VISIT MEMBER'S ROOM


第6回:戸田建設(株)技術研究所
戸田建設(株)技術研究所(つくば市要)
左から八十島技術管理課長、千葉所長
抗菌・防かび床(戸田式環境対応抗菌床)
 土木工事やビル建設など、建設事業は日頃よく眼にしますが、その技術的な中身については、多くの人は全く縁がないのではないでしょうか。ですが、ふと気がつくと、ビルがあっという間に出来上がっていたりして、建築技術も大きく進歩していることがわかります。建築技術はどんな風に変わってきているのだろうか?興味津々で、戸田建設株式会社技術研究所を訪問させていただきました(8/26,溝口、大枝)。

 同所からは、千葉所長、八十島技術管理課長におつきあいいただきました。技術研究所の案内パンフレットで、「構造・振動」から「音環境」、「リニューアル」まで広い事業分野のご紹介を受けながら、お二人とも技術畑とのことで、いろいろ話が弾みました。
 なお、事務局の二人は建築技術にはまったく不案内ですので、9/1(月)、あらためて同所内を見学させていただきました。

Q:ご説明の中で、RCという言葉が出てきます。私もよく耳にするのですが、まずその意味から。
A:RCはReinforced Concreteの略語で、鉄筋コンクリートのことです。コンクリート強度でいうと、30年ほど前までは21N/mm2程度(以後、21Nのように略記)で、ビルの高さも6階建てまででした。今のコンクリート強度はその約8倍の160Nが実際に使われており、200Nの実用化に向けて研究開発を進めています。

Q:建築技術には、これまであまり縁がありませんでした。今日は、一般的な建築技術の進歩についてご説明いただき、そのあとで御社の事業、技術の特徴をお話しいただけたらと思います。
A:建築は建築工学が中心ですが、総合的なものなのですね。当社では、構造技術部門としては鉄筋コンクリート構造を対象とした耐震構造の研究を中心に、制震構造、免震構造等を研究しています。材料部門のうち構造材料の研究開発はコンクリートが80%以上を占めています。材料部門では他に、シックハウス対応材料、汚れにくい材料、強くて耐久性の高い床材料などの仕上げ材料を研究開発しています。当社は病院建築を得意としておりますので、抗菌・防カビ床材料の研究を精力的に研究開発しています。
また、精密工場等の生産施設では帯電防止ということで、炭素繊維を混入した帯電防止床を開発し、使ってもらっています。
 建築物の施工時の機械・ロボットなどの研究もありますが、現場では重量物を対象にしますので、ロボットといっても生産工場に比べると遅れていると思います。建築の現場では、雨の日には工事できないというハンデがあります。バブル時には建築現場全体を覆う全天候型という工法を開発しましたが、現在はそういうことより、工期短縮が技術開発の中心になっています。たとえばスーパーでは、工期が10日遅れるとその分だけ売り上げが減ってしまいます。
 超高層RC建築物についていうと、地下の工事には時間がかかるのですが、地上部分は1フロアが4〜5日くらいでできるようになっています。柱も梁も工場で作って持って行き、現場で組立てるのです。

Q:私は(溝口)1964年の大学卒業で、その後しばらくして霞ヶ関ビルができ、日本の経済発展、建築技術の進歩に強い印象を受けた記憶があります。超高層ビルの建築技術は、すでに出来上がっていたのでしょうか?
A:昔は、建築物の高さは100尺(約31m)と決められていました。昭和36年頃に建築基準法が高さ制限から容積率制限に変わって超高層が可能になったのです。霞ヶ関ビルの完成は40年前ですが、その前にホテルニューオータニや東京駅大丸など、31mを超える高いビルが建てられており、超高層技術の基本は出来つつあったと思います。
 さっきも申し上げたのですが、RC構造は、昔は6階までだったのですが、1970年代に入って、技術の進歩で18階建ての社宅が建ったりするようになりました。RC構造の高層化については、1988年から5年間、新しいRC構造をめざして建設省総合技術開発プロジェクト「鉄筋コンクリート造建築物の超軽量化・超高層化技術の開発」(通称:New RCプロジェクト)が実施され、その結果、60Nのコンクリートが実現しました。これから超高層RC建築物が多くなってきたのです。

Q:興味深いお話ですね。New RCとはどのようなものか、もう少し詳しくお話しいただけますか?
A:コンクリートは、水を少なくして、セメントを多くすれば強くなります。ですが、水を少なくしてセメント量を多くするとうまく混合されないのです。ですから、水の量をどのように減らすかが大きな問題です。これについては、高性能の減水剤が開発されてよく混ざるようになりました。現在では、160Nも実際に使われていまして、200Nの実用化もまもなくです。
 コンクリートの強さは、水/セメントの重量比で決定されるのですが、20Nではこの比が0.6くらいで、150Nになると0.13くらいです。

Q:減水剤というのは?
A:これは界面活性剤ですね。水の表面張力を下げて、セメント粒子間に水を浸透させます。つけ加えると、さらに100N以上のコンクリートでは空隙をどう減らすかが問題になるのですが、これについては、0.15μmくらいのシリカフュームという微粒子を混ぜるようにしています。セメント粒子は10〜100μmくらいですから、セメント粒子の間をシリカフュームで埋めて、空隙を減らすのです。コンクリートの配合例をお見せしましょう。150Nの例ですが、水155kg、セメント1192kg、砂329kg、砂利847kg、減水剤22kgです。セメント量は21Nに比べて約4倍にもなります。

Q:鉄筋については?
A:耐震性を確保するためには、鉄筋も強くなければなりません。コンクリートは圧縮に強いのですが引張りには弱いのです。鉄筋は引っ張りに強く、両方の特徴を生かしてコンクリートを強くしているのです。その強さは今では、685N/mm2が使われていますが、もっと強い鉄筋が欲しいと思っています。コンクリートに使う石も割れないように強いものにしなければなりません。これらの組合せがノウハウです。

Q:RCのお話、面白いですね。
A:コンクリート工事については、コンクリートの強度が上がったことで別の問題が出てきました。セメントは水と反応して固まって強くなっていくのですが、このとき熱を発生します。ところがセメントの割合が多くなって、先ほどの150N級の超高強度コンクリートになると、内部の温度が80℃〜90℃にもなってしまいます。一般の建築物では、実は、温度が高くなることより、コンクリートの内外で温度差ができることが問題でして、この温度差が大きいとコンクリートがひび割れることもあるのです。それで、外側を断熱して温度を均一化するような養生が必要になります。
 土木工事、厚い遮蔽壁や耐圧版などの建築工事では一度に大量のコンクリートを打設するのですが、この場合はコンクリートのボリュームが大きいため、普通程度の強度のコンクリートでも発生する熱量が大きくなり、今度は熱の除去が必要になります。発熱量の小さいセメントを使い、コンクリートミキサー内に液体窒素を入れたり、施工中にパイプに水を循環させたりして躯体を冷却しています。

Q:超高層になると、地盤の強さも大切なのではないでしょうか?
A:地盤の弱いところでは、超高層は大きな杭で支持します。特に、東京湾岸の埋立地のような軟弱地盤では、連続地中壁といって建物の外形に合わせて壁状のコンクリート構造材を埋め込んで、壁杭として使ったりします。当社では壁厚1m80cm(建築では我国最大の厚さ)、深さ50m以上の地中連続壁を使った例があります。

Q:建築技術の進歩というと、コンクリート以外の構造力学などの進歩も大きいのではないでしょうか。超高層ビルでは地震の揺れを柔構造で吸収するというように聞いていますが。
A:鉄骨構造も進歩しています。例えば、2004〜8年度の5年計画で府省連携プロジェクト「革新的構造材料を利用した新構造システム建築物の開発」が終了しますと、780Nの高強度鋼材を利用して、現在に比して安価な鉄骨構造が可能になると期待されています。構造技術の進歩には、解析ソフトの開発を含めてコンピューターの発達と地震動特性を把握できるようになったことが大きいと思います。
 超高層ビルの構造については、柔構造か剛構造か、大きな議論があったのですが、昭和30年代に東大の武藤先生を中心に柔構造の超高層ビルの研究が行われ、その結果、霞ヶ関ビルが誕生しました。

Q:これまでは、建築技術の一般的な進歩についてお話しいただいたと思います。御社としての事業の特徴、技術の売り物等についてお聞かせ下さい。
A:戸田建設では、ビル建築が主になっています。売り上げが平成19年度で4410億円、土木事業がそのうちの1/4くらいです。これは建設業としては珍しいのですよ。多くの建設会社は土木事業から始まっているのですが、戸田建設では建築から始まっています。

Q:技術面ではいかがでしょう?
A:技術的には、すべての建築に対応できるようになっていますが、耐震技術と構造材料技術を駆使した超高層RCが特に売り物です。他に、高耐久性の抗菌・防カビ床、帯電防止床などの仕上げ材料、音技術―これはよい音を作る環境、遮音技術などです。施工技術では、工期短縮に役立つ技術開発が中心ですが、残留ダイオキシンを含むことで問題になった焼却炉の解体工法を開発して使ってもらっています。また最近、大きな地震が多発していて耐震補強の必要性が言われていますが、当社には鋼管コッター工法という特許取得済みの施工方法があります。この工法はオープン化して皆さんに使っていただけるようにしています。更に、環境問題を解決するための環境技術の研究開発に力を入れています。パンフレットの屋上ビオトープがその一例です。こちらは下関の卸売市場ですが、屋根に芝生を植えることで屋内の温度を数度下げることができました。

「キャナルワーフタワーズ」臨海地区に建つ、地上36階120m、計498戸のツインタワー超高層住宅です。工事では、TO-HRPC工法や、TOSS-D工法、制震柱を採用するとともに、「ゼロエミッション建設」を達成しました。
Q:環境というと、建築廃材の利用も大切と思いますが?
A:当社ではゼロエミッション(建築廃材を全部使う)に積極的に取り組んでいます。豊洲の超高層RC住宅の建設工事で、業界初のゼロエミッションを達成しました。建築時に出てくるものは全部分類して使えるところに使う、最後に残ったものは燃して熱として利用するということで達成しました。
 また昨年からアスベスト建材の無害化に取り組んでいます。これは西松建設、四国の大旺建設等と一緒にやっているもので、NEDOの資金を使わせてもらっています。アスベストは元来建材を強くするため使われているのですが、このアスベストが問題としてクローズアップされてきています。このアスベスト含有建材を過熱蒸気を用いて分解・無害化し、セメント材料として再利用しようとするものです。

Q:ホームページを見させていただくと、研究発表が多く、研究開発に熱心というように思います。
A:特に多いようには思っておりませんが、50名程度の研究員のほとんどが発表していますね。

Q:つくばに研究所があるのは?
A: 2代目の戸田利兵衛会長が茨城の出身で、1981年の創立100周年に合わせて研究所を作ろうということになり、学園都市建設に合わせてここに建設されたというわけです。

Q:つくば内での実際の協力関係は?
A:(独)建築研究所、(独)土木研究所さんとは共同研究をさせていただいておりますが、異業種となると、たとえば音響技術に関して産総研と一緒に特許を申請した程度で、まだまだ少ないと思います。今後は更に交流することが多くなるように思います。

Q:国際化ということについてはいかがでしょう?
A: 国際学会での研究発表はありますが、特に交流はありません。

Q:これから特に力を入れる分野として、どのようにお考えですか?
A:環境に力を入れたいと思っています。

Q:環境に力を入れるとなると、広い分野の人材が必要になると思われますが?
A:その通りなのですが、景気が悪くなると、せっかく採用した人が活躍しにくくなることもあります。ですから、これからは必然的に他社や他研究機関、特に異業種との共同研究などを活用していくということになると思います。

Q:今日はお忙しいところ、面白いお話を有り難うございました。これからもぜひつくばサイエンスアカデミーをご支援下さい。また、資料でご説明したテクノロジーショーケース、民間企業からのご発表・ご来場をお待ちしております。おつきあいいただきたいと思います。
A:熱心に話を聞いていただいて有り難く思います。アカデミーにはこれからもできるだけ協力させていただきます。


(見学)
 あらためての見学では、音響技術、制振技術、屋上ビオトープ、高強度コンクリートの4箇所をご案内いただいたのですが、それぞれ非常に興味深いものでした。

音場・騒音統合シミュレーションシステム
 音響関係では、(1)座席の椅子が音のかなりの部分を吸収するとのことで、その効果を含め残響室で残響効果を、(2)また騒音シミュレーターを使っての窓サッシの効果を体感させてもらいました。音響技術については、特に充実した設備を整えておられるようです。

 次の制振技術では、6階建ての実験棟にのぼり、重い制振装置を地震動に合わせてパッシブに機能させる場合、こちらから力を加えてアクテイブに働かせる場合について説明をうかがい、パッシブ・アクテイブ、そのハイブリッドの違いを実際に体験させてもらいました。

 屋上ビオトープは小さな池のある庭園、というおもむきです。屋上なので土壌の厚みは大きく取れない、したがって背の高い木は植えられない、などこういったビオトープ設計にともなうご苦労をうかがいました。

 高強度コンクリートでは、セメントや砂利を前に、その混合比率や減水剤の働きについての説明を受け、最後にコンクリートの圧縮破壊を見させてもらいました。高強度コンクリートは破壊時に大きな音を発生します。破壊音はど迫力でした。

実験棟の屋上にある制振装置の構造説明を受けました
研究所内のビオトープ
コンクリートの圧縮破壊実験装置と破壊されたコンクリート

 建築技術の面白さに引き込まれてしまい、1時間半の見学予定がその倍近くになって、ご案内の研究員の皆さんには随分ご迷惑をおかけしてしまいました。お詫びとお礼を申し上げたいと思います。


(感想)
 つくばには、非常に広い分野の企業・研究所があります。建築関係の企業研究所を訪問させていただくのは初めてでしたが、RCをはじめ超高層ビルの建て方や環境技術など、非常に面白くお話を聞かせていただきました。RC技術の進歩で熱の除去が問題、という話が出てきましたが、実は伝熱の問題は溝口が専門にしていた化学工学でも非常に大切な研究領域で、分野が異なっても基礎的なところでは共通性がある、とあらためて感じました。音の分野で産総研と交流している、ということもありましたが、「建築は総合的なもの」ですので、化学や生物工学、情報工学などともこれからは協力関係が生まれるのではないでしょうか?。

(参考)
戸田建設(株) ホームページ
http://www.toda.co.jp/


[ 一覧へ ] [ ホームへ ]
Copyright (c) Science Academy of Tsukuba. All Rights Reserved.