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第1回:荒川化学工業(株)筑波研究所
筑波研究所外観(つくば市テクノパーク大穂内)
ロジン構造図

 野球好きの方はご存じと思いますが、ロージンバッグ、プロ野球の投手が投球の合間に時々足下の小さな袋を拾ってぐっと握ると白い粉が散って、それが滑り止めになるという、あの袋です。私(溝口)は子供の頃は野球少年でしたから、成人になってからも、投手がロージンバッグを握ってそのあとボールをキュッキュッと回している姿が、格好良く見えて仕方がありませんでした。
 前置きが長くなりましたが、荒川化学工業(株)はそのロジン(ロージンとのばさない方がよいようです)から事業展開している会社ということで、早速、同社筑波研究所を訪問させていただきました(事務局溝口、大枝の2名)。急なお願いにもかかわらず、谷奥所長、竹内主任研究員に気さくに話し相手になっていただきました。

 最初に、同社の事業内容について説明を受け、そのあと、事業・技術の展開について勝手にいくつか質問させていただきました。
 まずロジンについて。ロジンは松ヤニを精製したもので、原料はほとんど中国から輸入されています。その実物を見せてもらいましたが、透明黄褐色の固まりです。ロージンバッグからは白い粉の立つのが見え、頭から高分子粉末と思っていたのですが、ロジンは3つの環構造、共役2重結合、カルボキシル基を有する化合物で、温度が高くなると溶けてネバネバし滑り止めになる、また一つあるこのカルボキシル基のため、いろいろな誘導体が開発され用途も広いとのことです。

Q:御社は最近まで、荒川林産化学という社名であられたと思うのですが?
A:その通りです。当社は132年前、生薬商を開業、その後ロジンとテレピン油に注目、それ以来、紙の強化・にじみ防止剤、塗料用溶剤、接着剤などロジンすなわち松ヤニをベースに事業を展開しています。創業100周年を契機に現在の荒川化学工業に社名変更しました。現在はロジンの「リサイクル可能な天然資源」という位置づけで、用途開発の研究も進めています。

Q:ロジン・松ヤニと言っても、随分用途が広いですね?
A:ノアの方舟の木と木のすきまを埋めるのに使われたという話があるくらいで、大昔から広く使われています。天然由来素材のため安全性も高くロジンをエステル化した化合物がチュウインガム素材としても使われています。

左から竹内主任研究員、谷奥所長
Q:電子材料としても使われるというお話ですが?
A:ロジンは昔から、ハンダ付けのフラックス(融剤)の一成分として使われていました。今はハンダは鉛フリー化が進んでいますが当社で培ってきた知識をもとに、ロジンの新規誘導体を鉛フリーハンダのフラックスとしても開発しています。電子部品の洗浄に、ロジンを溶解する技術を応用してフロン代替洗浄剤を開発しました。

Q:お話を聞いていると、天然有機物であるロジンをベースにいろいろな誘導体、高分子を作ってニーズに対応しているということで、ロジンベースの事業展開と言えるように思いますが?
A:その通りです。たとえばロジンは紙のにじみ防止用のサイズ剤として使われており、当社は製紙工業には縁が深いのですが、高度成長の時に製紙原料が変わって紙質が弱くなったことから、ポリアクリルアミド系樹脂の紙力増強剤が開発されました。先のフロン代替洗浄剤の話もそうですが、ロジンで培った知識が次のステップに生かされています。

聞き手のSAT溝口コーディネータ
Q:原料は中国から輸入ということですが、今の時代、資源面での心配はないでしょうか?
A:中国では農家の皆さんが副業的に松ヤニを採取しています。中国政府も地域経済振興の立場で大切にしているようですし、松の植林も盛んにおこなわれています。また、当社も現地にロジンの製造会社を立ち上げるなど原料確保に対策をとっています。

Q:ロジン原料の使用量は?
A:国内で約3万トン、グループで7万トンです。

Q:筑波に研究所を開設したのは何か理由があるのでしょうか?また大阪に大きな研究所があるようですが、筑波研究所はどういう役割ということになるのでしょうか?
A:大阪の研究所は人員が180名で、実際の事業展開に役立つ研究を進めています。筑波は人員18名、大阪の研究所とは異なり、新しい技術の探索を主に行っています。ロジンの機能を基礎的に検討して潜在能力を発掘し、新しい用途展開を考えるのも役目の一つです。筑波の研究機関との交流は、そのためにも大切と思っています。

Q:つくばサイエンスアカデミーは、筑波内での研究者・技術者・企業の交流を目的にしています。今のお話で、あらためてアカデミーの存在は大切、というように思います。アカデミーはそういう交流の場を作ろうとしていますし、いろいろな研究会・講演会も開催しています。また毎年のテクノロジーショーケースで、相互の交流と情報発信を心がけています。アカデミーの活動をこれまで以上にご支援下さい。
A:筑波研究所の目的の一つは筑波内での新しい研究者、技術者、企業との交流です。つくばサイエンスアカデミーの機能に期待しており、積極的に参加させていただきたいと思います。

ロジン原料

(印象)
1時間以上、大変興味深いやりとりをさせていただきました。ロジンをベースにした堅実な事業展開には、何度も、なるほどとうなずかされるものがあります。ロジンとその誘導体の用途は非常に広く、筑波の研究者にとっても何か役に立ちそうに思えます。また逆に、筑波の研究者からのコメントが、ロジンの潜在能力開発が使命という同社筑波研究所にとって有益、ということは充分にあるように思います。
 バイオマスというとトウモロコシやサトウキビからのエタノール生産、と思いがちですが、考えてみれば農林水産業の産物はみなバイオマスなのですから、ロジンのような物質の有効利用はこれから一層大きな意味を持つのではないでしょうか?

(訪問日:平成20年6月4日)

(参考)
荒川化学工業(株)ホームページ
http://www.arakawachem.co.jp

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