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第21回:不二製油(株) つくば研究開発センター
不二製油(株) つくば研究開発センター 建物外観

 私は不二製油(株)のことは、最近までそのお名前は知っているという程度でよく存じ上げなかったのですが、賛助会員としてご入会いただいた機会にホームページを開き、油脂、大豆タンパクを中心に堅実な事業展開を世界的に広く進めておられることを知って驚きました。製品を見ると、チョコレート用油脂、大豆たん白素材など、製造プロセスには私が専門とする「化学工学」が縦横に使われているように思われます。具体的にどのような技術がどのように使われているのでしょうか? 平成21年9月3日、不二製油株式会社つくば研究開発センター(つくばみらい市)をお訪ねしました(事務局長野上、コーデイネーター溝口)。同センターからは小林センター長、廣塚フードサイエンス研究所長、佐本同所第1グループリーダーにお付き合いいただきました。
 まず、野上からアカデミーの概要とショーケース、9月5日開催のつくばスタイル交流会、10月2日開催の国際講演会などについて紹介、その後、小林所長から、会社案内をもとに、不二製油の事業概要、研究開発体制などについてご説明いただきました。
 また、簡単なやり取りの後、廣塚所長のご案内で研究開発センター、サニープラザ(後述)を見学させていただきました。

Q:まずは賛助会員としてご入会いただきましたこと、お礼申し上げます。早速ですが、いまの概要説明を確認させていただくことになるのですが、御社ではチョコレート用油脂と大豆たん白を主素材として、業務用の食品素材を世界各地で供給しておられる、そういう理解でよろしいでしょうか?
A:そうです。事業としてはほかにパンやお菓子用の素材部門があるのですが、基本素材としては植物性油脂と大豆たん白が大きな柱です。ほとんど業務用のため世間にはあまり知られていないのですが、間接的においしさと健康に貢献している、というように思っています。このあたりは、自動車用の部品メーカーと似たところがありますね。

Q:ご説明の中でニッチな市場向け、というお話が出ていました。ニッチどころか手広くやっておられるように思うのですが。
A:例えば、当社が行っている事業にチョコレート用油脂という分野があります。食用油脂全体の市場は非常に大きな市場なのですが、その中のチョコレートに使用する油脂の市場規模は非常に小さいものです。まさにニッチと言えます。

Q:チョコレート用油脂とはそもそもどういうものか、初歩的ですみませんが、そのあたりからご説明願えますか?
A:チョコレートは、カカオ豆から採取するカカオバターを使用してつくられています。このカカオバターが高価なものですから、このカカオバターと自由に置き換えできる油脂を植物油をベースに高度加工して作っていますが、これをチョコレート用油脂と呼んでいます。
 ご存知と思いますが、昔はチョコレートがもっと高いもので、チョコレート用油脂を使用していただくことで、買い求めやすい価格になり、チョコレートの普及に貢献できると考えました。つまり豊かな消費生活を味わってもらいたいという思いがあったのです。当社の企業理念は、「食の創造を通して健康で豊かな生活に貢献する」ということですが、この理念を具現化していると思います。創造ということでは、昔から研究開発には力を入れていました。
不二製油(株)が開発した洋菓子用チョコレート

Q:研究開発については、後で取り上げさせていただきますが、まず油脂として、どういうものが使われているのでしょうか?
A:油脂というのは、もともといろいろな分子の混合物です。したがって、固いものが軟らかいものに溶ける、というような事になっています。ここから結晶化させたりして、ある融点のものだけを取り出すことが大切でして、これを何度も繰り返して、希望の分子種を取り出すわけです。たとえばカカオバターは主には3種類の分子でできていて、その配合割合のコントロールが重要なのです。
 チョコレートは固いですが、うまく割れますよね。そして口に入れると溶ける。このとき、融解熱で口の中の熱を奪うのでさわやかな感じがするのです。含まれている砂糖が唾液に溶けるときにも、同じ効果が出ています。いろいろな油脂を配合して、こういうことがうまく実現されなければなりません。

Q:大豆たん白についてはいかがでしょう?
A:大豆たん白は、畑の肉、と言われるほどで、栄養的には牛肉に匹敵します。過去から、食肉加工製品などの普及に役立てていただいています。それとやはり健康に役立てる、という思いがありますね。

Q:会社案内をたどりながら、あらためて事業内容をご説明願いたいのですが。
A:当社は1950年創業ですが、終戦後間もないころでして、大豆や菜種など油脂原料は配給制で、主に戦前からの老舗の油脂メーカーさんに割り当てられていまして、新しく参入することは難しい状況でした。それで南方系の油脂に目をつけたのです。
 ヤシにはココナツ(ココヤシ)とパーム(アブラヤシ)の2種があり、この二つを持ち込みました。最初はこれらの南方系油脂を国内で搾油及び加工をしていましたが、現在ではココヤシはフィリピンに工場があり、アブラヤシはマレーシアの工場で一次加工され、シンガポール、アメリカ、EU、中国などの自社工場で高度加工されています。
 特にチョコレート油脂では世界的にも大きなシェアを持っております。

Q:会社案内では、油脂加工食品としてチョコレート以外に、製菓用油脂、冷菓用油脂、パン用のマーガリンなどかなり幅広いようですが。甘いものが好きなので、随分おいしそうに見えます。
A:そうですね。当社の油脂や油脂加工食品素材は、パンやお菓子類、冷菓子その他幅広い食品にお役立ていただいています。従って、消費者の皆様は当社の存在はあまりご存知なくても、当社の製品を何らかの食場面でお口にしておられるのではないかと思います。間接的には全ての消費者の皆様は当社の大切なお客さまだと認識しております。
不二製油(株)で製造しているクリーム類

 大豆食品については、見学のあとに取り上げていただくとして、当社ではほかに「ソフトの提案」も大切なことに思っています。油脂や油脂加工食品という業務用食品素材をどのように使うと面白いかということを提案しようというわけです。国内はもとより、中国・東南アジアでは日本スタイルのパンや洋菓子の提案を行っております。現地では、所得水準も上昇しており、価格は高いものの大変美味しい日本スタイルのパンや洋菓子を食べたいというニーズも出てきております。
 当社にはパン屋さんやお菓子屋さんなどのお客様に来ていただいて要望をお聞きし、パンや洋菓子を共同試作するようなスペースとして、フジサニープラザ(阪南、東京、つくば、シンガポール、上海の5ヶ所)があるのですが、これもソフト提案に大切なものです。

Q:それでは次に、大豆についてお聞きしたいと思います。大豆たん白を取り上げられたのは何か理由があるのでしょうか?
A:油を絞った後の脱脂大豆には、タンパク質が一杯含まれています。これは外国では家畜の餌に使われるのですが、日本では栄養健康面から大切な素材でして、食肉加工製品、水産練り製品、惣菜や、インスタント食品の油揚げなどに使用していただいています。また、大豆たん白を使用した当社のガンモドキはお弁当などに使われています。

Q:大豆には、いろいろ医学的な効果もあるようですね。
A:そうですね。大豆たん白にはコレステロール低下作用がありますし、イソフラボンはポリフェノールの一種で、女性ホルモンに似た働きを持ち、更年期障害の予防に効果があるようです。また、β‐コングリニシンは中性脂肪を下げる効果があると期待されています。こういった効果は、不二蛋白質研究振興財団での研究テーマとしても取り上げられています。
 医学的効果の話ではないのですが、「おから」から抽出したソヤファイブという水溶性の大豆多糖類は、酸性乳飲料の安定剤として使われています。また、でんぷん同士の接着を防ぐ機能があるため、チャーハンや麺類のほぐれ効果を目的に使われたりもしています。
ハム・ソ−セ−ジなどの畜肉加工品や蒲鉾などの水産練り製品の品質強化および安定目的に利用されている不二製油(株)の粉末状大豆たん白

Q:いろいろ面白いお話を聞かせていただきました。ここからは用意してきた質問にお答え願いたいのですが、ホームページを見ますと、1955年資本金が1.6億円、それが最近では132億円と非常に大きな成長を遂げておられます。節目節目の製品といったものがあるのでしょうか?
A:日本全体の伸びに合わせて、ということと思います。最初大阪市内に工場があったのですが、泉佐野市に大きな工場を建てて、それが飛躍のきっかけになっています。

Q:海外にも随分進出されていますが、海外売上げ比率は?
A:総売上2393億円のうち、1337億が国内です。海外は40%くらいです。

Q:原料調達については?
A:チョコレート用油脂については東南アジアその他、大豆はアメリカが主です。

Q:油脂というと、脂肪酸グリセリンエステルの混合物ですが、それの使い方や改質について、付け加えていただけませんか?
A:混合物ですから、先ほどの話のように分けることが大切ですね。それと酵素を使って油脂をエステル交換させ、必要なものをつくる、というような加工も行っています。

Q:同じ油脂でも、チョコレートとお菓子ではやはり内容が違うのでしょうか?
A:それぞれニーズに応じて違うものを使っています。ブレンドや分別をうまくやるということです。長くやっていると、ノウハウが貯まってきて、どういうお菓子にはどういう油脂が良いか、などわかっています。国内は国内の嗜好、海外は現地の嗜好に合わせています。

Q:新クリア製法による豆乳製品、というのがあるように聞いていますが?
A:大豆の熱処理技術で「えぐみ」を取るようにしています。結果的にクリアな味のものができるということで、透明な液というわけではありません。

Q:研究開発体制について、あらためて概要をご説明下さい。
A:研究所としてはカンパニー開発部門、フードサイエンス研究所、基盤技術研究所の3つがあり、研究員は海外の研究員まで含めると約300人です。先ほどの見学のときにご説明しましたが、当研究所にはkgオーダーの処理が可能なパイロット施設が付設されています。

Q:食品企業なので、安全や衛生面での管理は非常に厳しいと思いますが?
A:厳しいのは当社に限らず全ての食品企業共通ですね。当社には社長直属で品質保証部があり、その中に分析センターが入っています。ここでカカオ豆の農薬、微生物、アレルギー物質や遺伝子組み換え大豆が入っていないか、など検査されています。
 トレーサビリテイも厳密でして、原材料から製品、消費の一連の流れでどこでも把握されるようになっています。

Q:私は化学工学が専門なのですが、本日のお話の中で、随分、装置設計的な仕事が多いように思いました。化学工学の人材の必要性はどのように見ておられるでしょうか?
A:新しい素材を作るための製造装置の開発とか、生産の効率化を担当するエンジニアリング部門があります。こういうところでそういう人を採用していますが、食品工業ですと、入社して何をやるか判りにくいかもしれません。
溝口コーディネーター(写真左)に対し、会社の概要や製品について語る廣塚元彦フードサイエンス研究所長、小林誠研究本部長兼基盤研究所長兼つくば研究開発センター長、佐本将彦フードサイエンス研究所第一グループリーダー部長補(写真右から)

Q:こちらに工場、研究所を建てられたことの意味は?
A:当社は関西系の企業でして、関東ではあまり知名度がありませんでした。関西系から全国へということがあります。1990年に当研究所が建てられました。

Q:資源や環境エネルギー面から、今後の展開をどのように見ておられますか?
A:もちろん、大切なことと思っています。フードサイエンス研究所は、木材チップの利用ということで、新エネプロジェクトに入らせてもらっています。

Q:つくばの国立研や大学との研究交流は進んでいますでしょうか?
A:食品総研や産総研とは共同研究もありますし、装置を使わせてもらったりもしています。食品関係ではそれが狙いでもあり、交流はありますね。


Q:本日は長時間お付き合いいただき、有難うございました。今後もご支援下さい。また賛助会員交流会、テクノロジーショーケースにはぜひご参加いただきたく思います。
A:こちらこそよろしく。賛助会員交流会などに顔を出させていただきたく思います。


(感想)
 これまで油脂食品工業にはまったくなじみがなかったのですが、今回、丁寧にご対応いただき、また見学をお許しいただいて、その事業内容がかなり理解できたように思います。業務用製品が多いということですが、お話を聞くと最終製品には身の回りのものが一杯という気がしました。油脂の分別やエステル交換の話は面白かったのですが、ノウハウが多いようで、詳しい技術内容については、質疑を遠慮することにしました。それにしても、しっかりとした技術をベースに、世界展開されている姿には頼もしさが感じられます。一層のご奮闘をお願いしたいと思います。
 交流ということで言うと、粘性の高い流体を扱い、また結晶化や融解を扱っておられるようなので、血液流や半導体の結晶析出などの分野との交流は考えられないか、そんな思いで同研究センターを後にしました。

(溝口 記)


(参考)
不二製油株式会社 ホームページ
http://www.fujioil.co.jp/


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