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第12回:アステラス製薬(株)つくば研究センター
開発薬理研究所 宮田桂司所長

 アステラス製薬(株)は2005年、藤沢薬品と山之内製薬が合併してできた会社、元の2社はそれぞれ免疫抑制剤、泌尿器疾患薬などで有名であったと思いますが、現在は合併後の激動期から新しい体制へ移行し、国際化にも積極的に対応しておられます。アステラスとは、「星」を意味するラテン語やギリシャ語から表現されたものであり、日本語の「明日を照らす」にもつながります。「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」企業として、今後ますます活躍していただかなければなりません。
 一方で、新規医薬の開発には膨大な費用がかかるようになっており、さらに学術的進展の著しい遺伝子工学への対応など、製薬業界における研究開発には大きな問題が立ちふさがっています。このような状況にどのように対応しておられるのでしょうか?11月27日、アステラス製薬(株)つくば研究センターを訪問させていただきました(溝口、大枝)。ちょうど新しい研究所ができたところで、随分立派なことに驚きました。お相手下さったのは、開発薬理研究所宮田桂司所長です。
 アカデミーについて簡単な紹介、「賛助会員に少しでもお返しがしたい、またその事業内容・研究内容を把握させていただきたい」との訪問趣旨説明のあと、質疑に入りました。

Q:「明日は変えられる」という積極的なキャッチフレーズのもとに、研究開発型グローバル企業として、今躍進しようとしておられます。こういう方向を進めるための具体的な方策というか戦略というか、その辺からお話を。
A:山之内製薬と藤沢薬品が合併して3年経ちました。どういう企業として発展していくかということですが、我々はファイザーのようなメガファーマを目指して規模で勝負するということでなく、限られた領域でトップになることを狙っています。そうすると、その領域すなわちカテゴリーをどうするかが問題です。これまで山之内は主に泌尿器疾患、藤沢は臓器移植・免疫抑制剤をベースにしてきました。これからは、新しい分野を加えて6分野に力を注ぎたい、ここに資源を集中的に投資し製品までこぎつけたい、そういうつもりでおります。新しいといってももともとのベースはありますし、なかなかよい薬が出ない分野で確度を上げたいと思っています。
 また、まったく新しい分野にも力を注ぐ、ということです。

グローバル営業体制の強化

Q:山之内、藤沢の2社が何故合併に向かったのでしょうか?
A:最終的には経営判断の話になるのですが、2社はもともと棲み分けがうまく いっていました。藤沢は天然物由来でそれを修飾して、また山之内は低分子をベースに、ということでモノとしての系統が異なっていたのです。
 そうは言っても現場的には色々あって、山之内は関東、藤沢は関西系なのですが、最初はシックリ来ないこともありました。研究所もここと大阪にあったのですが、各研究所機能の見直しや、研究員の入れ替え等も実施して、比較的スムーズに合併できたと思っています。

Q:一般論として、製薬産業の特徴を一言で言うとどんな感じになりますでしょうか?
A:総合力ということでしょうか。毒性まで含め、非常に広い分野の力を結集することが必要です。学問の集大成ということも言えると思います。

Q:アステラスも大変大きな企業と思うのですが、ちょっと調べてみたら、日本の一番大きな会社でも欧米大企業の1/5程度でした。これは何か理由があるのでしょうか?
A:20年くらい前までは、日本の中だけで考えていました。例えばファイザーは早くから多国籍企業を目指してきた、と言えると思います。アステラスは現在、海外の売り上げが半分になっていて、やや小さいけれど頑張っています。
新薬が出来上がるまでの想いをつづった絵本
http://www.astellas.com/jp/corporate/brand/book/

Q:新しい薬が開発されたとして、製造プロセスはまったく新しくなるのでしょうか?
A:まったく新しくなることはあまりないと思います。設備投資は大変です。たとえば錠剤ですと、有効成分は多くてもだいたい100mg、他の補助剤を加えて全部で1g、ということでしょうか?これはそう変わるわけではありません。

Q:事業分野として、泌尿器、炎症・免疫、感染症(ウイルス)、中枢・疼痛、糖尿病、ガン、の6領域を挙げておられます。ガンの比重が少し小さいように思うのですが。
A:合併前も細々とやっていましたが、最近になって重点化しましたので、まだ小さいですね。早期立ち上げの施策の一つとして、昨年末にアメリカのベンチャーを買いました。このようにベンチャーを買うとか大学の研究結果を事業化するとか、ガン治療薬の開発にはいろいろなやり方がありますが、アステラスは自分のところでも研究をやっていく、ということです。がん治療について特化した方法でなく、いろいろなものをやっていこうと思っています。

Q:難病治療についてはいかがでしょうか?こういうものもやっていただきたいと思うのですが。
A:研究者としては、そういう想いは強いと思います。重点として挙げた6領域では、ある程度の資源を投入しています。但し、その他の領域では、研究資源も限られますので、こういう分野は小企業に頑張ってもらうという棲み分けがあってもよいように思います。
新薬開発に臨む研究員

Q:企業の経営方針として、持続的に新薬開発を、とうたっておられます。具体的にどのくらいの割合での市場化を考えておられるのでしょうか?
A:毎年1件くらいは欲しいですね。企業存続のためにもそれくらいは必要です。
 新薬の市場化はご存知のように大変難しいのですが、成功の確率はどこでも同じでしょう。そうすると、新しいテーマを年にいくつ研究員を何人、などと決まってきます。


Q:ホームページを見ると、2008年度の研究開発費だけが少し減っています。これは何か意味がありますでしょうか?
A:研究費自体の増減はあまりありませんので、この研究所の建物を新築したとかベンチャーを買ったとか、そういう影響と思います。

Q:最近は学術の進歩が著しく、たとえば遺伝子工学の最新の知識を入れることも必要と思います。どのように対応しておられるのでしょうか?
A:大学は新しい研究をやっており、卒業生はそういう知識を持って入ってきます。ですから、新しい知識の導入というとあまり心配していません。逆に、DNA専門の人は動物実験がわからない、と言ったことがありますね。
 例えば画像解析など、特殊な分野では大学でもあまりやっていないこともあり、そういう分野では自前で対応することが必要になります。

Q:製薬はいろいろな分野の総合力というお話ですが、研究員のご専門はどのようになっていますでしょうか?
A:大まかですが、合成が20%、生物50%、計算機技術を含めて解析や分析で30%というところです。

Q:具体的に免疫抑制を取り上げさせていただくとして、免疫抑制のメカニズムは十分わかってきているのでしょうか?またわかったとして、それがどのように医薬品開発と結びつくのでしょうか?
A:抑制メカニズムはかなりわかってきていると思います。たとえば急性の拒絶反応など短期的なものはわかってきています。ですが、慢性拒絶や免疫抑制剤が長期的にどう影響するかといった点は、難しいですね。
 メカニズムがわかったとすると、開発のタネになるもの、モノをつくるときに効く構造はある程度わかっています。それから出発していきます。

Q:そういう研究ですと、医学的・生理学的な研究も必要になりますね。
A:当然そうなりますので、総合力と申し上げたわけです。研究員の中には学位(PhD)取得者も結構多いんですよ。

Q:アステラスとしての得意技術というとどういうことになりますか?
A:基本技術がそろっている、ということと思います。特に画像解析技術は10年くらいの蓄積があります。石川県羽咋のある財団で、こちらから研究員が出かけて画像解析研究を進めています。

Q:基礎分野で今後力を入れるべき分野というと、どのように考えておられますか?たとえば計算機化学とか。
A:医薬品開発の成功確率を上げたいと思います。動物実験から臨床試験(動物からヒト)への橋渡し研究をうまく進めたい。動物実験ではOKでも、ヒトでは有効性が確認出来なかったり、副作用が出る、などということがあります。
化合物の様々な特性を評価
希少菌種からの化合物探索

Q:つくばに二つの研究所がありますが。
A:こちら(御幸が丘)は合成由来の化合物研究が主で、もうひとつ(東光台)は発酵や天然物由来の化合物研究が主です。

Q:ホームページで育薬という言葉を見て、これはよい表現だな、と思いました。これはアステラス独自のものなのでしょうか?
A:考えとして昔からあるのですが、言葉としてはアステラス独自かもしれませんね。

Q:社長が、アメリカで免疫抑制剤が効いて感謝された、ということを話しておられます。医薬品メーカーとして感謝されるということは何物にも換えがたいことと思いますが、さて、そういう場合の褒章についてはどのようにお考えでしょうか?
A:褒章制度は、特許についても、あるいは実用化についてもあります。そういう話は、例の青色発光ダイオード以来、キチンとするようにしています。

Q:特許や知的財産管理はどのようにしておられますか?
A:専門の部署があり、現在は人も増えています。発表することについては、やはり厳しいですね。

Q:国内でもいくつか研究所、技術センターをお持ちのようですが、つくばに研究所があることの意味は?
A:研究所がそう多いわけではありませんが、つくばで創薬研究、大阪は安全性などの開発研究と、機能で大まかに分けています。
 ここでは筑波大や理研などと共同研究したりしています。つくばでの地の利というと、他の製薬会社では撤退しているところもあり、一概に言い切れないように思います。

Q:つくばの研究機関との交流は?
A:他の地域と比べ、特につくばが多いというわけでもありません。筑波大で客員をやったりはしています。今のところ若い研究員を除くと単身者が多く、家族まで来るのはまだ少ないですね。交通の便まで含め、魅力ある街づくりも大切と思います。

Q:基礎研究で国立研に期待する部分は?
A:それぞれの研究機関の強みを活かしたり、特徴を伸ばして欲しいと思います。

Q:今後の研究課題として、他業種との連携を考えた場合、薬の効果をエンハンスするという方向はいかがでしょう?たとえば1/fの周波数が人間にとって快適というように聞いています。
A:厚生労働省の許認可制度からみて、それはすぐには難しいと思いますが、今後興味ある分野の一つだと思います。
環境への取り組み

Q:国際化というと、アステラスでは世界中でいろいろなものを作っておられますが、それは地域ごとに薬の効き目に特徴があるから、ということでしょうか?
A:基本的にそのようなことはありません。どの薬も世界中で販売します。会社として、為替差益など一番収益が上がるようにもしています。今は、海外売り上げの比率は50%になっています。

Q:CO2対策はいかがでしょう?
A:CO2削減も、会社全体として、あるいはここの御幸が丘事業場として、具体的な目標を立てて取り組んでいます。この新しい建物も省エネを考慮しているのですよ。

Q:話題がすっかり変わりますが、アカデミーへの要望といったものはおありでしょうか?
A:アカデミーの強みをアピールしてほしいですね。地域への貢献も必要と思います。

Q:長時間どうもありがとうございました。来年1月23,24日のテクノロジーショーケース、ぜひお誘いあわせご参加ください。
A:今年は当所から出展がなく申し訳なく思っています。所員に参加を呼びかけるようにしましょう。


(感想)
アステラス製薬(株)つくば研究センター(御幸が丘)

 再編が進む国内医薬品業界、アステラスは合併後の調和から躍進の時期を迎えておられるようです。宮田所長のあつい語り口にそんな意気込みが感じられました。元の会社の強みを生かした展開、というのはよくわかります。また、画像解析に自信を持っておられることには興味を惹かれました。こちらの力不足で、画像解析技術が医薬品開発にどう結びつくか、踏み込み不足になって申し訳なく思います。ガン治療薬にも積極的に乗りだされるご様子、私自身の年齢のこともあり、期待するところ大です。
 ずいぶん長い時間、インタビューさせていただいたのですが、新しい研究所が完成したからということで、終わってさらに所内をご案内いただきました。広々とした敷地に新棟は大きくゆったりとして明るく、画一的にならないよう配慮され、所員同士の交流が深められるように設計されています。分析の自動化も格段に進んでいるようです。建設費が随分かかったのでしょうが、大胆とも思えるこのような研究所の建設は、2社合併後の融合促進と国際化に向けてのアステラスの意気込みを物語るもの、今後の一層のご奮闘をお願いしたいと思います。(溝口記)

(参考)
アステラス製薬株式会社 ホームページ
http://www.astellas.com/jp/


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