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第41回:日清製粉株式会社 つくば穀物科学研究所
 平成27年6月19日、午後から出かけた日清製粉株式会社つくば穀物科学研究所(写真1)はつくばの北部に位置するテクノパーク大穂にあります。到着時はまだ雨が残っていました。晴れた日には筑波山が綺麗に見えるということでしたが、見ることは出来ず、残念でした。日清製粉グループは、私にとってはフラワー、お好み焼き粉、唐揚げ粉、ママースパゲティなどの印象が強い会社です。会議室には普段良く目にする商品に加えて、業務用の大きな紙袋に入った小麦粉や最近開発されたクッキングフラワーなどをご用意頂いており、当グループの商品の幅の広さには驚かされました。
(写真1) つくば穀物科学研究所
 事前にお願いしていました所内見学から始まりました。ご対応はつくば穀物科学研究所の早川克志所長、中村健治主任研究員です(SATからは渋尾篤事務局長と伊ヶ崎文和です)。小麦粉の各種成分の分析装置、DNA解析装置、小麦の粉砕装置、異物除去装置、小麦粉の二次加工性(製パン性、製麺性など)に関連した生地特性解析装置等の丁寧な説明を頂きました。見学の後、予め伝えてありました質問事項に沿う形で早川所長からパワーポイントを使って説明頂いた後、インタビューに入りました。
 小麦の製粉企業国内90社のうち、ナンバーワンの取扱量を誇り、粉体技術に関しても高い技術力を誇る日清製粉(株)らしく、自社での研究開発に誇りを持っていることを強く感じました。単なる製粉事業だけではなく、一般消費者の方々のニーズを解析し、パン、麺、菓子等を製造しているユーザー企業に新製品、新技術を提案をする、いわば提案型の研究開発・営業を行い、この中でつくば穀物科学研究所は、原料小麦、小麦粉製品の品質管理や製造、開発を支援する技術開発を担当していることがよくわかりました。
 またつくばの地の利を生かしての公的研究機関との連携・共同研究にも積極的です。つくばの公的研究機関に感謝しつつも、民間ではなかなか手が付けられないが、しかし将来的には大きな流れになるような領域の研究開発をしっかり実施して欲しいという要望は公的研究機関に働くものにとって、是非心に留めて頂きたい言葉と思いました。
 昨年SATに加盟頂きましてから、SAT事業にも積極的に参加頂いています(つくば穀物科学研究所は10数名の体制ですが、今年4月のSATサイエンスカフェにはつくばだけではなく、グループ本社からも参加頂きました)。今後も積極的に若手も含めて参加していきたいとのこと、満足頂けますように我々SATも努力しなければと改めて思いました。

 以下のインタビューの内容です。

Q:日清製粉株式会社の創業はいつですか。
A:1900年(明治33年)に群馬県に館林製粉として設立されました。1908年(明治41年)の合併を機に社名を日清製粉に変更しました。「信を万事の本と為す」と「時代への適合」を社是とし、「健康で豊かな生活づくりに貢献する」ことを企業理念と位置づけ、「企業は変化することによってのみ生存が可能となり、かつ発展を望み得る」との認識のもと絶え間ない自己変革を遂げてきた歴史があります。現在は日清製粉グループ本社の事業会社の一つです。

Q:グループ本社の体制について教えてください。
A:2001年7月に創業100周年を機に、分社化によるグループ体制に移行しました。日清製粉グループ本社を純粋持株会社として、製粉、加工食品、健康食品、バイオ、ペットフード、エンジニアリング、メッシュクロス等の事業を展開しています(図1)。製粉事業分野が日清製粉株式会社ということになります。
(図1) 日清製粉グループの体制

Q:日清製粉株式会社の概要をお願いします。
A:国際的リーディングカンパニーを目指す日清製粉グループの基幹企業で、小麦粉、ふすま、ベーカリーミックス、その他の加工品および関連商材の製造・販売を行っています。社員数は864名、売上は1,551億円(2014年3月現在)です。
 海外での製粉事業の拡大を進めており、現時点でカナダ、タイ、米国、ニュージーランドに10工場があり、環太平洋地域におけるネットワーク構築を行っています。一方、国内は函館から福岡までの9工場体制で小麦粉をユーザー様に提供させていただいております。開発は本社及び4テクニカルセンターで取り組んであり、一般消費者の方々のニーズを解析し、パン、麺、菓子等を製造しているユーザー様に新製品、新技術を提案させてい頂いております。いわば提案型の研究開発・営業を行っております(図2)。この中でつくば穀物科学研究所は、原料小麦、小麦粉製品の品質管理や製造、開発を支援する技術開発を担当しております。
(図2) 提案型の研究開発・営業

(写真2) 石釜で焼くナポリピッツァ店
Q:提案型の研究開発・営業の具体例をお願いしたいのですが。
A:三点紹介させていただきます。スーパー等で売られている冷凍麺は今では当たり前になっておりますが、アンテナショップを設け日本に紹介し市場への浸透を図ったのは当社です。二つ目はここ数年お馴染みになりましたナポリピッツァですが、石釜で焼くピッツァ店(写真2)を日本に広げたのは当社で、その専用粉、冷凍生地を提案・開発しました。三つ目はつけ麺を日本の食文化にという取り組みです。つけ麺に要求される強い麺を提供するということで麺屋さんと共同開発し、新規な小麦粉を提案いたしました。

Q:御社の小麦(粉)の取扱量および日本での他企業との比較についてお聞かせ下さい。
A:日本人の小麦の消費量は年534万トン(2013年)で、その86%は輸入です。国内に製粉企業は約90社ありますが、当社はトップシェア(約38%)を維持しております。

Q:つくば穀物科学研究所設立の理由・経緯についてお伺いします。
A:つくば穀物科学研究所は日清製粉株式会社の組織として、2007年つくば研究所を改組し設立されました。原料小麦、小麦粉全般、小麦粉二次加工品を対象とし、穀物科学分野での研究開発、生産・商品開発支援技術の開発及び研究を行っています(図3)。
 つくばには食品総合研究所、農業生物資源研究所、作物研究所、産業技術総合研究所、筑波大学など食品関連の公的な研究機関が多数あり、連携させて頂きながら当社の事業支援に必要な技術開発、研究開発を行うのに最適と判断しました。
(図3) つくば穀物科学研究所のミッション

Q:グループ内の他の研究所、たとえばグループ本社の基礎研究所あるいは生産技術研究所との関係(すみ分けや企業内連携)はどのようになっていますか。
A:まず、グループ内の研究所について概要を説明させて下さい。グループ内の事業会社はそれぞれ研究所を持っており、事業内容に応じた研究開発を担当しています。当研究所は日清製粉株式会社の事業貢献を目的に、原料管理、品質管理の開発を含む、穀物科学分野での基礎的な研究や生産・商品開発支援技術の開発を行っています。
 一方、持株会社であるグループ本社の基礎研究所、生産技術研究所は特定の事業会社に対応しているのではなく、グループ内の基礎となる中長期的な技術開発、基礎研究、業際的な領域の研究開発(例えばふすまの健康機能の解明など)に取り組んでおります。従って、同一課題を担当することはありませんが、必要に応じて日清製粉株式会社からグループ本社の研究所に研究委託、技術開発委託を要請することもあり、人的交流、情報交換を行っています。

Q:グループ内の研究所の統括・調整などはグループ本社の部署が行っているのですね。
A:そうです。グループ本社の研究推進部が担当しております。

Q:つくば穀物科学研究所の体制はどのようなものでしょうか?
A:グループ内の研究所全体で約300名います。そのうち10数名が当研究所所属です。

Q:現在の主たる業務はどのようなものでしょうか。
A:まず、小麦粉について説明させて頂きます。小麦粉はどれも同じように思われるかもしれませんが、パン用小麦粉は主に北米産の強力小麦を、麺用小麦粉は主に豪州産準強力小麦や国内産小麦を、菓子用小麦粉は主に米国産の薄力小麦を、パスタ用小麦粉は主に北米産のデュラム小麦をそれぞれ原料として製造されます。また、例えば同じ強力小麦でもその原料や挽き方により、小麦粉の品質が大きく変わり、パン、麺、菓子を製造する際の作業性や製品の食感などに影響してきます。そこで当研究所では、小麦(粉)・穀物(粉)の特性・性状解析およびそれらの用途・加工法についての研究や、製粉・製造にかかわる評価・管理に関する研究など、小麦を中心とした穀物の基礎・基盤技術の研究開発を行っています。
(写真3) GRLとの共同研究成果発表

Q:最近のトピックスについてお聞かせ下さい。
A:国の内外の公的研究機関と共同研究を行い、成果を国際学会、国際誌等に発表しておりますので3つ紹介させて頂きます。@日本穀物検定協会、農業環境技術研究所との共同研究で原料小麦の産地判別技術を開発しました。微量元素、重元素の同位体比を分析することによりある程度の小麦の産地判別が可能になりました。Aカナダの公的研究機関GRL(穀物研究所)との共同研究で、小麦の生育中の気温や降雨量による小麦の蛋白成分への影響およびその製パン性への影響を明らかにしました(写真3)。B国際小麦ゲノム配列コンソーシアムに農業生物資源研究所、京都大学、横浜市立大学、神戸大学と共に日本チームのメンバーとして参加し、21本ある染色体のうちの1本6B染色体の解明を進めました。

Q:外部機関などとの産学官連携は多いですね。
A:先程トピックスの中で述べました連携先の他、特につくばに研究所がある地の利を生かして、食品総合研究所、農業生物資源研究所との米粉に関する農林水産省委託事業への取り組みや北見農業試験場などとの共同研究も積極的に進めております。

Q:つくばに設立後7年くらい経過していますが、つくばの印象は?
A:食品に関する公的研究機関が多数あり、これらの研究機関との物理的、心理的な距離が近いので研究開発を行うのに非常に地の利が良いと感じています。また日頃これらの研究機関の方々にはちょっとしたことでも相談させて頂いており、大変お世話になっています。今後も連携をさせて頂ければと思います。民間ではなかなか手が付けられないような、将来的には大きな流れになるような領域の研究開発も実施して頂ければと思います。

Q:SATは異分野交流による「知の触発」による、新研究領域の創造、科学の啓発による次世代を担う若者の育成、研究成果の産業化・製品化などを支援する組織です。SATに昨年加盟して頂きましたが、SATへの要望をお聞かせ下さい。
A:公的研究機関を中心にして食品に留まらず、他業種の研究機関が多数集まっていますので、これまで交流のなかった様々な立場、様々な業界の方の話が直接聞けて非常に参考になります。異なる視点からのアプローチ等研究のヒントにさせて頂いています。今後、若手研究者にフォーラムなどに参加させて頂き、交流を深め、得た情報、得られたネットワークを研究所の業務に役立てられたらと思います。引き続き宜しくお願い致します。
異分野交流も企業と研究機関とのインターフェースを考えて頂き、交流が実りのあるものになるような工夫が必要かなと思います。

 SAT賛助会員交流会への参加等をお願いしました。協力致しますとの前向きな意向を頂き、和やかなうちにインタビューは終了しました。



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