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第17回:日本電子(株) 筑波支店
日本電子(株) 筑波支店 建物外観

 日本電子は、JEOLと言った方が良いかもしれません。電子顕微鏡メーカーとして存在感のある会社です。私は電顕と言えば日立系の走査電顕をちょっと使わせていただいた程度ですが、膜工学を専攻していたおかげで表面科学には関心が深く、しばしばJEOLの名を聞く機会がありました。主事業は電顕と思いますが、質量分析計やNMRの分野でも有名です。
 最近の電顕写真は、一昔前とは比較にならないほど鮮明で、電顕技術にも大きな進歩があったことを物語っています。進歩の中身はどういうことだったのでしょうか?
 平成21年6月4日、野上事務局長、溝口の二人で同社筑波支店にお伺いしました。ご対応は、井川筑波支店長、日本電子データム(株)サービス統括本部の晝間筑波センター長のお二人です。
 野上からアカデミーの概要とテクノロジーショーケース、6月25日開催予定の「賛助会員交流会」について紹介、その後、電子顕微鏡事業の始まりについて質問させていただきました。

Q:ホームページを見させていただくと、御社はもう終戦直後に、電子顕微鏡開発に取り組んでおられ、その1、2年後には皇太子殿下がご視察にお見えになっておられます。混乱の時代にこういう分野に挑戦されたということにちょっと感動を覚えるのですが、事業開始のきっかけは何だったのでしょうか?
A:当社創始者の風戸健二が、戦後いち早く電子顕微鏡を取り上げた理由は、電子顕微鏡により、廃墟と化した日本を復興させスイスの如き平和な日本を作らんがためでした。資源のない日本は、それを海外から輸入するのであろうが、それで良い原材料を造り、高度の加工を加えて電子顕微鏡のように付加価値を大にして輸出する、これを日本の立国の大もとにしなければならないと考えたのです。
世界各国の研究所や大学で生物医学や材料開発などの先端科学の研究に利用されている超高圧電子顕微鏡JEM-ARM1300

Q:とても良いお話と思います。関連して電子顕微鏡の発展についてお聞きしたいのですが、走査電顕(SEM) はむしろ新しく、昔は電顕というと透過型(TEM) だったように思うのですが。
A:その通りです。TEMからSEMに代わり、さらにエネルギー分散型による表面分析から、最近ではトンネル型電顕など原子を見るレベルに発展してきています。  電顕の対象も、最初は生物系でした。最近では材料分析・元素分析の割合が多くなっています。

Q:分解能は、今どれくらいになっているのでしょうか?
A:0.08nmまで可能になっています。

Q:分子のレベルを越えていますよね。これほど性能があがったというと、一番大きな技術進歩はどういうことだったのでしょうか?
A:レンズの性能と同じで収差を抑えることです。これの改善が大きかった。

Q:パソコン技術の進歩も大きいように思いますが?
A:確かにそういう面もあります。昔は写真をとって、きれいな縁になるよう画像解析していました。今は直接画像処理しています。

Q:昔はポラロイド写真を撮っていた記憶があります。ほかに、真空技術など周辺技術の影響はいかがでしょうか?
A:電顕では試料を動かしたり保持したりする操作が入ります。ですからメカも大事なんです。

Q:聞いた話ですが、生きた細胞の観察まで可能になっているのでしょうか?
A:いわゆるWET-SEMのことと思います。低真空での観察ですが、やはり水分蒸発はやります。本当に生のままというのは難しいですね。

Q:えらく基礎的な質問で申し訳ないですが、SEMでは二次電子を見ていますよね。試料によっては二次電子を発生しにくいものがあるのではないでしょうか?
A:二次電子が出にくいものはあります。ですがそれは一時電子のエネルギーを高めるなど、やり方はあります。何を知りたいかにもよるのですが、二次電子の替わりに蛍光X線を捕まえることは、そう難しくありません。エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDF)の開発は比較的容易でした。
原子核の共鳴で謎を解く核磁気共鳴装置(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)

Q:お答えにくいかもしれませんが、最近の電顕の価格はいくらくらいになっているのでしょうか?
A:小型のSEMで5〜600万円くらいでしょうか?水を使わないターボ分子ポンプなどが進歩して、ポンプが小型化してきています。

Q:御社では、分析機器など他の分野でも頑張っておられます。それらを含めて売り上げ割合をご紹介下さい。
A:半分はやはり電顕関係ですね。電顕50、GC-MS(ガスクロ質量分析)・NMR(核磁気共鳴)など分析機器20、医療機器(血液分析など)20、半導体製造関係10といったところです。

Q:質量分析やNMR、アミノ酸分析など分析装置関係でも頑張っておられますが、これはライフサイエンスをにらんでということでしょうか?
A:今のところはまだ半分以上が材料分析です。あつかう分析機器が限定されていることもありますが、ライフサイエンスの売り上げはまだ少ないですね。

Q:電顕で苦労されて、3〜40年前からでしょうか、質量分析などに進出しておられる。かなり思い切った展開のように思えますが。
A:次のステップを考えたのだと思います。

Q:JEOLの研究開発の特徴というと、どういう点がありますでしょうか?ホームページの国内拠点では、研究所が見あたらなかったのですが?
A:当社には、研究所というものがなく、本社の中に研究開発部があります。これは工場と一体化して運営されています。
 たとえばTEMをとってみると、これはモノが大きい。身近におきながら試作していろいろ試してみて、最後は組み上げて、という風に展開していきます。量産するモノではないのです。
 特徴というか、大学との共同研究は多いですね。
血液で病態をさぐる生化学自動分析装置

Q:研究開発担当者はどれくらいの割合でしょうか?
A:社員は合計3100人、このうち500人くらいが技術開発担当です。

Q:筑波支店を設けておられるわけですが、筑波の存在は大きいのでしょうか?
A:つくばの売り上げは15%くらいです。やはり、東京、大阪は大きいですね。

Q:筑波の研究機関との交流についてはいかがでしょう?
A:産総研あたりと共同研究をしています。件数は今は10件以下で、研究員の派遣はありません。

Q:一般的に、研究交流のあり方をどのように見ておられますか?
A:産総研やNIMSなど最先端の研究が行われています。こういうところからの特別な注文ということで、刺激を受けることはあります。

Q:資源高やエネルギー高への対応については?
A:医療機器で必要な試薬を節減する、というようなことはあります。電顕や分析機器では、省エネは当然ですが、装置性能・機能は落とすわけにはいきません。こういうものはあまり大きくないですし台数も多くないので、あまり寄与しないように思います。実際問題として、要求もないのです。垂れ流しは困るので、冷却水を循環させる、などといったことはやっています。
溝口コーディネーター(写真左)に対し、会社のパンフレット等を用いて説明を行う井川研也筑波支店長(写真中央)及び晝間圭司サービス統括本部筑波センター長(写真右)

Q:今後の事業展開・研究展開について?
A:海外展開で、中国、ロシアなどBRICsに力を入れることになると思います。それと、機器の使い方としてワンタッチが望ましい。たとえば質量分析である一定レベルまではワンタッチで実行できるようにする、それ以上は特殊な形というか、ユーザー固有にカスタマイズする、といったことが考えられます。

Q:つくばには優秀な若手研究者、ポスドクが多くおられます。そういう方を採用するようなことは考えられないでしょうか?
A:良い人がいれば、もちろん考えさせていただきます。でもたとえば電顕を使う人がいるとして、会社に入ればそれだけでは目立ちません。待遇が必ずしも良くない、という話になるかもしれません。

Q:今日は長時間おつきあいいただき、有り難うございました。良い勉強になりました。これからもSATをご支援下さい。
A:こちらこそよろしくお願いします。


(感想)
 どの企業訪問の時もそうなのですが、今回もいくつか、心残りをつくってしまいました。基本的にはインタビューアーの私の勉強不足によるものなのですが・・。その一つは、電子顕微鏡だけでなくNMRなどにも大きな進歩があったと思うのですが、それをお聞きできなかったことです。もう一つ、SEMの分解能が上がった、その理由は収差の抑制、ということだったのですが、具体的にどのような方法でと、一歩踏み込んだ質問ができませんでした。
 それはそれとして、お話を伺って、創業者の風戸社長の思いが着実に実現・発展しつつあるという思いがいたしました。今は世界的に大きな変動の時期、日本の今後の進み方にも不透明性が増しています。しかしどういう行き方をするにせよ、ものづくりの大切さが変わることはないでしょう。日本の伝統・生活文化に根ざしたものづくり技術を、一層進展させてほしいものです。
 交流という点については、つくばの最先端の研究に刺激を受ける、というお話ですので、もっと強い刺激が受けられるよう、ぜひ筑波の研究者との交流を深めていただきたい、そのために大いにSATをお使いいただきたい、というように思いました。(文責、溝口)

(参考)
日本電子株式会社 ホームページ
http://www.jeol.co.jp/


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