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第4回:大陽日酸(株)つくば研究所
大陽日酸(株)つくば研究所 (つくば市大久保)
 "Gas Professionals"、が大陽日酸(株)のキャッチコピーとのこと、大陽日酸(株)は酸素、窒素、アルゴンをはじめ各種産業ガスなどを製造・販売している会社、国立研究所サイドも始終お世話になっています。HPを見ると、窒素ガス、酸素ガスばかりでなく、CVD(ガス反応で固体を)用のガスも扱い、エンジニアリングにも事業展開されているようです。ガス会社との研究交流はどんな風に考えられるのだろう、そんな思いで同社つくば研究所を訪問させていただきました(7/10,溝口、大枝)。

 同社からは、3人の方々がおつきあい下さいました(川上研究所長、西名分析技術センター所長、赤岡業務課長)。アカデミーの概略紹介、同社の紹介(案内パンフレットによる)のあと、約1時間半のインタビューが行われました。


製鉄所内に設置された大型空気分離装置
タンクローリー車と液化ガス貯槽
Q:いろいろのガスを扱っておられますが、売り上げは合計でどのくらいでしょうか?
A:売り上げは全体で約5千億円。そのうち、窒素、酸素、アルゴンのいわゆるセパレートガス(エアガス)が1/3くらいを占めています。これらは、空気を分離して製造されますが、空気分離が当社の出発点であり重要な技術です。大型の空気分離装置では、酸素が1日1000トンくらい生産され、このほとんどがパイピング(いわゆるオンサイト)により供給されています。窒素は保安用、化学反応用、半導体工場のパージガスなどに沢山使っていただいています。アルゴンや一部の酸素、窒素は液体で出荷されタンクローリーで輸送しています。
 会社紹介でも申し上げたのですが、セパレートガスは空気が原料なので、原料はどこでも入手でき、タダ、ということが大きな特徴です。

Q: セパレートガスの製造に当たっては、深冷分離で酸素、窒素を分けておられると思うのですが、圧力を掛けたり冷却したり、エネルギー負荷がずいぶん大きいのではないでしょうか?
A:まさにその通りでして、我々は、液体酸素を蒸発させてその熱で窒素を液化するなど、システム全体の最適化を図り、圧力は5気圧くらい、熱交換器の温度差は1Kまで有効に使っています。製造装置のコストやガスを生産する時のエネルギーコストの低減はきわめて重要です。

Q:私は大学で「化学工学基礎」の講義を担当し、熱交換器の設計にも触れていました。例として平均温度差は10〜20Kで説明していまして、温度差がわずか1Kというと、本当だろうかと思ってしまいます。
A:当社は、そのような実績をもとに、プラントエンジニアリングも事業化しています。自分のところの技術をベースにしているので、合わせてガスも買っていただけるのです。電子機器事業分野でも同様のことがあり、たとえば半導体製造装置を設計・製作していますが、ガスの配管やレシピも合わせてセットで販売しており、半導体製造に必要なガスも供給しています。

Q:ヘリウムガスやCVD用のガスも御社で作っておられるのでしょうか?
A:ヘリウムはアメリカから粗ガスを輸入して、これを精製して販売しています。半導体用の特殊ガスは、輸入したり関連会社で作ってもらったりしています。

Q:これからは水素の消費が増えていくように思います。水素ガスも扱っておられるのですね。
A:水素は天然ガスや石油化学工場のオフガスをもとに供給してもらい、当社は貯蔵や高速充填に特化しています。自動車の燃料電池には将来70MPaで充填する必要があるのです。消費量は増えると思いますが、すぐにはということではないように思います。

Q:先ほどのご説明で、酸素の安定同位体を作っておられるようですが?
A:酸素には16O のほか、二つの安定同位体があり、17Oは340ppm、18Oは2000ppmが含まれています。このうち18Oは、ガン診断用のPET(陽電子断層撮影)に欠かすことができません。18FDG(放射性フルオロデオキシグルコース)はガン細胞に集まりやすく、陽電子を放出して消滅します。この18Fを作るためにH218O が必要なのです。ガスは普通は眼にすることができませんが、これは18Oでできた水です(サンプルを見ながら)。

Q:16Oとか18Oとか、ほとんど同じものですよね。こういうものを分けるのは大変なのではありませんか?
A:本当に大変です。蒸留で分離するのですが、蒸留塔の長さが500m、塔内に安定した濃度分布ができ製品が出荷できるまでに数年かかることがあります。技術的な検討を重ねて短縮するようにしました。それでも6ヶ月かかりました。

Q:ガソリンが今はリッター180円くらいでしょうか、それに比べるとこの水の値段はどれくらいになるのでしょうか?
A:ごくおおざっぱですが、1グラムで1万円から2万円、といったところでしょうか?

Q:本当に貴重品ですよね。それほどに精密に分離ということになると、分析の精度も随分問題になるように思います。
A:その通りでして、同位体だけではないのですが、高純度のガスの分析は容易ではありません。純度を直接精度よく分析できるものは世の中に存在しないため、普通は製造工程から含まれていそうな不純物を想定し、それぞれを精密に分析して、もとのガスの純度は100%からそれら不純物の合算したものを引いて求めています。

シールドガス「サンアーク」
Q:売上高割合の図で、溶断機器材料というのは?
A:溶断・溶接関連のガスやボンベ、バーナーなど機器を含めて、売り上げの10%くらいです。酸素溶断というのは、バーナーは二重構造になっていて、アセチレンガスの酸素燃焼で材料を高温にし、もう一つのノズルは酸素用で、実は酸化して材料を切っているのです。熱で切るのでなく酸化することで切断面がきれいになるのです。

Q:エレクトロニクスというか、半導体分野へも事業展開は?
A:先ほど半導体製造装置の話をしましたが、半導体製造用のガスには毒性のものが多く、製造装置の他、排ガス処理やガスの取り扱いまで含めて事業としています。

Q:随分分野が広く、いろいろな分野の人材が必要なようですね。
A:研究所には生物系の人もいますよ。医療関連事業で、酵素反応の解析が必要なのです。

Q:最近の原料高や国際化への対応は?
A:国際化はもちろん進めていて、アメリカの工場では、すでに本体の1/3くらいの規模になっています。主事業であるセパレートガスについては、輸出は考えていません。セパレートガスの原料はどこでも入手できますので現地に製造装置を建設して生産を行います。
 そもそも酸素や窒素は消費者の工場の隣で作るものなのですが、場合によってはタンクローリーで運搬することになります。このローリー輸送にも省エネ化が必要であり、たとえば、車載重量計をつけて、計量施設までの走行を省くといった環境に配慮した合理化も進めています。

お話を伺った西名分析技術センター長と川上研究所長(左から)
Q:ところで、つくば研究所は筑波大学や国立研究機関との交流が目的で設立されたのでしょうか?
A:ここはもとは日本酸素の研究所でした。最初に川崎にあったのが山梨に移転、さらに基礎研究をということで1992年につくばに設立されました。山梨は所員70名、主にガス利用技術ついて研究しています。つくばも所員70名、こちらは製造、分析、半導体など基礎指向です。
研究機関との交流についてですが、研究グループごとには交流させてもらっています。このテクノパーク大穂では設立当初各企業の分析関係の交流会もありましたが、共通するテーマが出てこなくて長続きは難しいですね。

Q:面白いお話を有り難うございました。これからも賛助会員として、SATをご支援下さい。また、テクノロジーショーケースにもご参加いただきたいと思います。材料関係の交流会議も考えております。ご連絡しますのでぜひおつきあい下さい。
A:これからもよろしくお願いいたします。いろいろな交流会には、ぜひ行くように所員に勧めたいと思います。


(印象)
 「酸素、窒素はもとは空気、原料費はタダなんですよ」というお話は、それはその通りなのですが、あらためて聞くと、目から鱗の思いがしました。しかしその分だけ、窒素・酸素を分けるためのエネルギーが必要で、その省エネ化に腐心しておられる姿が浮かび上がります。
 今まで訪問させていただいたどの研究所・事業所でもそうなのですが、日本の企業は地道に技術開発に力を注いでおられ、そういう姿勢に敬意を表さずにはおられません。現場の技術者とわかりやすい言葉で交流すること、先進的な研究開発をリードするつくばの研究者にとっても、こういうことは大切なのではないでしょうか?

(参考)
大陽日酸(株)ホームページ
http://www.tn-sanso.co.jp/


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