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第2回:アジアエンジニアリング株式会社
本社外観(筑西市藤ヶ谷)
 6月10日、筑西市のアジアエンジニアリング株式会社を訪問させていただきました(溝口、大枝)。同社はアルミホイール用の金型を作っている会社です。最近、耐溶損性の高い湯口の開発に成功したとのことで、これは、テクノロジーショーケース2008で発表していただいています。熱心に技術開発を進めている会社、とのイメージがあり、今回、訪問をお願いしました。
 明田川社長、貝沼研究室長と約1時間、非常に興味深いやりとりをさせていただき、懇談後は、金型作りの現場の見学をお許しいただきました。

以下Q&Aです。

Q:つくばサイエンスアカデミーについては、賛助会員としていろいろご存じいただいていると思います。今年のテクノロジーショーケースにもご出展いただいて有り難うございました。最初に御社の事業内容、規模など、概略の説明をお願いいたします。
A:主な事業は、自動車のアルミホイール用金型作りです。経済環境によりますが、毎月50から60組の金型を生産しています。従業員は59名、それにパートの人が12,3名。釧路に三次元のCAD・CAM設計部門があるのですが、釧路の方では工場進出を歓迎してくれるし、離職者が少ないのです。

Q:短納期を売り物にしておられるようですが?
A:たとえば、当社の設計部門は釧路とオハイオ州にあり、釧路の業務が終わるとオハイオが引き継いで、会社は24時間動いています。こうすることで短時間で設計が終わるようにしているのです。

Q:設計というとソフト開発の側面があり、そうすると担当者の個性が出やすいように思います。業務の連携が難しいのではないでしょうか?
A:設計の手順は大体標準化されており、そういう面での問題はありません。

Q:他に製造技術についての特徴は?
A:硬すぎて機械加工できないものについて、放電加工を使っているところ、と思います。

耐溶損性の高い材料を使用したアルミ鋳造用湯口
Q:最近、耐溶損性の高いアルミ鋳造用湯口を開発されたようですが。
A:金型の素材は鉄鋼です。アルミホイールを鋳造するときは高圧法と低圧法があるのですが、高圧法は設備が高く普通は低圧鋳造法です。720℃くらいの溶けたアルミ合金をこの金型に流し込むわけですが、低圧法では接触時間が長くなります。アルミと鉄は仲が良く、金型の鉄鋼表面は溶損と言われて、次第に劣化していきます。これを防ぐために、水ガラスやアルミナのようないろいろな保護材が使われます。
 特に、溶融液を流し込む湯口の方は保護材がはげると傷みやすく、耐溶損性の高い湯口が求められていました。当社は、チタン合金でアルミ耐溶損性の湯口を開発したのです。

Q:金型製造をベースにした事業展開ということのようですが、新しい展開を考えておられるのでしょうか?
A:最近になって、航空機部品の検討を始めています。そのときの問題の一つが部品の傷、探傷です。このために筑波の研究者に相談したりしています。自動車だけでなく航空機もどうかというのは、経産省や県の指導もあるのです。航空機の会社も、自分のところだけで系列を作れない、皆でやろうというような状況です。

   (焼物を指さしながら)この焼物を見てください。

Q:金属製に見えますが。
A:これは普通の陶器なんです。表面にチタンを溶射しているんですよ。当社技術を置物の表面処理に発展させることも考えられます。

Q:こちらには、筑波の研究者との交流を目的に移転されたのでしょうか?
A:実は、出発点はそうではないのです。当社は元々東京大田区で事業を行っていました。しかし、騒音の問題が出てきて、近隣に迷惑を掛けないよう他の場所を探し、ちょうど知り合いの人が持っておられたこの土地に移転してきたのです。

Q:大田区というと、職人の町ということで、何か尊敬してしまいます。表面をミクロン単位で磨けると言った話を聞きます。こちらでも、それくらい職人技で実現しているのでしょうか?
A:アルミホイールでは、それほどまでの精度は要求されません。10ミクロンくらいでしょうか。腕の良い職人さんには、ミクロン以下まで指先でわかるという人もいました。
 ここでは、表面仕上げは先ほどの放電加工で行っています。放電加工装置を備えた金型屋は多くないのですよ。

明田川社長(左)と貝沼研究室長(右)
Q:そもそも、なぜアルミホイールを扱われたのでしょうか?
A:私(社長)は35才の時に脱サラしました。当時はプラスチックをやる人が多く、アルミホイールの方は加工費が安くてやる人が少なかったのです。それで提案型の金型作りを目指しました。

Q:筑波との交流についてはどのように考えておられますか?
A:今は筑波の人にここで働いてもらっています。そのおかげでいろいろ装置を使わせてもらうこともできます。同業者から、それとなく筑波に相談できないかというような話もありますよ。
 先ほど探傷で研究者の力を借りるという話をしたのですが、他にたとえば、放電加工すると金型の表面の構造が変わります。具体的にどのように変わるか、という問題も大きいですね。

Q:アカデミーへのご要望は?
A:アカデミーにというより、県や筑波への要望と言った方がよいかもしれませんが、たとえば、県が飛行機部品メーカーのまとめ役を育てる、というようなことを考えてもらいたいですね。
 つくばの国立研究所は、やはりよく知らない、というところがあります。計り方など気軽に相談したいと思っています。まずざっくばらんに知り合うことが大切ですよね。県の施設を借りたりして、どこかで合宿するようなことがあっても良いと思います。

Q:本日は長時間どうも有り難うございました。今後とも、テクノロジーショーケースへのご出展などアカデミーをご支援下さるようお願いいたします。
A:つくばの近くにいるのですから、交流を深めたいと思っています。


 懇談終了後、金型作りの現場を見学させていただいた。金型のおおもとの素材は厚みのある円盤で、これからデザインにしたがって削ったり、表面加工や 熱処理を行い、目的の形に仕上がっていく。素材のかなり多くの部分はスクラップとなる。途中の工程では、いくつかの道具のついたマシンが無人で動いて いた。水中あるいは油中での放電加工が目に付いたが、放電のためのカーボン電極の再生(真空法で電極内の油分を除去するなど)、その廃棄処理が問題、と のことである。


(印象)
興味深いやりとりと見学を通じ、アジアエンジニアリングの基本技術は、非常にしっかりしたものであるという印象を受けました。筑波の研究者との交流についても、積極的なお話を伺い、SATとして我が意を得た思いがいたしました。「泊まり込みで議論して、交流を深めていくようなことを考えて欲しい」というお話は、大いに参考になりました。
 航空機部品の探傷、放電加工後の表面構造変化の追求のように、具体的につくばの力を借りたいと思っておられることもあるようで、研究者サイドとして、地元企業のお話をもっと積極的に聞くことがあっても良いように思います。

(参考)
アジアエンジニアリング(株)ホームページ
http://www.intio.or.jp/asia/


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