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第8回:筑波学園ガス(株)
筑波学園ガス(株)本社 (つくば市金田)
 私(溝口)が子供の頃は、都市ガスと言えば石炭ガス、一酸化炭素が含まれており、時々ガス中毒の話が出ていました。今は天然ガス(メタンガスが主成分)で一酸化炭素が含まれていないため、その安全性は随分高くなっているようです。ライフラインの一翼を担い生活になくてはならない都市ガス、その事業展開と技術開発の状況を知りたいと思い、筑波学園ガス株式会社を訪問させていただきました(9/24,溝口、大枝)。
 同社からは、菅野義裕常務にご対応いただきました。最初のお話で、同社は東京ガス(株)の100%子会社で、技術開発は東京ガスに負っているとのことですが、菅野常務ご自身も、長年東京ガスで技術畑に在籍しておられ、ガス技術の中身についてもいろいろ詳しくお話をお伺いすることができました。

Q:都市ガスの会社というと、ガスの販売以外にガス器具販売やいろいろなサービス業務もあると思うのですが。
A:売り上げのほとんどはやはり都市ガスですね。これまでとんとん拍子で増えてきているため、パイプ敷設の範囲はますます広くなっており、その市場を守ることが重要と考えています。一般にガス会社は、都市ガス自体の売り上げが90%くらい、残りがガス器具の売上げ等ですが、ガス器具は一度買うと買い換えることが少ないので売上げの比率が小さいのです。

供給区域
Q:つくばは開発が進んで、これからも需要が大きく伸びると思うのですが。
A:TX開通時はマンションの入居率もよかったのですが、今、地の利が悪く値段が高いと入居状況はより厳しいですね。住宅もこれからはそう増えないと思っています。つくばでは、入居者の多くは官舎から移り住む人で、外から転入してくる人はさほど多くないようです。

Q:ガスは貯留されて輸送され、さらに使用されるということで、各ステージでの安全性確保が大切であるように思います。
A:ここでのガスは、もとは東京湾岸にある東京ガスの袖ヶ浦・根岸工場から東京ガスのパイプを経由して運ばれてきています。
 輸送には強度の強い鋼管が使われており、地震でも心配ありません。中越沖地震で初めて細い鋼管が盆状の沖積層基盤で座屈を起こしたくらいです。お客様の敷地内ではポリエチレンパイプが使われており、これも耐久性・耐震性が高く心配ありません。ガス配管での事故は年に数件あるのですが、実は水道工事などの他工事でパイプが傷つけられたりするのです。これを防ぐには事前にお互いの情報交換が大切ですね。
 お客さまにより安心してガスをお使いいただくために、最近はマイコンメーター・安全アダプター・不完全燃焼防止装置・過熱防止センサーのような最新鋭の安全装置がついており、換気にさえ気をつけていただけば大丈夫と思っています。古い器具では安全装置のついていないものもありますので、安全装置のついた機器へのお取替えをお客さまにお願いしております。
 漏洩ガス検知のため、ガスを使用する台所等に都市ガス警報器の設置をお願いしています。都市ガスは空気より軽いため、部屋の天井近くに警報器を設置し、その普及状況は約40%で、価格も普及タイプが約7,000円/個です。
 このようなハード面の対策、使い方を含めたソフト面の対策を充実させることにより、実際、ガスの事故は大幅に減っています。最近、業務用のお客さま、特にラーメン屋さん、パン屋さんのように狭い厨房のところで換気の不十分なお客さまが心配ですね。このため、換気警報器の貸し出し設置を進めております。さらにガス漏れなどの対応には、会社全体24時間365日体制で万全の注意を払っています。

Q:昔の石炭ガスから天然ガスへと、ガス自体も大きく変わってきていますよね。
A:今は主に13A(45MJ/m3)というガスが使われています。13は発熱量の指標、A,B,Cは燃焼速度の指標でガスの組成により、速い(C)、中間(B)、遅い(A)と区別されています。メタン主成分の高カロリーガスは燃焼速度が遅く、水素等が入っている製造ガスは燃焼速度が速くなります。B・C分類のガスは東北、北海道でまだごく一部使われていますが次第に天然ガス主成分の高カロリーガスへの切替を行っています。
 昔の6B(20.9MJ/m3)に比べ13Aでは2.2倍と発熱量が大きく、したがって導管の利用効率もよいことになります(従来の管で倍以上のガスを輸送できる)。

Q:エネルギー産業としてのガス事業を、どのように見ておられますか?
A:ガスの需要は量も割合も増えています。CO2削減の面でも、油からガスに燃料転換するだけで約30%減らすことが出来、温暖化防止に貢献できます。

Q:ホームページでGHP、TESという用語が出ていました。GHPはガスエンジンヒートポンプでわかりますが、TESというのは何でしょうか?
A:Tokyo Gas Eco Systemの略(当社ではTotal Eco System の略を「TES」と言っています)で、一般給湯、風呂給湯・追焚き、温水ラジエーター(暖房)、温水床暖房、浴室乾燥暖房等が可能な温水システムです。
TESシステムの概略

Q:御社では、直接の技術開発は考えておられないようですが、これからの技術開発課題としてどんなことが重要なのでしょうか?
A:燃料電池の開発が大きいと思います。メタンを改質して水素にし、発電させます。ガスの燃料電池システムの中にこの改質器も入っています。つくばでは家庭用に燃料電池が5台導入されており、そのうち3台はフィールドテスト用です。燃料電池のシステムは、ここ1、2年で100万円強にコストダウンできると思います。最終的には50万円くらいにしたいですね。
天然ガスをトラックに供給する
 車も最終的には燃料電池車になるかもしれません。つくばには、今、天然ガス自動車が約50台使われていますが、そのためのガススタンドでも近い将来、水素への改質が行われるようになると思います。ガス器具については、GHPなど製品レベルが上がってきており、故障も少なくなっています。

Q:最近の資源高、エネルギー高をどのように見ておられますか?
A:環境への影響度、価格の面から石油からガスという流れがあり、ガスには今のところ追い風になっています。

Q:事業所がつくばにあるということで、何か特徴があるのでしょうか?
A:つくばは需要構造が特異だと思います。研究所が多く、したがって大口の顧客が多いのです。ガス販売量ベースでみますと、家庭用の割合が一般のガス会社は30〜40%なのですが、ここでは10%弱しかありません。それが悩みです。人口がもっと増えて欲しいですね。
 一方でオール電化も増えているのですが、できればガスと電気のベストミックスの形になってもらいたいと思います。ガスや電力の使い方は家族構成やライフスタイルで違い、たとえば大家族ではガスを使う方が調理やお湯利用の面で有利、といったことがあります。

Q:最近の国際化の流れについては、どのように見ておられますか?
A:そんなに影響はありません。もちろん、情報交換や収集は必要で年に数回海外調査に出たりしています。親会社の東京ガスでは、海外に事務所を持ったり留学生を出したりしています。

お話を伺った菅野義裕常務取締役
Q:つくばでの交流についてはいかがでしょうか?
A:必要に応じてということになると思います。各研究所にガス関連の情報は出しています。こういうことが問題、といったニーズがあれば、東京ガスに相談しています。ですから、つくばの大学や独立行政法人との研究交流があるとすれば、親会社経由ということになります。

Q:今後の事業展開のイメージをお聞かせ下さい。
A:高効率のガス器具、たとえば家庭用コジェネシステム(燃料電池・エコウィルなどのマイホーム発電)の普及を心がけたいと思います。つくばがモデル地区としてリードしてもらえるとよいのですが(たとえばマイクログリッド等)。熱を有効利用するコジェネが導入されると、日本全体としても一次エネルギーの消費量が減ることになり、CO2削減につながります。
 燃料電池の例では、発電効率が35%なのですが、この排熱を上手に使うと総合効率で80%くらいになります。排熱の使い方がポイントです。

Q:そのほかガスの利用上の問題は?
A:地震があったりして、一度ガス供給を止めると大変です。供給区域内でガスを供給できなかったお客さま宅のすべてのガス栓の開閉を確認しなければなりません。

Q:どうもいろいろ面白いお話を有り難うございました。アカデミーをこれからもご支援下さい。テクノロジーショーケースにもご参加いただければと思います。
A:情報収集でいろいろ使わせてもらっています。ショーケースにも参加させてもらっているのですよ。


(印象)
 ガス技術も原料ガスからガス器具、安全対策まで随分進歩しています。排熱を利用しての熱効率向上、TESの話、バーナーの中心に取り付けられた過熱防止センサー、保安体制など、それぞれに安全面やエネルギー効率の面からきめ細かな技術の蓄積を伺い知ることができます。石油や電力との競合があり、またつくばの人口増加が今一歩という状況で、筑波学園ガスの事業展開はバラ色一色というわけではないようですが、菅野常務のお話は、長年の経験にもとづく自信に裏打ちされたものでした。世界的な資源・エネルギー価格の高騰を考えれば、エネルギー効率の向上は喫緊の重要課題、大学や独立法人の研究者の皆さんにも、新しい視点でこの課題に取り組んでいただきたいと思います。
 東京湾岸からつくばまで、パイプラインがつながっているのですね。ちょっと驚きました。(溝口、記)

(参考)
筑波学園ガス(株) ホームページ
http://www.gas-tsukuba.co.jp/


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