、エア・リキード・ラボラトリーズとして、移転を含め検討しているという点は、国際的な企業が日本での研究開発に期待しているというあらわれであり、大変心強く思いました。具体的な展開については、ちょっと遠慮したのですが、今後に期待するところ大です。
 私はFCVに関連して、水素の比重が大きくなるように思っておりました。もちろんそれは今後の大切な課題ですが、同社は、それ以外に新たな半導体ガスへの展開を大切にしておられるという印象を受けました。
 飯田社長は、九州大学国武豊喜先生のお弟子さんのようで、国武先生の今年の文化勲章受賞を喜んでおられました。このご受賞はお弟子さんたちにとって、大きな誇りでしょうし、また励みにもなるのでしょう。著名な研究者のもとで、優秀なお弟子さんが育っていくのもムべなるかなと思われます。
(溝口記)

(参考)
日本エア・リキード株式会社 URL
http://www.jp.airliquide.com/ja/whoweare.html


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