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第14回:日本エクシード(株)
森澤技術開発部長

 日本エクシードはシリコンウェハをはじめ、酸化物単結晶、化合物半導体など各種エレクトロニクス・半導体素材の表面研磨を主事業とする会社です。エクシードは、英語どおりに卓越するということのようで、「超平滑」など超のつく5つの要素技術をもち、オンリーワン企業として世界で活躍しておられます。研磨技術といっても、研磨剤が必要でしょうし、それを使いこなす機械、ソフト技術、あるいは清浄化技術、表面検査技術も必要でしょう。表面の粗さがnmレベルというと、ほとんど分子・原子オーダー、これは大変なことだと思います。研磨という事業はいくつかの要素を積み上げ、総合的で奥深いように思われます。 求人情報には、この会社は中小企業であることを承知してきて欲しい、という文言があります。中小企業でも、技術のレベルは高いんだという気概のようなものを感じて、よい印象を受けました。
 12月18日、同社本社工場を訪問(溝口、大枝)、取締役技術開発部長の森澤さんにお相手をしていただきました。
 大枝からアカデミーの概要とショーケースについて説明させていただき、その後、あまりに素人っぽいので気が引けたのですが、そもそも何故nmレベルの研磨が必要か、具体的な質問はそんなところから始めさせていただきました。

Q:森澤部長は工学の学位をお持ちなんですね。
A:我々の会社は1961年に川口光学測器として創業し、光学研磨技術により光学部品を製作していましたが、その後1966年にシリコン研磨事業を開始、1982年に工業技術院など国立研究機関にも近いということでこの場所に移ってきました。研磨された材料は、各種半導体デバイスや携帯電話、レーザーや発光ダイオードなどに使われています。
 私はほとんど開発を担当してきまして、社会人Dr.として学位をいただきました。

Q:私(溝口)は、機能材料に興味を持っており、そのなかで超微粒子が研磨剤に使えるという話を聞いたことがあります。
A:研磨加工は初期には職人的なものでしたが、半導体デバイスメーカーがCMP技術(後述)を取り入れることにより、今では、このCMPの重要性・有効性がかなり知られるようになりました。
 研磨工程は半導体基板製作の最後の加工で、研磨による仕上げ加工をしなければ高価な基板素材もその機能を発揮することができないため、キーテクノロジーの一つといえると思います。
二次研磨、三次研磨の様子

Q:すみません、えらく初歩的ですが、そもそもnmレベルで研磨するのは、何故なのでしょうか?
A:半導体基板は、研磨された後にその表面上にnmレベルで配線やエピタキシャル成長によって薄膜を成長させたりします。そのため、マイクロスクラッチといって微少なキズやパーティクルが付着して表面がキレイでないと配線が断線したり均一な薄膜がつくれないのです。(写真を見ながら)この写真でお分かりと思いますが、一次、二次、三次と研磨が進むたびに傷が浅くなり、表面粗さも細かく、きれいになっていきます。

Q:Raというと山の凹凸の平均ということと思いますが、0.05nmとか非常に小さいですよね。これは測れるのでしょうか?
A:現在では原子間力顕微鏡(AFM)などを使って、Åレベルまでの測定が可能です。我々は所有していませんが、生産工程では顕微鏡レベルの観察で経験的にAFM観察と対応させています。

Q:ホームページを見させていただくと、シリコン以外の素材も扱っておられるようですが?
A:1966年にシリコンウェハの加工を開始して、70年代にLT(タンタル酸リチウム), LN(ニオブ酸リチウム)といった酸化物単結晶ウェハ、80年代は化合物半導体のGaP, GaAs, InPなどを手がけてきて、これらのウェハは現在でも量産加工を行っています。近年では、SiCやGaNといったパワーデバイス用素材が開発されてきていますので、新素材の加工開発は我々にとっても常に開発課題となります。
 でも同じ研磨といってもやはり悩みはありまして、例えばシリコンウェハの生産ラインで他の素材は磨けないのです。他の素材原子が入ってきて、それがシリコンウェハにとって原子レベルでの汚染物質になってしまうんですね。ですから、別のラインが必要になります。ラインは沢山あるのですが、メインは3つ、シリコン、酸化物、化合物半導体です。試作的な研磨の場合は、ラボラインであらゆる素材に対応できます。

Q:さきほど、出発点は川口光学測器、というお話がありました。具体的にどのような事業をなさっていたのでしょうか、またそれは今に生きているのでしょうか?
A:川口光学では「光学レンズやプリズムを磨く」ということをやっていました。光の波長がだいたい0.6μmなので、平面度1/10以下、0.06μm以下にまで磨いて平坦化するということです。職人技で平行・平面を出し、宝石の加工にも使われていました。そこに1960年代に半導体素材としてゲルマニウムやシリコンが出現し、どうやってそのウェハ表面を磨くかということになり、いち早く我々が光学研磨技術を応用して、シリコンウェハの研磨加工分野に進出しました。そういうところから始まったのです。当時はシリコンインゴットが25mmφの時代、それが今は300mmφに大口径化しています。

Q:研磨だけの会社は他にもあるのでしょうか?
A:大手の素材メーカーは自分のところでやっていますし、一人で技術を売ってやるところもあると思います。でも、あらゆる半導体材料を少量から数万枚/月まで加工している会社は日本エクシードだけでしょう。

Q:エクシードは卓越とか超とか言う意味と思いますが、この社名の由来は?
A:1981年に社名変更するとき、全社員の投票で決めました。

Q:当時の皆さんの志の高さがわかるようなお話ですね。現在の事業規模については?
A:従業員110名、加工枚数としては全ウェハで約30万枚/月位です。

Q:技術の話で先ほどCMPという言葉が出てきましたが?
A:CMPはChemical mechanical polishingの略です。ウェハ表面を機械的除去作用と化学的除去作用を同時に行わせて、いわゆる傷のないきれいな鏡面を研磨によって作り出す手法です。

Q:それぞれの効果というか作用は、完全にわかっているのでしょうか?
A:シリコンウェハなどは、ほぼ解明されていますが、何しろいままで加工してきた素材は数百種類あるので、すべてわかってはいません。機械的な作用はある程度わかるのですが。

Q:ホームページで、研磨は最後の測定まで入れると8工程、とのことですが、少し詳しくお話願えますか?
A:まず受け入れ工程では、キズやその他の不具合があるウェハを取り除きます。委託加工ですので、当方で責任を負えないものは除くということです。  次に貼り付け工程ですが、ワックスでウェハをプレートに貼り付ける場合には、ワックスの塗布が均一でないと、よい平坦性が得られません。ですからこのワックスのぬり方は重要です。 もちろんワックスを用いない方法もありますが。

Q:研磨は3段階も行うんですね。
A:そうですね。ものによっては5段階以上行うものもあります。研磨剤の粒子径を徐々に小さくしていって、最終仕上げ研磨だと数nmレベルの砥粒を使用する場合もあります。理想的には、研磨剤は素材より柔らかい方がいいです。硬いとウェハにキズがつきます。でも研磨しなくてはならない。そこでCMPで化学的な作用が入ってくるのです。使用される液体はアルカリ性や酸性で、ウェハ表面と研磨剤粒子間、ウェハ表面と化学液体間の化学反応で研磨が進みます。

Q:洗浄・検査の工程では?
A:研磨加工で付着した汚れを除去し、またシリコンでは原子レベルの金属汚染を除去してお客様に返さなければなりません。水はもちろん超純水です。

Q:超純水は自分のところで作っておられるのでしょうか?
A:これは敷地内の自社設備を外部に委託して管理しています。

Q:これまでのお話で、研磨技術には自信がある、ということと思いますが、今はどんな素材の研磨にも対応できるということでしょうか?
A:お客様の要求レベルにもよりますが、一定の大きさのものまでで、エレクトロニクス・半導体素材であればできます。しかし、まったく新しい経験をすることもあり、その場合には新しい研磨剤やその他の消耗資材、加工装置の開発なども必要になります。そのように対応しないと、差別化できないのです。

Q:私(溝口)は多少繊維になじみがあり、最近ある繊維会社のホームページで研磨用のパッドを作っているというのを目にして、研磨も奥が深いというかいろいろな分野との共同作業だな、という印象を受けました。パッドの素材はPETなのでしょうか?
A:そうですね。ポリウレタンやポリエステル系のものが多いようです。構造的に大別して数種類だと思いますが、商品としては数百種類あるかもしれません。

Q:8工程目になりますが、ウェハの厚さの測定についてもう一度お聞かせください。
A:厚さは、接触式や非接触式の厚さ測定器を用いてμm(マイクロメートル)レベルで測定しています。

Q:ホームページで加工変質層という言葉が出てきたのですが?
A:これは、機械的研磨加工で表面を除去する場合、加工表面が脆性破壊により、内部まで歪みが入ることをいいます。ですから一次加工の場合には、内部歪みが残存していますが、二次、三次と加工を進めていき、最終仕上げ加工表面には、内部に向かって加工変質層を無い状態にして仕上げることがほとんどの場合要求されます。
LiTaO3ウエーハ表面の顕微鏡写真

たわむ2.5インチLiTaO3ウエーハ

Q:ウェハの厚み自体も薄くなってきているように思います。御社の表現では超薄化技術ということになりますね?
A:そうですね。お客様の要求はどんどん薄い方に進んでいます。100μm以下の要求もあります。

Q:薄くなってくると、取り扱い自体も難しいのでは?
A:その通りでして、ハンドリングや搬送方法なども今後の課題といえます。

Q:研磨はいろいろな要素の上に成り立っていることは理解できますが、研磨剤、機械、パッド・・と、十分満足できるようになっているのでしょうか?
A:研磨剤など、やはり新しいものは欲しいですね。いまでは、消耗資材メーカーさんもたくさんの製品を開発していただけるので助かっています。研磨剤や研磨パッド、各種薬液メーカーさん、機械装置メーカーさん無くして我々の仕事は成り立ちません。

Q:研磨技術にはソフトの部分もあると思いますし、現場職員の技能が大切な部分もあるように思います。
A:工程によりますが、ウェハを手でセットする手作業、パッドの乾き具合を見るなど感覚で判断する部分もあります。このような技能の部分は大切です。30――40年選手は、このへんの感覚や見極めがすばらしいです。

Q:新しい素材が入ってきた場合には、どのように対応するのでしょうか?
A:最初は開発部門が担当し、お客様の仕様などが固定してきたら製造ラインに移します。

Q:これからの技術の流れ、開発のポイントをどのように見ておられますか?
A:新素材の加工開発はもちろんですが、近年ではMEMS(Micro Electro Mechanical System:電子制御マイクロマシン)分野やナノテク分野に注力しています。 また環境面では、研磨加工では研磨剤などでスラッジがでるので、廃棄物の減少や、できるだけ化学物質は使わないようにしたい、といったことがあります。そういう方向はいつも考えています。

Q:レアメタルなど資源面での制約が出てきていますし、シリコンでは限界という話を聞いたこともあります。これまでと違う半導体材料が出てくる可能性はないでしょうか?
A:近年では、SiCやGaNといったパワーデバイス用素材が開発されてきていますので、新素材の加工開発は我々にとっても常に開発課題です。

Q:話が変わりますが、ここに事業所があるということは意味がありますでしょうか?それと他分野との協力は、どのように見ておられますか?
A:やはり、つくばに近いという地の利がありますね。産総研が工業技術院のころから、いろいろご指導いただいたり、やり取りさせていただいています。 研磨は要素技術ですので、他分野、先ほど申しましたがMEMSとかナノテク分野にはいつもアンテナを張っています。
日本エクシード(株)外観

Q:つくばの研究所、研究者へ望むことは?
A:要素技術のcollaborate、それを全体を見てやって下さる人を期待しています。

Q:国際化への対応についてはいかがでしょう?
A:チャレンジしようと思っています。これまでも話はあったのですが、折り合わず、今のところはありません。

Q:つくばには優秀な若手研究者、ポスドクがたくさんおられます。そういう人たちの就職も含めて話を聞いていただくとか、社内の若手の方々との交流をお考えいただくことはできないでしょうか?
A:お話をお聞きすることはできると思います。研磨はちょっと人気がないようですが。

Q:本日は長時間、どうもありがとうございました。これからもアカデミーのご支援、よろしくお願いいたします。
A:こちらこそよろしくお願いいたします。


(感想)
 研磨というと紙やすりくらいしか縁がなく、今回初めてホームページを見させていただいたのですが、私のような素人にも面白く奥が深いように思われました。そして実際にお話を聞いて、CMPの話、ワックスのぬり方、加工変質層の話などなど、それぞれ非常に興味深く、また研磨という産業・技術も多くの分野の協力の上に成り立っていることをあらためて知ることになりました。半導体は今や、携帯電話から家電製品、自動車まであらゆる分野に使われています。ということは、日本の産業は研磨という要素技術の上に成り立っているといっても過言ではないでしょう。日本エクシードのような会社にはこれからも大いにご奮闘いただきたいものです。
 それと、つくばの研究者たちに、「全体を見ながら、要素技術を集めてcollaborateする、そういう方々がたくさんでてきてほしい」という要望が出ています。示唆に富む貴重なご意見と思います。

(参考)
日本エクシード株式会社 ホームページ
http://www.nihon-exceed.co.jp/


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