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第23回:カゴメ(株) 総合研究所
カゴメ(株) 総合研究所建物外観

 カゴメ(株)は野菜ジュースやトマトジュースで有名な企業ですが、愛知県東海市が創業の地、私(溝口)は名古屋出身でして、トマトケチャップを通して子供の頃からカゴメという名には親近感があります。
 ところで、野菜やトマトをジュースにするわけですから、イメージとしては、原料をつぶして搾って、さらに漉してそれで容器詰め、ということになるのでしょうが、季節を問わず高い品質を一定に保って供給するというと、そう簡単なことには思われません。原料の確保からして大変なことでしょうし、大体、トマトのヘタはどうやってとるのでしょうか?野菜ジュース・トマトジュース生産に当たって、中核的な技術はどういうことになるのでしょうか?
 平成22年2月23日、同社総合研究所(那須塩原)を訪問しました(溝口、野上)。同社からは、児玉総合研究所長、細井農業研究部長、高橋研究推進部長、同部研究企画グループ和田主任にお付き合いいただきました。


(温室見学)
 Q&Aに先立って、トマト栽培の温室2カ所を見学させていただきました。第一の温室は一般見学用と思いますが、いくつかのトマト品種が栽培展示されていました。日本に最初に持ち込まれたものに形がそっくりのトマトも栽培されています。17世紀にオランダ人により持ち込まれたようですが、現在のものとは随分違っていて、ごつごつした大きな人間の握りこぶしといった感じの、淡い赤みのトマトです。すぐ脇に展示してある狩野探幽の写生図(1668年)と同じです。日本で最初に食用になったトマトは明治の初めにアメリカから入ってきたようで、それを品種改良して、丸型のあの赤いトマトとなっています。生食用はいわゆる桃太郎トマト、加工用(ジュースなど)は小ぶりのものが多いようです。一つ二つ試食しましたが、加工用で皮は厚いものの良い味がしました。驚いたことに、加工用のトマトは実をもぎ取るとヘタがついてきません。そういう品種なのだそうです。
温室で栽培しているトマトについて説明する細井克敏農業研究部長(写真左)

 もう一つの温室は、大型のガラス温室で生食用トマトの栽培条件試験用です。ココヤシの培地からトマトの茎が長く伸び、根元には肥料液が注入されています。茎は上に伸ばし何段も実が収穫されるのですが、収穫後は横に這わせて、また上に伸ばして結実させ収穫する。1年間こういうことを繰り返すと、茎の長さは最後には15〜20mにもなるそうです。こういう栽培試験で最適な肥料液条件などが決められるとのことです。ついでながら、残った茎はコンポスト化され、肥料として使われます。
 見学の帰りに指さされた建物は、トマト種子の保管庫で、世界の7500種あまりのトマト遺伝資源がここで保管・管理されており、これをベースに品種改良が進められているとのことです。




(Q&A)
 はじめに、SATについて簡単に紹介させていただき、また10分ほど、カゴメ(株)・総合研究所についてPPTでご説明をいただきました。

Q:見学のお手配、有難うございました。いろいろイメージがクリアになりました。また今の御社紹介でクリアになった点がいくつかあるのですが、そういうことも含めて質問に入らせていただきます。まず事業内容として、野菜ジュース・トマトケチャップ中心で他にいろいろな飲料、乳酸菌飲料を展開、という理解でよろしいでしょうか?
A:そういうイメージでよいと思います。
話題となった商品(左からトマトケチャップ、トマトジュース、植物性乳酸菌ラブレ)

Q:今のPPTご説明に出ていたのですが、会社の規模や製品別の売上高などもう一度ご説明下さい。
A:大雑把にですが、資本金200億円、連結売上高が1750億円、グループ従業員が2000人、売上の半分がジュースやお茶などの飲料、それ以外が半分です。国内工場が8ヵ所、海外では場所によって製品が異なりますが、アメリカ、台湾、中国、イタリア、ポルトガルで製造販売しています。

Q:事業の出発点はトマトケチャップのようですね。それからトマトジュースに出られたようですが、それぞれお始めになった理由・動機はどういうことだったのでしょうか?
A:創業者である蟹江一太郎が西洋野菜を栽培・販売していて、トマトが売れ残ったためこれをトマトソースとして売り出したのが始まりです。ケチャップでなくソース(ピューレ)ですね。トマトジュースの事業化は少しあとですが、いずれもアメリカで実現されていたものを国内で再現した、ということのようです。ケチャップやトマトソースだけではトマトを処理しきれない、という面もあったようです。

Q:カゴメという社名は「籠の目」から来ているというのは本当ですか?恥ずかしながら、私は長い間、「かもめ」から来たと思っていました。
A:創業者がロゴマークとして、三角形を2つ組み合わせた六角の星型を考えたのですが、農家のご夫人連中に、「それは(竹)籠の目にそっくりだ」と言われて「カゴメ」としたのだそうです。

Q:創業時の雰囲気を伝える良いお話ですよね。ところで「自然を、おいしく、楽しく。KAGOME」は分かりやすく良いブランドステートメントと思いますが、一方で、自然にこだわるとコスト高ということにならないでしょうか?
A:私どもは、このブランドステートメントをお客様への約束であると思っています。確かにコスト高の面もあるのですが、畑から食卓まで垂直統合的に取り組む、という弊社の特徴で、コストメリットが出ている面もあるのです。
飲料春の商品(この春にリニューアルした野菜生活100シリーズ)

Q:原料はすべて国産なのでしょうか?原料調達はどのように?
A:トマト、人参、他の野菜などの国産の比率は5%です。残りは海外産の原料となります。1989年のトマト自由化の影響が大きかったと思いますね。しかし、トマトジュースは国産原料にこだわっています。国内の農家とは契約栽培になっていて、栽培の専門家が細かく対応していますし、海外でも栽培指導しています。トマトの国内消費は143万トン、そのうち37万トンはカゴメです(2007年度)。

Q:トマトジュースを例に、加工工程をご説明いただけますか?
A:まず入荷原料をつぶして搾汁します。次に種などを漉して、RO(逆浸透膜)で濃縮します。この間、香りやビタミンCが減るといけないので、酸素と触れないよう熱をかけないよう注意しなければなりません。

Q:この場合、技術の中核は何になるのでしょうか?膜分離技術がかなり重要なように思われますが。
A:個々の要素技術というより、畑から工場への入荷、工場での加工、という一連の流れを把握し管理していること、と言えると思います。カゴメの研究開発の基本思想が、「よい原料xよい技術=価値ある商品」 と考えているのですが、これを実現しているということです。
 個々の工程では、搾汁技術、RO膜濃縮技術に独自性が発揮されていると思います。おいしいジュースをいつも供給するためには、もっともおいしい時期に収穫したトマトを濃縮して保存しておかなければなりません。海外からの輸入原料も同じです。そうするとROによる濃縮技術が重要になるのですが、4倍まで濃縮できるのは世界でもカゴメだけです。最近は抗酸化作用の強いリコピンに注目していまして、この鮮やかな赤色を残す努力が続けられています。

Q:細かくなりますが、トマト搾汁液の浸透圧はどれくらいになるのでしょうか?海水で浸透圧25気圧くらいですから、4倍まで濃縮というと、分離にはかなり高い圧力が必要なように思われます。
A:4倍濃縮された搾汁液で、およそ30気圧になります。実際の工程では、濃縮された搾汁液を搬送するための圧力損失も加味した圧力がかかっています。

Q:搾汁のとき、タネなど粒状のものは分離されると思うのですが、こういう残分はどのように処理しておられるのでしょうか?
A:動物用の飼料として、引き取っていただいています。

Q:加工の前、トマトのヘタをとるのが大変、と思ったのですが、さきほどの温室見学で、収穫時にヘタがとれてしまうというので驚きました。
A:ご専門が違うでしょうから、驚かれたかもしれませんね。ヘタが茎側に残るジョイントレス品種というのを使っているのです。

Q:新しい品種が実用化されるというか、実際に栽培・利用されるまでにどれくらい時間がかかるものでしょうか?
A:親品種の育成から始める場合には10年くらいかかります。しかし近年は親品種も様々な形質を持つ品種を蓄積しており、5年くらいで新しい品種ができるようになっています。

Q:いろいろな物質の配合も大切であるように思われます。そうだとして、配合物の種類や量(レシピ、ソフト技術)と加工技術(撹拌の仕方など)のどちらが大切なのでしょうか?
A:これはどちらも大切ですね。求める品質を実現するためにはどちらも大切なのです。産地と季節で味が違ってきますので、これを一定にすることは難しい。商品開発に当たっては、官能パネラーの評価も大切です。このパネラーというのは匂いや味を識別する能力を持った人達で、検定を通らなければなりません。
この春に発売するトマト調味料(トマトそうめんつゆ、トマレピシリーズ(3種))

Q:同じ質問になってしまいますが、トータルに見て、製品品質への影響は原料、配合レシピ、加工技術、どれが大きいのでしょうか?
A:おいしさや機能性への影響という点で、原料が重要です。技術は大きく見れば酸化との戦いですね。

Q:ジュースとケチャップ、製造工程上の基本的な違いは?もともとのケチャップ技術がジュース技術のベースになっているのでしょうか?
A:ベースの技術は似ていますが、ケチャップ技術の上にジュース技術、ということでなく、別の技術として開発しています。ジュースは飲料、ケチャップは調味料で、調味料は多くの原材料が投入され調合されます。飲料と調味料では物性がかなり違い、処理時間も違ってきます。殺菌技術も容器に合わせて異なります。

Q:商品の中に乳酸菌飲料もありますね。トマトジュースなどと技術ベースがかなり違うように思います。その出発点というか、技術ベースは?
A:過去に乳酸菌飲料を販売していた経緯もあり、発酵技術のベースはあったのですよ。そこに、雪印の子会社の乳酸菌飲料メーカーを2002年に譲渡いただいたのです。また、調味料のソースでも発酵技術が大切な役割を果たしており、野菜や果物の風味を発酵技術によって引き出しています。

Q:ソースの発酵技術では、どういう野菜にどういう微生物を働かせているのでしょうか?お差し支えない範囲で。
A:野菜と果物それぞれにあった乳酸菌と酵母を選び抜き、最適な発酵方法を用いています。野菜は乳酸発酵で温和な酸味を持つ有機酸を作り出し、果実はアルコール発酵で風味を抽出しています。

Q:私が大学のとき、反応器として撹拌槽の研究を行っていました。それで撹拌に興味があるのですが、食品製造時の撹拌というと何か特徴がありますでしょうか?
A:固形分を崩れないよう均一に保たなければなりません。浮くものをどう混ぜるかも難しいところです。もちろん、撹拌羽根の形なども大切です。

Q:リコピンの大切さは分かります。製造過程で分解するなど問題は無いでしょうか?
A:リコピンは比較的安定な物質で、通常の加工条件では問題ありません。

Q:配合・加工技術・原料に季節変動はないでしょうか?
A:ご存知のように、農作物なので産地ごとに変動は生じます。そのばらつきを把握して、加工時にうまく配合しているのです。更に、原料野菜には旬の時期がありますが、カゴメでは、もっともおいしく栄養価の高いこの旬の時期に原料を収穫し、濃縮保存しています。

Q:食品メーカーとして安全衛生面の管理、保存は大変と思います。その体制の概要をご説明ください。特に気をつけておられる点は?
A:品質管理、環境管理については、全社的にISO9000、各工場でISO14000を取得していますし、各生産ラインについてハセップ(HACCP、食品製造におけるハザード分析・管理)に準じた安全衛生管理を行っています。原料から製品にいたる記録・管理、それに従業員の衛生教育も当社規定で実施しています。
 それと、「畑は第一の工場」という考え方をしていまして、栽培、農薬管理指導を行い、原料の安全確保を行っています。海外の農家にも生産委託しているのですが、同じように栽培・農薬使用の指導を行い、輸入に当っては異物混入を避けるためX線検査を行っています。

Q:「畑は第一の工場」、というのは大切な考え方と思います。次に研究体制についてお聞きしたいと思います。さきほどもご説明があったのですが、人員や予算などここであらためて。
A:総合研究所の従業員は182名、そのうち研究員が130名です。敷地は近くの畑を合わせ5.5万m2。農業研究、技術開発研究、自然健康研究、商品開発研究という4つの研究部と分析センター、研究推進部からなっています。
 当所のミッションは「技術的成長エネルギーの供給」と考えていまして、研究開発の基本思想は、「よい原料xよい技術=価値ある商品」、ということです。価値の伝達、品質保証も大切なことと思っています。基礎研究の力点は、有用成分の機能性の検討、ということでしょうか。

Q:学会活動に熱心であるように思えます。発表数が多いですし。最近の研究で注目されたものは?
A:最近では美容やメタボに関連する研究ですね。それに、植物性乳酸菌飲料による高齢便秘患者の方への効果、といった研究も反響が大きいようです。
訪問に対応していただいた細井克敏農業研究部長、児玉弘仁取締役執行委員・総合研究所長、和田好弘研究推進部研究企画グループ主任、橋尚人研究推進部長(写真左から)

Q:話が変わりますが、国際化についてはいかがでしょう?海外売り上げは?
A:海外売り上げは、2008年で全体の1割くらい。ちょっと取り組みが遅いかもしれません。海外売り上げ500億円を直近の目標としています。

Q:外国人社員は?
A:本体には数人ですが、海外にも工場等がありますので、全従業員2000人のうち300人くらいが外国人社員です。

Q:つくばの国立研究所、民間企業研究所と交流はありますでしょうか?
A:食総研とは継続的に共同研究を行っています。ほかに筑波大学、産総研、農研機構などとの共同研究があります。

Q:最後になりますが、筑波への期待、SATへの注文について。
A:つくばでは、いろいろな分野の研究が行われていることに注目しています。食品工業では、他分野の技術を持ってくることが多いのです。異業種交流が進むような仕掛けを継続していただきたいですね。

Q:本日は長時間お付き合いいただき、有難うございました。今後も賛助会員としてご支援、よろしくお願いいたします。ショーケースにもぜひご参加ください。「知の触発」研究会という新しい研究会の立ち上げを検討しているのですが、こういうものにもお付き合いいただきたく思います。
A:本日はわざわざお越しいただき、有難うございます。ショーケースには関心があり、昨年、参加させていただいています。新しい研究会も、ぜひ検討をお進めください。

(溝口 記)



(感想)
 温室見学を含め2時間以上、充実したQ&Aとなりました。それでも今後の事業展開・研究展開、環境・エネルギー問題への対応、食育などゆっくりお聞きしたい質問事項が残ってしまいました。また改めてやりとりさせていただきたいものです。
 今回の訪問全体を通じ、カゴメ総合研究所では、トマトの品種改良から生産技術、食品機能研究、安全管理と、原料から消費まで地道で着実な研究を展開しておられる、というのが率直な印象です。特に健康に直結する食品工業には、こういう着実さが必要なのではないでしょうか?
 私は個人的には、今後大きく発展する産業分野のひとつとして食品や医薬品、スポーツ用品など健康に関連する分野が挙げられるのではないかと思っています。それも、中核技術はそれぞれ独自に進歩するのでなく、広い分野の技術とうまく融合しながら発展していく、RO技術はその一例ですが、ほかにも、他分野の技術が食品工業に適合する形でうまく取り入れられていくように思います。Q&Aの最後の方でそういうやりとりが出てきて、意を強くしました。

(溝口 記)


(参考)
カゴメ株式会社 ホームページ
http://www.kagome.co.jp/


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