VISIT MEMBER'S ROOM


第29回:オークラフロンティアホテルつくば
オークラフロンティアホテルつくば本館外観
 つくば市は田園の多い東京近郊都市という一面がありますが、基本的には、研究学園都市と言ってよいと思います。実際、研究者住民が多く、ノーベル賞受賞者も住んでおられます。国内外の学会が数多く開かれますし、産学連携も進んでいます。ほかでは見られないような、大学・研究機関を見学するサイエンスツアーも行われています。
 この地では国内の研究者・技術者に加え、ビジネスマン・外国人研究者の訪問者が多いように思われます。研究学園都市のホテルは、何かほかとは違う特徴があるのではないでしょうか?それをお聞きすることで、研究学園都市でのホテルの大切な役割を再認識できるように思います。
 一方、ホテル業のおおもとは「温かいおもてなし」ということではないかと思うのですが、それを可能にするサービスシステムや技術要素はどういうものなのでしょうか?客観的にそれらを把握することで、これからの快適なホテル生活を形作るための具体的ニーズが明確になると考えられます。
 12月9日、賛助会員としてSATをご支援いただいているオークラフロンティアホテルつくばをお訪ねしました(野上、溝口)。ご対応は高橋社長、御代田総務部長のお二人です。
 最初にいつものように簡単なSAT紹介をさせていただき、Q&Aに入りました。

Q:賛助会員訪問はこれで29機関ということになります。SATは多くの賛助会員にご支援いただいておりまして、ひとつには、各機関にそのお礼に伺わせていただいております。また訪問記をホームページに掲載することで、多少はお返しできるかなというように思っています。今回の訪問は、メーカー・研究所の会員以外では3機関目になるのですが、御社を「研究学園都市型ホテル」と勝手に位置付けて、そのようなホテルの特徴はどうなのかお聞かせいただけないか、またそのようなホテル経営を進めるための安全面・衛生面などの技術要素・サービスシステムをお聞かせ願えないか、そういうことで、新しいニーズが浮き彫りにされないか、そんなつもりで訪問させていただいております。
 最初に、一般論として事業内容・事業規模などについて概略説明をお願いしたいと思います。

A:お手元の資料、これは茨城県経営者協会のある会合で使ったものですが、これで説明させていただきます。当ホテルは本館、アネックス、それと国際会議場となりのエポカルという3棟で成り立っており、1983年、つくば万博の2年前に開業しました。従業員は、パート・アルバイト・契約社員を含め372名、このうち80名は筑波大学などの学生さんたちで、留学生も多く客室係などで重宝させてもらっています。
オークラフロンティアホテルつくば「エポカル」

 客室数は茨城県トップでして、宴会を含め年間のご利用者は45万人、そしてこれを運用するため、270社に協力してもらっています。
 売り上げの比率は飲食60%、宿泊37%、テナント3%です。利益になると、飲食と宿泊がちょうど逆転します。その理由のひとつは光熱水費の多いことでして、実はこのホテル(本館・アネックス)は、センタービルの一部でこれは都市機能を持っており、地域冷暖房を行っています。当時としては最先端の考え方だったのですが、全体の管理ということで微調整が難しいのです。つくばでは、ゴミを集中真空集塵で地下道で輸送することや−これは中止されていますが、ほかに歩道・車道整備も集中して行われます。ホテルも同じ概念で設計されているのです。
 私どもは規模では大都市のホテルにかないませんが、料理を含めたサービスでは世界一を目指しています。ホテルの存在には、街の顔という面がある、その地域の文化のレベルを表している。町の中心にノバホールがあり当ホテルがあり、西武がある。つくばの代表として文化を担うという誇りを持っています。

Q:社会状況が大きく変化する時代、つくばの社会情勢の変化をどのように受け止めておられるでしょうか?
A:つくばエクスプレスは、良い意味でインパクトが大きいですね。飲食関係で売り上げが20%増えています。宿泊しないでお帰りになる方も多いのですが、催し物がやりやすくなりました。その結果、予想外だったのですが、副次効果でお泊りになる方も増えています。同業者が増え、競争が激しくなった面はありますが、つくばとしてはプラスになっています。

Q:グローバル化の影響とか高齢者が多くなったということは?
A:季節的に筑波山に出かける方は多くなったと思います。でもここは、やはりビジネスや学会が主でしょうね。それと情報化の進展が大きいと思います。地域の支店を集約する、その結果つくば支店が消えて必要に応じてこちらに人を派遣する、というようなことです。そのときに宿泊ということもあります。TX開通直後はそういう動きが多かったように思います。
落ち着いた雰囲気の客室

Q:やはり競争は激しくなっているのでしょうか?
A:価格合戦はありますね。そのマイナスをどう補うかが問題です。

Q:「おもてなし」とよく言われますが、日本の宿泊サービスのあり方は、諸外国とは異なっているのでしょうか?
A:おもてなしは、各室に仲居さんがつく日本旅館の話ですね。外国では1室にバトラーがつく、ということがあります。外国も良いものを持っていますので、見習うべきと思います。話が少しそれますが、外国人の宿泊客は、よく、有難うと言ってくれますね。

Q:つくば市は、研究学園都市の色彩が強いということで、ホテル経営にもその影響は出ているでしょうか?他のチェイン店とつくば店の違いは?
A:学会・ビジネス客が多く、観光客の割合は少ないですね。筑波山に行く人は、そちらで宿泊されることが多いようです。外国人の宿泊率は25%で、これはわれわれのグループではオークラ本店の次になります。茨城県での国際会議数は2009年で全国9位、2008年は7位でした。

Q:他都市に比べ、インターネット設備やプロジェクターが充実している、ということは?
A:特にはないと思います。2〜3年前、スイートルームでTV会議が出来るようにしようと思ったのですが、結局インターネットで十分ということになりました。

Q:最近はアジアからの旅行者は多くなっているでしょうか?
A:もともと外国人としては、韓国、中国などアジアの人が多いのです。静岡イン・茨城アウトということで、今後もアジアからの宿泊客は多くなると思います。茨城空港がチャーター便で入りやすいこともあります。

Q:ホテル経営に当たっての技術要素についてお聞きしたいのですが、安心・安全とか情報管理、シャワートイレなど衛生面、そういったところでここ10年ほどの変化についてお話ください。
A:情報化では、たとえばレストランの会計が顧客名簿ですぐ対応できる、というようなことになっています。安全安心ということでは、防火訓練を繰り返しやりますし、食中毒への対応も心がけています。消火器はあまり変化がないですね。昔はキッチンハイターのみでしたが、清掃の方法や器具もいろいろ出てきています。業者からの提案もあります。
宴会場「ジュピター」

Q:照明についてはいかがでしょうか?
A:照明はこれからということでしょうか。小宴会場の照光をどうするか、といったことは始まっています。
 全体として、ホテルオークラのブランドイメージは大きく、目に触れない部分で特に安全・衛生面で気を遣っています。

Q:その他、技術要素で変わってきていることは?
A:調理関係では、電磁調理器(IH)の方向になってきているように思います。ここの総料理長はフランス料理専門なのですが、IHを使っています。火力の強さより、プロの腕ということでしょうか。最近では中華料理でもIHを使っています。

Q:高齢者や身体障害者が多くなってくるように思いますが。
A:ここはリゾートホテルではないですし、高齢者など、まだ大きな変化はありません。でもホテル利用として、これからはそういうことになってくるのではないか、バリアフリーには気を遣っています。

Q:観光のほか、サイエンスツアー、医療ツアーなどが出てきています。つくばは多面的に対応できると思うのですが、そういう点については?
A:まだ数は少ないですが、期待しています。科学技術都市としてつくばは魅力があります。修学旅行などで来てほしいですし、研究所も見てほしい。ホットな話題がここからということになると良いですね。夏休みに家族連れで来られる方もある。そういう人はお泊りになりますね。
 研究者の方には、わかりやすい説明をお願いしたいと思います。私どもは、開かれた街になるようお手伝いしたいと思っています。
溝口コーディネーターにホテルの概要を説明する高橋惠一代表取締役社長及び御代田英至総務部長(写真左から)

Q:大学や国立研とのコミュニケーションについて、どのようにお考えでしょうか?
A:つくばを盛り上げていただきたい、その一助になりたいと思っています。もともとお持ちのものを世にうまく発信していただきたい。そうして内容が高度になれば、ビジネスにもつながるでしょう。そのためにSATにも活躍していただきたいと思います。

Q:産総研でサービス工学の研究センターが出来たようですが、ご存知でしょうか?
A:存じ上げていますよ。参考にさせていただきたいと思っています。

Q:長時間お付き合いいただき、有難うございます。今後も賛助会員としてSATをご支援ください。ショーケース・賛助会員交流会にもご出席お願いいたします。
A:本日はどうもご苦労様です。
(溝口 記)


(感想)
 今回のオークラフロンティアホテルつくば訪問・インタビューの要点は、ホテル経営のつくばとしての特殊性、宿泊サービスの技術面での進歩、そういったものを確認させていただこう、できれば技術開発ニーズを把握しよう、ということでした。高橋社長とは別の会で親しくさせていただいているので、いくつか率直な質問をさせていただきました。
 考えてみれば、ホテルというのは接客を別にすれば、生活の中の技術要素が押し詰められた空間になっています。外国人も高齢者も結婚式もと、ここでのニーズあるいは問題意識が、次世代の生活をリードしていくのではないでしょうか?オークラフロンティアホテルつくばは、賛助会員としてSATにとって大切な存在ですが、研究者・技術者にとって、これからの社会を豊かにする生活技術の宝庫・ニーズの宝庫とも言えるように思います。
 実際、調理にIH技術が導入されているとか、清掃の器具や方法が大きく変わってきているなど、興味深いお話を聞くことが出来ました。当方の力量不足で、もう一歩の質問が出来ず残念ですが、Q&Aを読み返して、こういうインタビューも意味があるかな、というように思いました。長時間のお付き合い、有難うございました。
(溝口 記)

(参考)
オークラフロンティアホテルつくば ホームページ
http://www.okura-tsukuba.co.jp/


[ 一覧へ ] [ ホームへ ]
Copyright (c) Science Academy of Tsukuba. All Rights Reserved.