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第31回:株式会社 筑波銀行
 3月11日の東日本大震災、つくば近辺でも大きな被害が出ました。被害を蒙られた個人会員、賛助会員の皆様も多いのではないでしょうか?心よりお見舞い申し上げます。
 つくばサイエンス・アカデミー(SAT)では、さいわい直接的な被害は小さかったのですが、いくつかの行事が中止・延期になり会誌の発行が遅れるなど大きな影響が出ております。

筑波銀行本部外観
 賛助会員訪問もしばらく中断しておりましたが、(株)筑波銀行にお引き受けいただき、平成23年8月1日、筑波銀行つくば本部を訪問させていただきました。銀行訪問は初めてのことで、事前に質問事項をお送りしたり下調べにも時間をとったりして少し緊張したのですが、後述のインタビュー内容でお分かりのとおり、非常に興味深く有意義なやりとりをさせていただきました。
 この訪問の目的のひとつは、賛助会員機関の事業紹介ですが、今回は特に銀行がどのようなスタンスで研究開発を支援されるのだろうか、それが研究者の皆さんにうまく伝えられれば、つくばでの研究者にとっても大きな刺激となるだろう、そういうつもりでインタビューに臨みました。
 ご対応は植木 誠専務、熊坂敏彦経済調査室長、宮下剛一ビジネスソリューション室長、須藤 純公務渉外室長、SATは事務局長篠田、事務局員鈴木、コーディネーター溝口の3名です。最初に事務局長からSATの概略を説明させていただき、その後の植木専務による同行概略紹介からインタビューが始まりました。

Q:本日はお忙しいところ、有難うございます。銀行というと、研究者にはどうも縁遠いのですが、研究がうまく進んで実用化ということになると銀行のご支援をいただかなければならない。本日は、お互いよく知り合うためのきっかけになればと思っております。インタビューの前に、筑波銀行のイメージを「地方銀行として地元中小企業支援を中心に活動しておられる」、そのように捉えてよろしいでしょうか?
A:個人のお客様も含みますが、それで結構です。

Q:それではまず、筑波銀行の事業内容・事業規模・特徴などについて概略をお願いいたします。
A:筑波銀行は、昨年3月に旧関東つくば銀行と旧茨城銀行が合併して誕生し、茨城県を中心に事業展開しております。今年3月の時点で従業員1905名、預金量1兆9623億円、6月末では2兆円を超えており、このうち1.4兆円を貸し出しています。店舗数は146、県内では130です。合併後に重複している店舗を統合しており、店舗統合に当ってはブランチインブランチ方式をとっていまして、これはある支店に別の支店が入るという方式ですが、統合前の支店の口座番号がそのまま使えるという利点があります。ブランチインブランチの支店数は9月末で20となる予定です。
 資本金は313億円(9月末は488億円)、東京支店は少し違いますが、主に個人と中小企業を対象にしていまして、「地域のために、未来のために」ということで事業を進めております。

Q:合併後の会社名が「筑波銀行」ですが、これはなぜなのでしょうか?地域が狭いように見えるのですが。
A:当行は茨城県内を中心に事業展開していますが、筑波山は万葉のころから関東を代表する名峰として知られており、また、筑波の名前は日本を代表する研究機関が集積する研究学園都市の名前としても広く知られ、世界のつくばという面もあって、つくばの印象は強いと思います。
地域密着型金融の取り組み方針
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Q:現在は国際化、少子高齢化が同時に進み、日本社会のあり方の変革期なような気がします。何か具体的な印象をお持ちでしょうか?また地域密着型の銀行として、どのような方向性を考えておられますでしょうか?
A:今回の大震災は、私どもにとって地域を見直す機会ともなっています。普段から地域を考えているのですが、今まで以上に地域を考えるようになっています。
 今までは中央集権的であったと思います。でもこれからは、解答はないのですが地方の時代として少子高齢化に対応していかなければならない。雇用を守るためにも中小企業支援が大切です。ベンチャーの支援ももちろん大切です。
 銀行業務は、実際には、ほとんど掛け算で済みます。ローテクで簡単なものです。お金を集めてご融資する、これは昔から変わりません。でもそういうことが企業支援となり、地域の存在感、社会の幸福などにつながります。発明も、最後はお金で決着をつけます。そういう意味で銀行は重要だと思います。

Q:そのとおりと思いますが、具体的に今、力を入れておられるのは、どのような分野でしょうか?
A:全般的に力を入れたいと思いますが、今までは農業分野への力の入れ方が少なかったように思います。茨城はやはり全国第2位の農業県でして、これまでは農協が農業を支え、私ども銀行は経産省管轄の中小企業を見る、というようになっていました。そういう歴史的な背景の下で、農協とは違う視点で農業を見つめたいですね。
 農業とは違いますが、中には面白い取り組みがあり、たとえばチョウザメの飼育などもあります。こういうベンチャー企業への融資はもっとしたいとは思いますが、どうしても目利きの問題があります。ベンチャー企業の多くは成長が難しいのですが、大きいところの支援でなく、一緒に大きくしていくことが大切です。こういうとき、欲しいものは何か相談を受けるコンサル機能を持たなければならない。従来にプラスαが必要なんですね。昔は、お金を集めれば融資先は見つかりましたが今は違います。

Q:お話の「目利き」をどのように見ておられますか?
A:一番難しいですね。私どもは技術はよくわかりません。技術の中身より、対象の中小企業やベンチャー企業が発展していくかどうかを問題とします。

Q:銀行とベンチャーが歩み寄るというか、お互い理解しあえるような仕組みはないのでしょうか?
A:大手企業がどこかベンチャー企業を対象に、プレゼンで技術に優れたあるものを導入したが、結局は失敗したという話を聞いたことがあります。私どもは半歩先の話を聞きたい、10歩先ではだめなのです。銀行員の目には進みすぎている、ということがありますね。支援したい気持ちは持っているのですが。
地域復興プロジェクト『あゆみ』
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Q:大震災で大きな影響があったのではないでしょうか?経営上の大きな変化や被災地復興支援の具体策などについてお聞かせください。
A:私どもにも被害が出ました。県北の方でガラス割れなど多くの店舗が被害を受けていますし、鹿行地区では液状化で傾いた店舗もあります。大震災では、対策本部をすぐに立ち上げて対応しました。まず、お客様、行員に怪我がないかということですね。
 当行自身の被害に加え、融資取引先の震災被害の有無による影響がありますが、3月中に調査を実施し23年3月決算に必要な貸倒引当金を反映しております。
 今のところ、生産はまずまず復旧してきていますが、風評被害がありますし心配ですね。
 東北からの避難者支援では、被災地内の他行預金であっても、印鑑と身分証明書があればOKということで、代理払戻に対応しています。人道的にもこういうことは必要です。

Q:節電が地域経済に与える影響をどのように見ておられますか?
A:企業はどこでも売り上げを伸ばしたいのが本音だと思いますから、節電は難しいかもしれませんね。炉の類は24時間操業ですし、特に伸びている会社は難しいかもしれません。

Q:海外移転が出てくるということでしょうか?
A:ある人は考えていないと言いますが・・・。中小企業には海外移転の支援が必要になってくるかも知れません。

Q:結果的に大学生の就職が大変で、大学院へ行く人が増えているようにも聞いています。私が大学にいるころは50から60%くらいでしたが。
A:今はそれ以上になっているのではないでしょうか。

Q:茨城は農・工・商のバランスが取れていると思います。農が強くなったなど、何か最近の変化はないでしょうか?
A:東京が近く、農業が強いという状況は変わらないと思います。ただ今後成長していくためには、加工や販売を加味した「六次産業化」、「高付加価値化」が必要でしょうね。

Q:つくばでは最近、薄皮のむきやすいぽろたんという栗が開発され注目しているのですが。
A:栗の新品種「ぽろたん」は、つくば市の農業・食品産業技術総合研究機構で誕生した品種です。茨城県は、栗の年間出荷量では全国1位で、笠間市は県内でトップの生産地です。また、国内で最も広く栽培されている品種は、「筑波」で、全国ブランドになっています。

Q:話題を大きく変えますが、低金利・円高・海外移転をプラスに捉えることは出来ないものでしょうか?
A:円高で、シャープがイタリア企業を買収したように、大企業ではM&Aがあると思います。円高でプラス面というと、台湾製のiPadやサムスンのスマホ製品など、輸入企業にはよいでしょう。消費のきっかけにはなります。
 でもそもそも、従来の枠組みが変わってきているのです。円高でこれまでの輸出モデルはもう難しいと思います。国際化で、海外投資で利益を上げるというように日本は投資国になりつつあるのです。発展途上国→先進国→成熟投資国というように変化して、今の日本は投資国に変わってきています。
 大田区の例では、タイに進出して、しかし基本の技術開発・試作は大田区でという例があるようですが。

Q:先ほどのお話で、10歩先ということも必要ではないでしょうか?
A:お金が取れるのは、プロトタイプだけなんです。そういうように進めなければなりません。もちろん技術は必要です。でもたとえば縫製技術は中国で立派なもので、今ではプロトタイプも中国です。

Q:縫製関係では、労働者のレベルは日本の方が高いと思っていました。
A:そうでもないですよ。中国も進んでいます。企画立案だけは日本に残したいと思ってもうまくいきません。縫製が花形の時もありましたが、産業構造は変化しています。
 拡大のときはうまくいっていたのが、今はグローバル化の時代で縮小しています。しかしこれまで一番恩恵を受けたのは日本ですから、逃げてはいけないと思います。

Q:銀行から見たつくばの特徴・つくばの魅力は?現在は研究学園都市と言うより、東京近郊都市のイメージではないでしょうか
A:つくばは国際的で魅力あると思います。筑波山は古代から有名ですし、筑波山の近くは絹の産地でした。シルクロードの末端というはなしもあります。環境は良いですしね。
 農業が盛んで北条米や芝生が知られています。ナノテク、ロボットは有名ですし、国際会議も多い。これだけ研究の環境が整っているところは日本では、ほかにありません。筑波大や産総研発のベンチャーでよい企業もありそうです。そういうところが上場して欲しいですね。
須藤公務渉外室長、宮下ビジネスソリューション室長、熊坂経済調査室長、植木専務、篠田事務局長、溝口コーディネーター(写真左から)

Q:ぜひ応援をお願いいたします。
A:せっかくここにいるのだから応援したいと思います。

Q:つくばのあり方に欠けているものはないか?何かお気づきの点はないでしょうか?広報が足りないとか?
A:研究者の皆さんには、役所や銀行に積極的に出ていただきたいですね。われわれとしても産学連携の場を作って行きたいと思います。

Q:場を作っても長続きが難しいのではないでしょうか?
A:地道に進めることが大切だと思います。

Q:少し具体的な話になりますが、起業化数の変化や技術系企業・ベンチャー企業への融資割合など、お差し支えない範囲で。また、企業支援の具体例や産学連携の具体例などがありましたら。
A:ベンチャー企業数はつくば発で200社、そのうち現在動いているのが170社ぐらいと認識しています。筑波大学が多いですね。安定化志向なのか、ここ2、3年は毎年2件くらいで、起業化を目指す人がどうも少ないようです。株式上場の魅力も薄まってきているようで、株公開も全国で年20社程度です。
 融資割合については難しく、十分把握できておりません。

Q:特につくばでベンチャーが多いということでもなさそうなのでしょうか?
A:起業数はこれまでの合計は多いでしょうが、最近は少ないですね。リスクが高いということでしょうか?応援も簡単ではありません。紹介を受けてたずねることはありますが、事業内容の評価は難しいのです。我々もベンチャーキャピタルにお金を出していますが、投資の目利きを育てるために、そこに行員を派遣しています。

Q:高齢者対策で、そういう目利きをやってもらっても良いのではないでしょうか?
A:先々の話としてはあると思います。

Q:ニーズ‐シーズマッチングの具体例は?
A:つくばには企業数が少ない、特につくば発の上場企業が少ないのです。シリコンバレーにあってもつくばにはありません。学生も起業化しません。上場すると、そういうところがエンゼルになることもあるし、うまく回るようになるのですが。

Q:都市計画・活性化支援も大切と思います。具体的に取り組んでおられることは?
A:確かに住みたい街という点も大切ですね。バスの便、しゃれたお店など、つくばで楽しむ雰囲気がほしいですよね。つくばは、研究開発人材ではシリコンバレーに負けていませんから。

Q:面白い研究はたくさんありますよ。筑波大学はじめエネルギー関係でたくさん目に付きます。
A:震災後の資金も使えますし、そういう話はうまく応援したいですね。成功事例が2例ほどでも出てくるとずいぶん変わってくると思います。

Q:これからの事業展開について、ライフイノベーションにも力を注ぐべきではないでしょうか?また、工業製品輸出から、農業・食品加工、観光、医療、福祉サービス、教育、国際会議、文化交流(グルメ、アニメ、ファッションなど)など、ソフト的な産業構造への転換も必要と思われますが、これについてはいかがでしょうか、その可能性は?
A:農業向けには事業展開を始めています。文化交流などは、調査項目にはなっていますが、まだこれからというところでしょう。取引先で介護ビジネスに関心のある人がいます。
 銀行としては、製造業だけでなくいろいろな分野で橋渡しをしたいと思っています。サービス産業については筑波大学とその科学的な経営管理手法等について情報交換をしています。

Q:話は変わりますが、理系ポスドクの採用は?技術開発支援に当たって大切と思われるのですが。
A:もともと文系にこだわっているわけではありません。人物本位ということです。目利きといっても、技術より人や企業を見て欲しいと思います。

Q:国際化について、海外展開の可能性は?
A:今のところ海外展開は考えていません。取引先は出ておられるので、これには注目しています。また、上海には現地視察に行っています。

Q:それでは、つくばへの期待、SATへの注文、連携のあり方になどについて。
A:つくばへの期待は大きく、本部をつくばにおいています。連携について言うと、研究機関中心は多いのですが、幅広い連携体が欲しいと思います。
筑波銀行ロゴ

Q:賛助会員交流会、イノベーション検討会などの行事にもご参加ください。
A:参加したいと思っていますが、なかなか参加できないのが実情です。場の提供をお願いいたします。

Q:ずいぶん長い間有難うございました。良い勉強をさせていただきました。今後も賛助会員でご支援お願い申し上げます。テクノロジーショーケースにもぜひご参加を。ポスター掲示をお願いできませんでしょうか?
A:協力させていただきます。


(感想)
 銀行と言えば、これまで「お金を預かってそれを融資して」くらいの認識でしたので、「研究者にとって銀行とは?」という話になると、勉強不足で十分な議論が出来ないのではないか、相手先にもご迷惑ではないか、といささか戸惑いながら訪問させていただきました。しかし、上記インタビューからお分かりのように、2時間に及ぶインタビューで20数個の質問事項、関連質問に丁寧にお答えいただき、非常に良い勉強になりました。質問事項のすべてを取り上げることができず、申し訳なかったのですが、あとになって「こちらも勉強になりました」とのお話もあって、私には得がたい経験となりました。おかげで銀行がグッと近くなったような気がします。ご対応の皆様に心から御礼申し上げたいと思います。
 今回の訪問・インタビューの感想を一言で言えば、「銀行サイドの技術開発支援の気持ちは強い」ということかと思います。これまで枠組み作りが十分でなかったようですが、お話を聞く限りでは、研究者が個人的に訪問されることも歓迎されるようですし、新しい技術を支援するための目利きの人を大切にしたいとも言っておられます。今回の訪問を契機に、研究者側・銀行側お互いにドンドン積極的に交流していただきたい、SATとしてそういう場の設定に努力したいと思ったような次第です。
 なお、インタビュー終了後、本部建物内のギャラリーをご案内いただきました。ちょうど「飯野農夫也版画展」開催中で、昔の農村ののどかで生活感にあふれた作品を楽しませていただきました。
(8月1日溝口記)

(参考)
株式会社筑波銀行 ホームページ
http://www.tsukubabank.co.jp/


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