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第20回:(株)日立製作所日立研究所 材料研究所
太平洋が一望できる(株)日立製作所日立研究所

 (株)日立製作所は言うまでもなく、日本を代表する大企業、その事業分野は医療・健康分野から原子力や火力発電所といった巨大なプラントシステムまで広範囲であり、技術要素はハードからソフトまで多岐に渡っています。その中にあって、材料研究所はどのような位置を占めておられるのでしょうか?また、ホームページで紹介されている最近の具体的な研究開発成果(超薄型液晶テレビ、自己組織化を利用したナノパターンニングなど)も、非常に興味深いものです。
 平成21年8月24日、日立研究所材料研究所(日立市)をお訪ねしました(事務局長野上、コーデイネーター溝口)。同所からは児玉所長、野木企画室長にお付き合いいただきました。
 まず、野上からアカデミーの概要とショーケース、9月5日開催予定のつくばスタイル交流会などについて紹介、その後、児玉所長から、パワーポイントで日立製作所全体の研究開発スキーム、および材料研究所の概要をご説明いただきました。

Q:今のパワーポイントでのご説明から、質問を始めさせていただきたいのですが、関連会社を合わせて国内外で従業員約40万人というと、本当に巨大企業ですよね。驚きました。
 研究開発については、日立全体でコーポレート研究所として6所あり、さらにそのほかに事業部所属で、各々のビジネス内容に応じた開発研究所がある、ということなんですね。

A:そうです。たとえばエネルギー・環境システム研究所などが事業部直轄です。北米や中国、欧州にも海外ラボがあります。人数的には、コーポレート研究所で職員は合計3000人くらいいます。

Q:もう一つ、売上高と研究開発費についても確認させていただきたいのですが。
A:売上高は日立グループ全体でほぼ10兆円、研究開発費は事業部門も含めてその4%くらいです。

Q:コーポレート研究所のなかで、中央研究所、機械研究所などは目的、機能がなんとなく分かるのですが、名称が日立研究所というとちょっと内容が分かりにくいように思われます。
A:日立研究所の名称は、日立の最初のコーポレート研究組織(1934年創立)であるという歴史的背景によります。技術的な内容から見ても日立研究所の守備範囲は広く、ひとつの技術的な言葉でうまく全容を表現することは、難しいと思います。
 中央研究所は日立研究所設立の後、将来の新しい事業を創出することを目的に1942年に設立され、さらに1985年には、基礎研究の強化のため基礎研究所ができています。

Q:材料研究所は、日立研究所の中にあるのですね?
A:そうです。日立研究所は次世代電池・情報制御という二つの研究センター、それと材料研究所で構成されています。人員は約700名、そのうち学位取得者が約150名おります。

Q:日立は事業範囲が広く、先ほどのご説明の中でも基盤技術から社会システムまで総合的に研究開発対象としておられます。これが一つの特徴とも思いますが、範囲が広いとやりにくい、というようなことはないでしょうか?
A:広い範囲といっても、1つの研究所で全範囲をカバーしているわけではありません。技術分野毎にそれぞれ得意なところで6研究所が分担しています。日立研究所では、エネルギー・環境の分野及び材料分野を主に担っています。

Q:研究所がお互い協力して、という話はないでしょうか?
A:事業部主体の戦略プロジェクトと研究所主体の特別研究プロジェクトという制度があり、戦略プロジェクトでは、次期の新しい事業化製品の開発を事業部主導のもと、関係研究所が集まって協力し推進しています。特別研究プロジェクトは、先行した新技術の開発を研究所中心に進めるもので、研究所間の連携推進が基本です。
薄型液晶テレビ(試作品)

Q:技術の中身に少し入らせていただいて、薄型TVのWoooUTシリーズで大きな進歩があったようですが、まず売り物の一つIPSをご説明下さい。
A:IPSは、In-Plane Switching(横電界駆動方式)の略で、日立で初めて実用化した方式です。それまでの方式と全く異なり、液晶分子を平面内で動かすことが特徴で、それにより視野角を広くできます。

Q:Wooo UTシリーズの他の特徴は?
A:普通の液晶TVでは、バックライトとして液晶パネルの後ろに複数本の蛍光管が並んでいます。テレビを超薄型にするためには、このバックライトの光をどう均一に拡散させるかや、熱の逃がし方が大きな問題でした。たとえば、液晶のうら側には、光の拡散を助けるために特別な表面加工を施した拡散フィルムを設けています。

Q:どのような表面加工で、どのような効果が得られるのでしょうか?
A:光の透過率を低下させずに拡散機能を強化させるといった表面加工を施すことによって、高品質な画質と薄型化の両立を実現しました。

Q:放熱技術についても、よろしければご説明下さい。
A:放熱技術については、機械研究所と協力して最新の熱流体解析シミュレーションを活用して、新設計の放熱技術を開発し、超薄型でも効率的な排熱を実現しております。
H25ガスタービンに搭載した単結晶動翼

Q:液晶はそもそも分子が動かなければならないので、動画は苦手なような気がするのですが?
A:そうですね。そのために材料の改良や駆動方式、画像処理の技術などで改善を図っています。

Q:有機LEDはバックライトの問題はないですよね。
A:その通りです。有機LEDは自分で発光するという点でプラズマと同じで、バックライトは不要です。現時点では、まだ寿命やコストの点で解決すべき課題が残っています。

Q:話題を変えさせていただいて、超電導材料の二ホウ化マグネシウム(MgB2)は金属に分類されるのでしょうか?
A:金属間化合物で金属の性能を持っています。
車載用リチウムイオン電池
自己組織化パターン例

Q:MgB2の線材では、多芯構造が大切なようですが、その理由は?
A:超電導線材は一般には超電導の"芯"が多数配置された形態をしています。この"芯"のことをフィラメントと呼びますが、超電導状態の安定性や交流損失低減の点からフィラメントの直径が小さいことが実用上重要です。一本あたりのフィラメントに流すことのできる電流容量には限りがあるため、多数のフィラメントを配置します。

Q:自己組織化とナノパターニングの話は面白かったのですが、ナノインプリントもやっておられるようで、うまく行けばこちらの方が使いやすいのではないでしょうか?
A:その通りだと思います。ナノプリントでのパターン形成は非常に低コストなプロセスを実現できると考えています。一方、自己組織化では、現状のインプリントよりさらに微細なパターニング等を対象として研究をしています。高分子材料自身が持つ相分離する性質を利用して電子線描画の限界を越えるパターニングが可能となります。

Q:パターン高密度化の工程の中で、相分離現象の結果をどう利用するのか、たとえば疎水性の部分を除去するなどということがあるのでしょうか?
A:たとえば、相分離することにより基板表面上に比較的疎水性の高分子からなるマトリックス中に比較的親水性である微細シリンダが規則的に配列した構造を有する薄膜ができます。得られた微細シリンダをエッチングで除去することにより薄膜に高密度に孔をあけることができ、基板のエッチングマスク等として活用することができます。

Q:分野間の協力という点について、あらためて質問させていただきたいのですが、御社では、物質といってもDNAのレベルから原子炉材料まで扱っておられる。この間の交流はあるのでしょうか?
A:DNAと原子力材料の研究者の交流と言われると直接には無いかもしれませんが、もう少し近い分野同士では定常的な交流の機会はありますし、定常的な交流がない技術分野間でも、ある面で有用な知見があると分かればすぐにコンタクトできるパスは多数あります。レクレーションなどを通した従業員相互の幅広い交流の機会も、そういう意味で意識して作っています。

Q:方法論で参考になることがあるように思いますが。
A:その通りだと思います。

Q:材料研究のあり方について一般論でお聞きしたいのですが、最近では計算機科学が発展したりして、研究の進め方も変わってきているように思います。そのあたりについてはどのように?
A:シミュレーションは取り入れるべきと思っています。競争の激しい時代ですから、研究効率の面からも昔ながらの絨毯爆撃のような研究はやっていられなくなっています。ですが一方で、特に材料研究は机上の検討だけでは不十分で、実験が非常に重要だと思っています。

Q:まったく話が変わって、つくばに研究所を設けることは考えておられませんか?
A:現時点ではありません。つくばには幅広い分野の研究者が集まっていて、研究者にとっては刺激の多いすばらしい環境だと思います。つくばには、日立Grの日立化成が研究所を構えており、こことの交流は盛んです。また、産総研やNIMS、筑波大学との共同研究などを通した研究交流もあります。
溝口コーディネーター(写真右)に対し、日立研究所の概要や製品について語る児玉弘則材料研究所長(写真中央)、野木利治日立研究所企画室長(写真左)

Q:SATへのご希望などありませんでしょうか?
A:いろいろな分野の研究者が集まっているというつくばの良さを、実際に果実にむすびつけようと地道な活動をされています。むしろ研究者の人達に、もっとうまく使って欲しいですね。そのためには、やはり継続的なSATのPRが必要だと思います。

Q:つくばには多くのポスドク研究者がおられます。ポスドク採用の可能性について考えておられないでしょうか?
A:日立では従来よりポスドクの方を含め、中途採用を実施しています。中途採用の場合は、やはり即戦力としてこちらの希望技術分野に合うかどうかが第一ですね。

Q:本日は長時間、どうもありがとうございました。これからもアカデミーへのご支援、よろしくお願いいたします。
A:こちらこそよろしくお願いいたします。

(溝口 記)


(感想)
 来年で創業百周年を迎える(株)日立製作所は、県北の常陸太田市出身の私や私の友人にとって、皆が就職したいと思っている憧れの企業であり、一方、日立研究所は阿武隈山地の南端に鎮座して威容を誇り、他に高層建築物のない久慈川流域の人々から、常に憧憬の眼差しで見られている研究所です。
 小学生の頃から行ってみたいと思っていた日立研究所を生まれて初めて訪れ、児玉所長と野木室長から、未来のために多くの研究者や多額の研究費を割いていることをお伺いし、「技術の日立」とか"Inspire the Next"といったキャッチコピーの意味が少し分かったような気がしました。
 また、研究所からの眺望は予想以上に素晴らしく、太平洋や関東平野が一望でき、360度広がる美しいパノラマを横目に研究に励めば、仕事もはかどるのではないかと感じました。
 (株)日立製作所は、郷土の誇りであるとともに、県北地方の経済浮沈のカギを握る企業でもあるので、これからもその技術力を生かし、世界に羽ばたいていっていただきたいと考えています。

(野上 記)


(参考)
株式会社日立製作所 ホームページ
http://www.hitachi.co.jp/


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