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第16回:日立化成工業(株) 先端材料開発研究所
日立化成工業(株) 研究開発本部建物外観

 日立化成工業は(株)日立製作所の子会社、出発点は絶縁材料です。化学系企業であり巨大な電機会社の一翼を担っているわけですから、その製品はやはり電気機器用材料が主であろうと思われます。WEBのあるサイトでは、リチウムイオン電池向け負極材で世界首位、と出ていました。
 平成21年6月2日、同社先端材料開発研究所をお訪ねしました(事務局長野上、コーデイネーター溝口)。同社からは先端材料開発研究所佐藤所長、総務グループ広沢課長代理にお付き合いいただきました。
 まず、野上からアカデミーの概要とショーケース、6月25日開催予定の賛助会員交流会などについて紹介、その後、佐藤所長から、パワーポイントで同社の材料開発状況をご説明いただきました。
 インタビューは、企業紹介の中での数字の確認から始まりました。

Q:従業員数が約15,000人というのは、グループ企業全体としてですよね。
A:そうです。当社単独では約4,000人です。

Q:もう一つ、売上高についても確認させていただきたいのですが。
A:売上高はグループ全体で4,886億円、単独で2,232億円です。その内容ですが、エレクトロニクス関連製品が約51%、機能性材料関連製品が約49%です。
 当社の製品は、いわゆる工業材料でして、直接消費者の目に触れることが少ないのです。

Q:海外にも広く展開しておられます。今、売上高のうち海外がどれくらいの割合なのでしょうか?
A:工場は東南アジア、中国に多いですね。海外売上高は約40%です。

Q:それでは、具体的にいくつか製品の例についてご説明いただけますか?
A:当社の製品は、非常に種類が多いのですが、最初に半導体用の材料からいくつか紹介させていただきましょう。まず前工程用のCMP(Chemical Mechanical Polishing -化学機械研磨)ですが、これは半導体表面を研磨する材料で、セリア(酸化セリウム)で作られる、細かい粒子になります。
 いわゆる半導体はこんな形になっています(図を描きながら)。半導体のチップはリードフレームに接着され、何点か電極が出ていて全体は封止材で固定されています。このときのチップの接着に用いられるダイボンデイングフィルム、このフィルムの当社世界シェアは約70%です。封止材はエポキシ系ですが、これも当社の重要製品です。
リチウムイオン電池用負極材
異方導電フィルム「ANISOLM」

Q:御社のホームページで異方導電性フィルムというのがあって、面白そうだなと思ったのですが。
A:これは接着剤と金属粒子あるいは金属メッキ微粒子からできたフィルムでして、商品名はアニソルムといいます。たとえば回路板を重ねたいという場合、上下はうまく繋がって欲しいのですが隣の回路は繋がると困ってしまう。こういうときに、厚み方向にのみ電流の流れる異方導電性アニソルムが役に立ちます。これは液晶とLSIをつなぐ場合にも必要で、世界シェアは約60%です。
 ほかに配線板及び配線板用材料やデイスプレイ用材料などを出していますし、リチウムイオン電池用カーボン負極材のシェアも世界一です。

Q:半導体業界はやや苦戦しているようですが、半導体用というかその周辺の材料は日本は素晴らしいですね。
A:半導体の周辺材料はまだまだ強いと思います。

Q:今までのお話はエレクトロニクス関連材料が多かったように思います。いわゆる機能性材料ではいかがでしょうか?
A:当社の出発点がモーター用ワニスでしたから、これをベースにした材料はたくさんあります。一言で言えば熱硬化性樹脂、ということでしょうか。ほかにモーター用カーボンブラシをベースにした材料がありますし、PET(陽電子放出断層撮影)装置用単結晶など無機材料も数多く扱っています。

Q:熱硬化性樹脂などについては、また後で聞かせていただくとして、材料開発の基本姿勢というか戦略というか、そういうものはいかがでしょうか?
A:今は次々と新しい材料を開発していかなければなりません。トップでないと生き残れないのです。材料開発に当たっては、MSS(マテリアル・システム・ソリューション)でお客様の要望にこたえるようにしています。
 具体的には、昔は10個の製品を用意して、一番フィットするものをお客様に選んでもらっていましたが、この方法だと、お客様に性能評価の負担をかけてしまいます。そこで、お客様のところで必要と思われる物性・性能の評価を当社がお客様に代わって行い、その評価結果をお客様にご提供するというものです。また変化のスピードが非常に速くなっているので、自分の所で評価しないと追いつけないのです。その意味で、研究所は事業部と兼任することになっています。

Q:ところでアニソルムは、異方導電材料ということで高分子学会賞を受賞されたようですが(2003年5月)、他に研究所発で製品として具体化した例をお聞かせいただきたいと思います。
A:アニソルムは、実は最初は狙いが違っていました。粘着フィルムの高機能化の一つとして導電性の付与を検討していた際、導電性粘着フィルムが面方向に絶縁性を保持したまま,厚み方向に導電性を示す異方導電性を有することを見いだしました。その用途探索の中で,この技術がLCDのガラス基板の回路と駆動ICを実装した基板との接続に有用であることがわかったのです。
 研究所発ということでは、他にもたくさんありますが、たとえばプリント配線板用感光性フィルム、それとPDP(プラズマデイスプレイパネル)用電磁波遮蔽シート、これは可視光透過性と同時に電磁波シールド性を持つものです。先にお話したPET装置用単結晶も研究所発です。これはGSOといって、ガドリニウム・シリコンオキサイドですが、これにセリウムあるいはジルコニウムを添加したものです。
 先ほど評価技術が大事と申し上げたのですが、これについては国も支援してくれていて、評価技術に関するコンソーシアムができており、当社を含め材料メーカーが多数参加しています。

Q:国内の研究所として2所があるようですが、それぞれの役割は?
A:新材料応用開発研究所には、実装材料・システム開発センターがあり、既存主力製品の次世代化を図るのが役目です。たとえばインクジェット対応のフレキシブルデバイス材料の開発、熱硬化性樹脂のリサイクル技術の開発、といったことがテーマです。
 もう一つの先端材料開発研究所は、今までにない技術、未着手の事業領域での技術開発が役割です。たとえばこれからはパソコンの中にまで光が入ってくる、そういうときに必要なLEDなどが研究対象です。いろいろあるのですが、大まかには主に熱硬化性樹脂を扱う、またガラスとの複合体も大事です。この場合は界面の問題が出てきますが。
 他にエネルギー部材としてカーボンを扱い、電池に利用する、ということもあります。
 またこの研究所には、分析センタも含まれています。

Q:これからは、こちらで用意してきた質問にお答え願いたいのですが、御社の出発点はワニスであったとのこと、このときの高分子素材は何だったのでしょうか?
A:油変性ポリエステルワニスですね。これから高分子複合材料に発展してきました。目的志向で高分子と無機材料を融合させてきた、ということです。
 一般の化学メーカーでは、素材が開発されて、面白い材料があるよ、ということだと思いますが、日立化成では目的志向です。

Q:先ほども話に出ていたのですが、御社では半導体用材料がかなり大きな部分を占めているのですね。
A:その通りでして、そのための技術が蓄積されてきています。たとえばセリア素材のCMPでは、STI(Shallow Trench Isolation-絶縁用の微細なSiO2埋め込み溝)レベルの研磨を行います。そうするとナノレベルの粒子が必要になるのですが、実はこれは作る技術も勿論ですが品質管理の技術が大切です。

Q:熱硬化性樹脂としてポリエステルをお使いになっているのでしょうか?
A:メインはエポキシで、フェノール樹脂も使っています。封止材や積層物にこういう樹脂は使われるのですが、可撓性が要求されることもあり、これは課題ですね。ポリエステルもあるのですが、耐熱性の低いことが難です。

Q:材料技術というと、分子レベル、ミクロ構造レベル、形状レベル、さらにシステムのレベルと範囲が広いのですが、日立化成としてはどのあたりを得意としておられるのでしょうか?
A:複合体が主ですね。実は複合体は学問的に十分でないことが多く、トライアンドエラーの部分もあります。硬化自体の評価もよくわかっていない。産業としては進んでいるのですが。
 またエレクトロニクス関連材料では、プロセスはいろいろ考えられます。粒子とか成型とか部分的には言えないことが多い。固めるといっても、熱や超音波などいろいろな方法があります。複合材料で総合的な成型が得意、ということでしょうか。

Q:ホームページで診断薬の紹介があり、ちょっと驚いたのですが。
A:これからのねらい目として、アメリカの会社を買収しました。

Q:これからはソフト面での技術開発が大切になってくるように思いますが、この点いかがでしょうか?
A:研究所の中に計算機科学のグループを作っています。日立グループはこういう分野は強いんですよ。ただ高分子はまだまだですね。特に熱硬化性は難しいです。

Q:現在は世界的に変化・変動が大きいですよね。御社では情報通信・ディスプレイ、環境・エネルギー、ライフサイエンス、自動車という4分野を狙っておられるようですが、この4分野に変更はないでしょうか?
A:今のところ変更は考えていないですね。自動車はこれからも日本のメーカーとして大切だと思います。
溝口コーディネーター(写真右)に対し、パワーポイント等を駆使しながら、丁寧な説明を行ってくれた佐藤任廷先端材料開発研究所長(写真左)

Q:世界的に資源面で制約が出てきていますし、環境問題への対応も大切です。このあたりについては?
A:植物資源やポリ乳酸など、まだ大きな流れになっていないと思います。こういう問題では国の支援も大切だと思います。

Q:つくばに研究所を置くことの意味、あるいは役割については?
A:最初は周りの研究所とコミュニケーションをとるようにしていました。今はその他に、産総研などと協力が進んでいますし、必要になれば農学系とも交流したいと思います。

Q:つくばサイエンス・アカデミーへの注文は何かありませんでしょうか?
A:ジャンルにもよりますが、魅力的な研究をやっていれば人は集まります。テーマが問題なのではないでしょうか?

Q:本日は長時間、どうもありがとうございました。これからもアカデミーへのご支援、よろしくお願いいたします。
A:こちらこそよろしくお願いいたします。


(感想)
 絶縁材料のワニスが出発点と聞いていましたので、日立化成の扱う素材は有機系のもの、と頭から思い込んで訪問しました。ところが何が何が、有機材料・無機材料ともに非常に種類が多く、むしろ複合材料が主になっているようです。それに半導体周りの話もいくつか伺ったのですが、半導体製品として出て行くためにシリコンのような半導体素材はもちろんのこと、ほかに接着剤、絶縁材、封止材・・・とびっくりするほど多くの材料が必要で、日本の半導体技術はこういう分野の方々に支えられているのだ、と改めて感じ入ったような次第です。
 変化・変動の激しい昨今ですが、得意は複合材料の総合的な成型技術、というお話には共感するところ大です。何か中心において、着実に深化させ、また展開していただきたい、そういう姿勢がいくつかの世界首位を生み出しているに違いない、そんな風に思いながら研究所を後にしました。(溝口 記)

(参考)
日立化成工業株式会社 ホームページ
http://www.hitachi-chem.co.jp/japanese/index.html


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