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第18回:三菱化学(株) イノベーションセンター筑波センター
三菱化学(株)イノベーションセンター筑波センター建物外観

 三菱化学は日本を代表する総合化学メーカー、現在は(株)三菱ケミカルホールデイングスの中核企業として年売上高1.1兆円、その製品はエチレンからプラスチックス、エレクトロニクス関連製品まで非常に広い範囲をカバーしています。阿見町には同社筑波センターがあり、SATの賛助会員として応援してくださっています。三菱化学の基盤技術開発は、(株)三菱化学科学技術研究センター(MCRC)が担当しており、筑波センターにも研究部隊の一部が在籍しています。
 平成21年7月16日、野上事務局長、溝口の二人で同センターにお伺いしました。ご対応は、村田三菱化学イノベーションセンター筑波センター長、宇恵MCRC電池材料研究所長、片山筑波センター研究管理部グループマネジャー、の三人の皆さんです。
 お忙しい中、1時間の約束で、まず同センターの概要をご説明いただきました。このセンターは、敷地26万m2、合計500人が勤務しており、そのうち三菱化学系が300人、MCRCとしてはリチウムイオン二次電池の研究開発が主、とのことです。
 その後、リチウムイオン電池材料について、ビデオを使って紹介していただきました。

Q:三菱ケミカルホールデイングスについて、今のご説明を確認させていただきたいのですが、中核は三菱化学、三菱樹脂、田辺三菱製薬の3社ですよね。このうち三菱樹脂が随分大きくなっているように思えます。
A:その通りでして、全体で売り上げ2.9兆円ですが、川下の方での配合や加工度を上げるということで、三菱樹脂、三菱化学ポリエステル、三菱化学MKV(三菱モンサント化成)、三菱化学産資4社が統合し新生・三菱樹脂として発足、人員としては三菱樹脂が多くなっています。

Q:MCRCについてですが、MCRCがホールデイングスのすべての基礎研究を担当しているのでしょうか?
A:基礎研究はMCRCが担当していますが、更に将来の先進的な探索研究については地球快適化インスティテュートと言うバーチャルな研究組織を設立しています。

Q:ホームページでみると研究所や研究センターがいくつかあって、どこでどのような研究が行われているか、ちょっと読み取りにくい気がします。このセンターではリチウムイオン二次電池なんですね。
A:はい。リチウムイオン電池用の材料の研究開発を担当しています。リチウムイオン電池は、ホールデイングスとしての7大育成事業のうち2番目に取り上げられています。1番目は筑波事業所で進めている白色LEDで、両者共に筑波地区に拠点を置いています。リチウムイオン電池は代々の社長が重く見てくれています。

Q:リチウムイオン電池のお話は、面白く聞かせていただきました。電池材料として正極材、負極材、電解液、セパレータの4つが必要というのはよくわかります。4つとも扱っているのは三菱化学だけという話ですが、それは何か理由があるのでしょうか?それと、パソコンと携帯電話で1兆円規模ということですが、それは材料としてということでしょうか、それとも電池としてということでしょうか?
A:もともと、三菱化学内の別々の事業部の下で研究開発を実施していたものを将来の自動車用途を見越して、電池機材部という新組織を1999年に発足させて現在に到っています。リチウムイオン電池の売上げが約1兆円規模ということです。
三菱化学のリチウムイオン電池材料

Q:先日日立化成さんを訪問したとき、負極材料については、自分のところが世界一と言っておられましたが。
A:そうですね。負極材では後塵を拝しています。私どもでは4つの材料すべてを生産していて、このうち電解液では世界で2番目です。
 1997年にプリウスが発売されましたが、使用されている電池はニッケル水素電池です。2003年にヴィッツのアイドルストップ車に弊社の材料が使用されたリチウムイオン電池が採用されたのですが、将来は全ての車種でリチウムイオン電池が採用されることを期待しています。

Q:リチウム電池とリチウムイオン電池の違いについてご説明下さい。
A:リチウム電池は元々充電できない一次電池でした。これを充放電可能な二次電池にしたいということで開発が始まったのですが、金属リチウムの活性が高く、途中1989年に発火事故が起きてしまい、リチウム二次電池はダメだろうという方向になっていました。ところが1991年、ソニーが金属リチウムでなくリチウムイオンを吸蔵できる炭素を負極に使用し、リチウムイオンを含むコバルト酸リチウムを正極に使用する電池を商品化し、リチウムイオン電池と名付けたのです。ソニーさんは偉かったのですが、このときこの名称が広がるように商標登録をしませんでした。

Q:三菱化学がこの分野に進出されたのには、何か理由があったのでしょうか?
A:リチウム一次電池は、1971年、松下電池工業(現パナソニック)が発明しました。この時の溶媒(電解液)はγ−ブチロラクトンでして、これは三菱化学が日本で唯一の製造メーカーだったのです。

Q:自動車は一大産業で、世界的に再編があったり、その影響は非常に大きいと思われます。自動車用の電池についてはどのように見ておられますか?
A:米国ではグリーンニューデイール政策も打ち出されていますし、自動車用電池は各国で国家プロジェクトにも取り上げられ、自動車の影響は非常に大きいですね。リチウムイオン電池がいつ立ち上がるか?われわれは2015年頃から本格的になると思っています。車用ではトヨタがパナソニックとパナソニックEVエナジーという合弁会社を作っています。日産はNECと組んでオートモーティブエナジーサプライを設立、ホンダはGSユアサとブルーエナジーを設立しています。

Q:車メーカー、電池メーカーの関係もダイナミックに動きそうですね。
A:ノートPCや携帯電話用の小型電池で頑張ってきた電池メーカーも、車となると莫大な投資が必要で、ついてこられないということもあると思います。これからは電池がエンジンになる。これからの車メーカー・電池メーカーの関係は、(1)車メーカー自身が電池メーカーになる、(2)電池メーカーと車メーカーの合弁会社が担う、(3)車メーカーが電池メーカーから調達、という3通りの行き方があると思います。化学メーカーすなわち素材メーカーがどうなるか、素材メーカーに任せるということになるように思います。

Q:三菱化学は、電池は作らないのでしょうか?
A:電池は作りません。

Q:これからは各部材について伺わせてください。まず電解液から。
A:電解液の基本組成は世界で同じです。添加物という鼻薬で性能が変わるのです。一般的に自動車用の部材では1円/g程度に抑えられていますので、高機能をやる必要はないという考え方もあります。ですが、鼻薬はどうしても必要ですね。
溝口コーディネーター(写真右)に説明を行う村田泰弘筑波センター長、宇恵誠筑波エリア長、片山慎也研究管理部グループマネジャー(写真左から)

Q:負極材については?
A:負極材の黒鉛は天然ベースのものと人造ベースのものと2種があります。人造黒鉛は原料を3000℃で3ヶ月間焼成して作ります。

Q:3000℃で3ヶ月もかかるのでしょうか?
A:リチウムイオンが黒鉛の層間にインターカレーションで入り込みます。生焼きではダメなんですね。

Q:部材技術の最近の進歩というと、どういうことがありましたでしょうか?
A:リチウムイオン電池の開発が始まって、もう15年以上です。技術のポイントとしては特許でがんじがらめになっており、少しずつ進歩している、というところです。

Q:車がリチウムイオン電池搭載型に変わっていくときの注意点は?
A:ソニーがリチウムイオン電池を売り出したころの不良率はppbのオーダーと聞いたことがあります。発火事故で騒がれた頃はppmオーダーであったと思います。自動車では不良は人身事故に繋がってしまい、レベルが違います。信頼性がきわめて重要で、新しい材料はなかなか使えません。携帯用途で実績のあるものがベースになるでしょう。新規参入も難しいでしょうね。

Q:リチウム金属の活性が強く、事故に繋がる可能性があるのは分かりますが、イオンになっても発火の危険性はあるのでしょうか?
A:大型電池には莫大なエネルギーが蓄えられていますので、異常があった場合発火が絶対に起こらないとは言い切れません。それを防止するのが技術です。

Q:筑波にこのように研究所を設立されたのは、どういう理由によるのでしょうか?
A:もともと三昌樹脂という三菱油化の子会社がここにありました。油化の池田亀三郎社長のとき、筑波に国立研が集まるらしい、ということで、土地を広げてここに来たのです。元々国立研と交流したいという気持ちはありました。

Q:ここに研究所が移ってきて、その成果というか、結果はどう見ておられますか?
A:いくつか他の企業も来ていますが、多くはうまく行っていないように思います。

Q:筑波の研究機関との交流についてはいかがでしょう?
A:研究者個人とは学会などでの繋がりはあります。個々に基礎的なところでのやり取りはあるのですが、ビジネスまではなかなか広がりません。企業の思いと産総研のようなところとの思いとでは当然異なります。昔と同様に大学に近いような気がします。

Q:今日は長時間おつきあいいただき、有り難うございました。良い勉強になりました。これからもSATをご支援下さい。
A:こちらこそよろしくお願いします。

Q:次ぎのショーケースにはぜひお付き合い下さい。
A:考えさせてもらいたいと思います。


(感想)
 三菱化学は大手の総合化学メーカーですから、筑波センターにおける(株)三菱化学科学技術研究センターの研究分野もかなり広いものだろうと思い、そのつもりで質問を考えていったのですが、思いがけないことに、ここでの担当は「リチウムイオン電池」ということで、最初はちょっと戸惑ってしまいました。しかし、テーマが限られたおかげで、技術の中身に入り込んだやり取りをすることができました。ご担当の宇恵博士には物足りなかったかしれませんが、私としては、随分良い勉強をさせていただく機会になりました。リチウムイオン電池部材については、日本が一歩リードしているようで、心強い限りです。
 どの分野、どの製品においても世界的競争の避けられない今日、三代の社長がリチウムイオン電池開発を重要テーマとして大切に育ててきたという三菱化学の戦略眼、姿勢、そしてそれに応える成果を挙げてきた研究者に敬意を表したいと思います。

(文責、溝口)


(参考)
三菱化学株式会社 ホームページ
http://www.m-kagaku.co.jp/


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