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第28回:水戸商工会議所
水戸商工会議所が入居している茨城県産業会館

 水戸商工会議所は、商工会議所法に基づき地域経済の振興を目的に運用されている特殊法人で、設立は1896(明治29)年と、非常に伝統のある組織です。
 会員数は約4,000にものぼり、管内商工業者の約3分の1が加入しています。
 会員の方々が、地域の社会的・経済的な諸問題に協議・相談して取り組み、必要に応じてその意見を国や県・市、あるいは関係機関等へ提言しています。また、企業の抱える経営上の諸問題について、身近な相談のパートナーとして、金融・税務・労務等の窓口相談や巡回相談を行うほか、講演会、研修・福利厚生に役立つ活動、会員交流事業、各種検定事業なども行っています。
 水戸商工会議所は、他の経済団体とどのように差別化を図っているのでしょうか?地域の特色をどのように活かして活動しているのでしょうか?商業のイメージが強い組織の中で、製造業者はどのような活動をしているのでしょうか?
 平成22年10月18日、水戸商工会議所を訪ね、山形剛生振興部長及び谷川健一商工振興課課長補佐にお付き合いいただきました(溝口、野上)。
 事前に多くの資料を用意してくださり、丁寧に説明していただきました。また、SAT同様に会員の皆様からの収入で活動・運営しており、最近は会員減少に頭を悩ませているなど、共通の話題も多く、話が大いに盛り上がりました。
 さらに、平成22年8月から運用を開始したSATホームページの「会員情報コーナー」への今後の記事掲載の協力についてもご快諾をいただき、和やかにQ&Aに入りました。

(Q&A)
Q:基本的なことからお聞きしますが、商工会議所は他の経済団体とどのように異なり、どのような役割を果たしているのでしょうか。
A:商工会と名称が似ており、よく間違われるのですが、拠って立つ法律が違います。商工会は「商工会法」に基づき運用され、商工会議所は「商工会議所法」に基づき運用されています。
 商工会は、経営改善普及事業などの小規模事業施策に重点を置いている一方、商工会議所は地域の総合経済団体として、中小企業支援のみならず、国際的な活動を含めた幅広い事業を担っています。
 商工会が全国で2,000以上あるのに対し、商工会議所は全国で515か所しかありません。ちなみに、つくば市にはつくば市商工会がありますが、つくば市商工会議所はありません。
 国ベースで言うと、全国515か所の商工会議所を会員として組織した日本商工会議所(日商)は、日本経済団体連合会(経団連)及び経済同友会と共に経済3団体と称されています。
水戸商工会議所イメージキャラクター「いきいき 黄門さま」

Q:他の商工会議所と比べて水戸商工会議所はどのような特徴がありますか。
A:まず、都道府県庁所在地にある商工会議所の中では比較的組織率が高くなっています。全国の商工会議所では、数%の組織率のところもありますし、逆に8割といったところもあります。都道府県庁所在地にある商工会議所の中ではかなり善戦していると思います。
 また、商工会議所法により全国の商工会議所では会員を業種ごとに分類した「部会」が定款に位置付けられていますが、水戸商工会議所独自の取り組みとして、管内を地域ごとに5ブロックに分けた「ブロック協議会」を設置し、地域の特性を活かした活動をしているのが大きな特徴です。
 なお、会員を業種ごとに分類すると、全体の半分が小売業やサービス業となっており、次いで建設業が多くなっています。工業系の事業者は10%にも満たないのが現状です。

Q:水戸市は、産業としては商業中心のイメージが強いだけに、業種ごとの会員構成が商業中心なのは良く分かる気がします。その中で工業系の会員の皆様は、どのような活動をされているのでしょうか。
A:おっしゃる通り、水戸商業会議所と揶揄されないよう、製造業の会員の方たちは、水戸テクノ倶楽部という内部組織を作り、モノづくりに関する様々な活動を行っています。また、(株)日立製作所系の事業所が多く加入しているひたちなか商工会議所とも連携し、情報や人的交流を行っています。
 現在、水戸テクノ倶楽部には32社が加入していますが、例えば、毎年1泊2日の日程でモノづくりの原点を探る視察研修会を実施しています。今年は、18名が参加して、埼玉県の施設を4か所見学しました。このうち日本工業大学工業技術博物館では、会員が熱心に見学するあまり、予定時間を大幅に超過してしまいました。特に水戸テクノ倶楽部の会長は金属加工が専門で、年代を追って展示された旋盤、フライス盤、研削盤等を熱心に見学されていたようです。
 ちなみに、昨年は群馬県太田市で、ものづくり日本大賞の内閣総理大臣賞を受賞した企業などを見学しました。
 その他、当会の工業振興委員会では、最先端工業の視察研修会を実施し、(株)日立製作所水戸事業所が有する世界一のエレベーター研究塔(213m)やJ−PARC(大強度陽子加速器施設)などを視察しています。

Q:水戸市は歴史の街で有名であるほか、前々市長が芸術・文化にかなり力を入れておられました。こういった地域資源をどのように活用されて街おこしをされているのでしょうか。
A:歴史遺産の活用としては、水戸市の新たな地域振興策として、黄門ブランドを活用した街づくりを展開しています。黄門様が食したと言われている黄門料理を再現し、水戸市内9店舗で提供しています。
 この黄門料理は、「水戸黄門の料理に対する思想を伝える」、「当時の料理文化の再現」、「医食同源」、「薬膳料理」、「旬」、「地産地消」などをコンセプトに再現したもので、今後店舗を増やし、水戸の名物料理として定着させたいと考えています。
 また、芸術・文化では、前々市長が多くの予算をかけ、中心市街地に水戸芸術館を建設したことから、同館との連携に力を入れて活動を行っています。
 例えば、10月30日には、水戸市の中心街を約150名の大小様々な音楽集団が演奏しながら行進する「アンサンブルズ・パレード」を実施する予定です。他の市町村が郊外に建物を建てて郊外で活動する例が多いのに対し、中心市街地活性化も念頭に置いて、市街地にある施設等を活用しながら芸術活動を行っているのが、水戸の大きな特徴です。

Q:水戸の芸術・文化資源を有効に活用されておられるようですが、アンサンブルズ・パレードのほかに、まちなかパフォーマーという独特の取り組みがあるようですね。
まちなかパフォーマーによるコンサート

A:まちなかパフォーマーは、水戸商工会議所独自の取り組みです。
 このまちなかパフォーマーとは、プロ・アマ問わず、音楽・大道芸・手品など様々なジャンルのパフォーマーをweb上に登録し、当所のイベントのほか、商店街や企業、幼稚園等で開催するイベントなどで活躍していただいている事業です。水戸市内で活動できることが登録の条件ですが、水戸市外からも出演依頼があるようです。
 イベントを行う際にパフォーマーを招くと、手間やお金がかかります。また、逆に人前でパフォーマンスを披露したいという人もなかなか活動できる場がありませんでした。そこで、イベントの主催者側にとってもイベントへの出演を希望するパフォーマーにとっても都合の良いシステムとして、このまちなかパフォーマーの事業が考えられたわけです。
 この事業は平成17年度から始めました。最初は30組ほどでしたが、現在は85組のパフォーマーが登録されています。登録希望者がどんどん増えているので、今後はまちづくり事業の一環として、まちなかパフォーマーを一堂に会したコンテストなども実施したいと考えています。
 なお、このまちなかパフォーマーを活用したい場合は、ホームページを通じて直接本人に出演を打診できるなど、申込が比較的簡単ですので、他の市町村の方も含めて、どんどん活用していただきたいと思います。

Q:面白い取り組みですね。他に面白い取り組みはありますか。
A:水戸市内の不動産業者と協力して、中心市街地の空き店舗情報を「水戸まちなかナビ」というサイトの中で公開しています。
 また、若い人のアイデアをどんどん取り入れ、街の活性化につなげるため、「学生サポーターC's(シーズ)」という組織を作り、大学生や専門学校生からの提案を支援しています。
 そのほか、まちづくりに関する事業として「まちの駅みとネットワーク事業」や「水戸まちなかファンクラブ事業」を実施しています。
 「まちの駅」とは、全国で1,600カ所以上設置されている無料で利用できるまちの案内所です。まちなかの情報案内、誰でも気軽に利用できるトイレ、待ち合わせやおしゃべりに利用できる休憩場所として利用されています。
 水戸商工会議所では、平成15年に東京電力茨城支店の一部で実験事業として取り組みを開始し、その後空き店舗に移転しました。そして平成20年から、まちなかの商工業者や専門学校など7店舗の参加をいただき、「まちの駅みとネットワーク協議会」を立ち上げました。
 「まちの駅みとネットワーク」は、従来のまちの駅の機能を引き継ぎ、情報発信拠点、憩いの拠点としての効果を図るとともに、民間ならではの各駅提案によるおもてなし事業や合同イベントの開催、他の団体・イベントとの連携事業等を実施しています。現在は12駅に増え、今後も協力していただける商工業者や団体を増やし、ネットワークを拡大していきたいと考えています。
 「水戸まちなかファンクラブ」は水戸市内及び周辺地域の方々を対象に、水戸のまちが好きな方、水戸のまちをもっと知りたい方などを募集し、組織化した事業です。
 ご入会いただいた会員に対しては、まちなかの情報誌「ファンクラブ通信」の発行やブログでの情報発信をしているほか、会員対象のセミナーやイベント等を開催しています。
 また、会員にはまちのモニターとして各種アンケートに協力いただき、消費者・市民の声を中心市街地活性化に反映できるような双方向事業としての展開も視野に入れています。

Q:大変有意義で面白い独自の取り組みを行っておられるようです。先ほどひたちなか商工会議所との連携について教えていただきましたが、他に近隣の商工会議所と何か協力して行っている事業はありますか。
A:平成23年4月に、北関東自動車道が全線開通する予定なので、北関東3県の連携を図り、東京中心の世の流れから脱却するため、当所青年部を中心としてMUM(水戸・宇都宮・前橋)の連携事業などを開始しました。
大盛況だった「平成22年新春会員交流のつどい」の様子。次回は、平成23年1月5日に水戸プラザホテルで開催されます。

Q:最近は会員減少に頭を痛めておられるようですが、会員確保のためにどのような努力をされているのでしょうか。
A:会員同士で商品やサービスの割引などを行う「水戸なっとくチケット」や会報送付の際に会員のPRちらしなどを同時に送付する「商い情報宅配便」などの企画に取り組んでいますが、会員減少にはなかなか歯止めがかからないのが実情です。
 ただし、今年1月から新しく始めた会員交流のつどい事業は、会員約500名が集まるなど大盛況で、貴重な賀詞交換の場となりました。今後は、ブースを設けるなどして、会員企業紹介の場として展開させ、新たな経済交流の場になるのではないかと期待しています。

Q:お互いに会員の減少は悩みの種のようです。今後は、どのように事業を展開していくご予定ですか。
A:常に会員の求めているものは何か把握に努めながら、少子高齢化、グローバル化、IT化の深化、超大型店の進出、右肩下がりの経済環境、環境意識の高揚を念頭に置き、中・長期プランを策定しました。
 この中では、例えば、中期で検討し、優先順位をつけて実現すべき事業として中小企業のBtoC−EC、つまりネットショップ開業の支援等を考えています。
 具体的には、地域外への販路拡大のため、ネットショップの普及を図り、定期的に無料でネットショップ開業セミナーを開催しているほか、実際に開業を目指している企業や個人を対象としたネットショップ開業実践講座(有料)を開催しています。
野上事務局長に会の事業を説明する谷川健一振興部商工振興課課長補佐及び山形剛生振興部長兼商工振興課長(写真左から)

Q:本日は長時間お付き合いいただき、有難うございました。今後も賛助会員としてご支援、よろしくお願いいたします。当アカデミーでは、今後有望な産業として高齢者対策産業を考えており、つくばの有する様々な知的基盤を活用して、今後少子高齢化を迎える韓国、シンガポール、中国といった国へも輸出できる新たな高齢者対策産業を何か興せないか、会員を中心として検討に入ろうと考えています。水戸商工会議所で何か良いアイデアがあれば、ご意見をお寄せただきたく思います。
A:確かにつくばには知の集積があり、現役世代が多く住む都市では少子高齢化は直面した課題ではないかもしれません。一方、水戸は少子高齢化が現実となっています。このような状況を踏まえ、産業化という視点だけではなく、高齢者が快適な老後を過ごせるようにするためにも、先に少子高齢化が進んできている水戸に立地する当所としてもぜひ協力させていただきたいと思います。特に高齢者の孤独化は深刻な社会問題となっていますので、何か当所としても協力できることがあれば、情報の提供など活動に協力していきたいと思います。

(野上 記)



(感想)
 今回の訪問は、最後に小川俊明専務理事にも加わっていただいたこともあり、面談が2時間近くに及びました。
お互いに会員の減少という大きな問題を抱えていることから、会員の福利厚生向上のために種々新しい取り組みを試みるなど、共通の話題も非常に多く、話が弾みました。
 100年を優に超し3世紀にわたり活動している誇りを胸に、歴史と伝統に胡坐をかくことなく独自の事業を展開しようとする姿勢には頭が下がりました。 水戸市関連では、水戸浪士を主人公とした映画「桜田門外の変」が10月16日から全国で公開されるなど、日本の3名園の一つ偕楽園や水戸藩の藩校弘道館といった水戸市の歴史遺産にばかり目が行きがちですが、水戸芸術館とのコラボレーションといった芸術・文化資源を生かした取り組みなど、つくばを始め他地域でも参考となる取り組みをたくさん聞くことができ、有意義な訪問となりました。
 また、水戸は商業都市のイメージが強く、製造業は肩身が狭いのではないかと危惧していましたが、工業の会員の方々も、危機感を覚えながら、少数精鋭で商業・サービス業の会員に負けないよう新しい取り組みを試みているのも、他の商業都市の参考となるのではないでしょうか。
 茨城県は、県域の民間テレビ局とFM放送がない唯一の県で、PRが下手であると常々言われていますが、つくばや東海の有する知的財産、日立・ひたちなか・鹿島といった工業都市に加え、県都である商業都市水戸が水戸商工会議所を中心として活性化していけば、茨城県の未来も明るいのではないかと考えながら、水戸商工会議所を後にしました。

(野上 記)


(参考)
水戸商工会議所 ホームページ
http://mito.inetcci.or.jp/


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