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第32回:株式会社カスミ
カスミつくばセンター
 日本の小売業のあり方は、高度成長期以来、大きく様変わりしています。私の子供のころはと言えば(55年ほど前になります)、小さな商店街や市場、八百屋さんの引き売りなどが主流、百貨店は私にとっては夢のような存在でした。今は、スーパーありコンビニあり、ネット販売も盛んになっていますし、百貨店、個人商店も頑張っておられます。このような変化は、消費者が求めるものであったのでしょうが、それを成り立たせる物流や情報技術の進歩なしにはありえなかったように思います。
 つくばサイエンス・アカデミー(SAT)には、一見、研究や技術とは関係なさそうな銀行、小売業、ホテルなども賛助会員として支援してくださっています。今回は北関東の代表的スーパー潟Jスミをお訪ねすることとしました。個人的な話になりますが、我が家もカスミさんにはずいぶんお世話になっています。
 カスミはホームページでは、地域に根ざして、ということを強調しておられますし、地球環境問題にも熱心に取り組んでおられます。つくばに本社のある企業として、研究所群へ強い期待を持っていただいているように思われますし、スーパーを成り立たせている技術についてもお話を伺うことができそうです。
 平成23年10月26日、カスミつくばセンターを訪問しました。ご対応は内田 勉取締役です。SATからは事務局長篠田、事務局員齋藤、鈴木、コーディネーター溝口の4名です。いつも通り、最初にSATの概略を説明させていただき、その後、内田取締役からカスミの事業展開についてご説明いただいてインタビューが始まりました

Q:まず一般論として事業内容・事業規模などについて概略説明をお願いいたします。
A:私どもは、現在は食品を中心に事業展開していますが、もとは生活総合産業を目指しており、広くコンビニ、レストラン、不動産、ホームセンター、車、保険などを展開しておりました。当時はバブル期であり総花的な戦略構想でしたがバブル衰退期には業績悪化となり、二代目の社長が思い切ったリストラ策でスーパーに特化しました。このときには、コンビニやレストラン、ホームセンター等を売却しています。その後、三代目社長が生鮮食品スーパーに特化し、現在に至っているわけです。
 店舗は群馬、栃木、千葉、埼玉、茨城の北関東エリアで140店舗展開しています。店舗業態は三つのフォーマットでドミナント形成しています。"フードスクエア"は39店舗あり、サービスの数・品揃えの豊富さおよび「食の提案」をしております。"フードマーケット"は標準タイプの店舗で73店舗、フードオフストッカーはロープライスとローコスト運営が特徴で28店舗を展開しています。最近のお客様志向としては、品揃えやサービスを求めるものと、サービスは少なくても価格的なものを求めるという二極化が進んでいます。
 地域に根差すということから考えると、スーパーマーケットの商圏は3km以内です。また働く従業員もほぼこの範囲内の人たちが多いです。それに比べるとイオンさんやヨーカドーさんの商圏は半径20kmと広範囲となります。
内田取締役、溝口コーディネーター、篠田事務局長(写真左から)
 当社の特徴は、さきほど申し上げたように食品に特化していることです。雑貨品の品揃えは極端に少なくしています。鮮度の目安として、商品の回転日数が短く、1回転が8日位です。同業他社の場合は通常25日前後位ですから、その分在庫が少なく高回転ということです。
 以前は、「カスミは品質は良いが価格が高いね」というお話もありましたが、リーマンショック後は1円でも安くと改善につとめ、企業体質をローコストにするために紙一枚でも資源として取り扱っております。

Q:現在は社会状況が大きく変化する時代、最近10年で見て、社会の変化、つくばの変化をどのように捉えておられるでしょうか?
A:茨城県の産業や経済・商業等はつくばを中心に推移していると感じます。そのような中で、商業施設は大型化していると思います。土浦のイオン、つくばのイーアス、レプサモール、ララガーデン、阿見のアウトレットなどがそういうことになるでしょうか。リージョナル化(広域化)は時代の変化と思われます。一方では駅前商店街はシャッター通り化しています。
 また小売業界もグループ再編として、イオン、イトーヨーカドー、西友(ウォルマート)が大きな流れであると思います。

Q:消費傾向の変化についてはいかがでしょうか?
A:1990年代はGMS(日本型総合小売店舗)が大勢を占めており、モノがあれば売れた時代ですが、今は専門店化が進んでいます。この10年間お客様の志向は、自分を中心としたライフスタイルのあり方を追求してきたように思います。人と同じは駄目、個性的な自分が存在価値を示す、ということですね。

ペットボトルの選別作業の様子
株式会社ワンダーコーポレーション
Q:スーパー経営のあり方自体に大きな変化はあるのでしょうか?
A:企業は経済活動だけに視点を置く時代ではないと思います。地域における社会的責任をどう考えるかが、大事であろうと思います。環境問題やリサイクルが大きな課題です。レジ袋の無料配布をやめたり、古紙回収のリサイクル運動に力を入れています。また、社会貢献活動の視点から、今年笠間市の吾国愛宕山で「カスミ共感創造の森」を対象に森林再生事業に取り組んでいます。よりよい地球環境を次世代に引き継いでいかなければなりません。

Q:スーパー以外の会社や事業もあるようですが?
A:PC関連やゲーム・CD・書籍などを扱う「ワンダーコーポレーション」があります。創業時は家電製品を中心に扱っていましたが、ケーズデンキと提携し現在の商品に特化しております。
 また、当社の総菜部門を支える「ローズコーポレーション」があります。お弁当・サラダ・おにぎり・煮物などを製造しています。
 その他には、「カスミトラベル」(旅行業)・「協栄A&I」(保険業)・「カスミグリーン」(フレッシュサラダ製造)等があります。

Q:技術面を具体的に見て、情報技術がスーパーのあり方を大きく変えたというようなことはないでしょうか?あるいは、LED化で消費エネルギー節減と同時に、熱の影響を減らしたなどということは?
A:情報については、何がいつ売れるかなどの時間帯データや過去の催事のデータが整備されております。POSシステムの確立により在庫管理を確立し、自動発注システムに結びつけております。LEDは今後節電対策として企業が果たすべき課題であると考えております。

Q:商品の物流や保管などの技術については?
A:実感としては、あまり大きな変化は感じません。

Q:昔に比べると、特に冷凍技術の進歩は大きな影響を与えたように思えますが?
A:一番の要因は電子レンジの普及による冷凍食品の製造技術の進化と、生鮮食品を産地から如何に新鮮な状態で消費者にお届けするかを考えた結果であろうと思います。

Q:レジサービスなどは?
A:当社ではセルフレジを一部の店舗で展開していますが、さらに進化をするためにセミセルフレジに取組み中です。商品のレジ登録はレジで行い、レシートの発行後の精算はお客様が個別に精算する機械で行うシステムです。待たずにすむ面はあるのですが、サービスの質の低下という面もあり、試行錯誤ですね。

Q:無農薬など産地との連携は?
A:無農薬は難しいですね。安定した数量の確保と価格設定が課題となります。
 最近は、野菜が生産者の写真つきで出されたりしています。品質的には不ぞろいですが鮮度はよく、生産者の顔が見えるということで安心感があることが支持を受けています。
 農業の大規模化は進んでいますが、企業が入らないと農業の法人化も難しいのではないでしょうか?高齢化と後継者がないのも問題です。イオンは牛久で自社の圃場を始めました。イトーヨーカドーも農業に参入しています。TPPへの参加により農業は変わっていくでしょうし、小売もそれに対応していくことが必要です。

Q:つくばとして、ほかの地域と扱い商品が違うといった特徴は?
A:つくばでは研究者・大学関係者が多く、一人世帯で男性の買い物客が多いように思います。それと外国人が多いですね。スパイスが独特であったり、品揃えを考える必要があります。

Q:産総研にはサービス工学センターがあります。こういうところとの交流は考えておられないでしょうか?
A:産総研さんとのお付き合いはあります。たとえば、人が働いているのですから、客数に応じて従業員の企業内移動を考える必要がある。LSP、Labor Schedule Plan というのですが、すぐに取り入れるのは難しいですが、大切と思っています。われわれはカンと経験に頼りがちですが、科学的な思考、分析は必要です。

Q:高齢者や身体障害者へのサービスについてはいかがでしょうか?
A:今まではお客様に来てもらっていましたが、高齢者の増加を考えると、これからはお客様の不便をなくすことにニーズがあると思います。ひとつにはネットスーパーです。すでに通販の販売額は、百貨店の販売額より多くなっているという状況なのです。それと買い物難民への対応です。買い物バス、出前というか、隙間的な商売ですが、お客様の「不」の解消になると思います。
カスミネットスーパー(つくばスタイル店限定)

Q:スーパーが市民の交流の場という面もあります。このような点については?
A:駅前立地で店舗が退店するような地域は、「町」全体が沈滞化していますので、活性化に向けた支援体制をとるような行政のリーダーシップが必要ですね。

Q:今は社会・マスコミが企業を見ています。コンプライアンス宣言を出しておられて、それは非常に良いことだと思いますが、あらためて、どのような姿勢で、という点について。
A:従業員の皆さんに、入社時に行動宣言を確認してもらっています。これは自覚も含めてということもあります。また、管理職を中心にコンプライアンス研修を年間通じて行っております。

Q:東日本大震災時はどのように対応されたのでしょうか?また復興支援はどのように進めておられるでしょうか?
A:軽傷でしたが、従業員に2名の負傷者がありました。地震当日、従業員は管理職を除き自宅に帰ってもらいました。翌日からはお客様のご要望に応じて、水や菓子パン・カップラーメンなどの販売をはじめました。天井が落ちたり、停電などで店頭販売になった店舗もありますが、地域社会に対してライフラインの使命を全うしたと思っております。また当社従業員の皆さんも多数被災しており、ご本人だけでなくご家族の皆様にも感謝致します。
 復興支援では、まず未来ある子どもたちの教育の場の一刻も早い復興を願い、各学校関係に対して1億円を寄付させていただきました。それと被災県に対して就職支援も行っています。また今後もその支援は継続していきます。

Q:国立研・大学とのコミュニケーションについてはいかがでしょうか?
A:大学とはもちろん、採用関係でおつきあいがありますが、科学的にものごとを考えることが大切とは思っておりますので、研究所さんともそのような場は欲しいですね。
カスミロゴ

Q:つくば研究学園都市へのご希望は?
A:生活者が住みやすい、そういう「町」づくりが必要です。つくばは新興都市で隣近所の付き合いが少なく、住民同士のコミュニケーションが少ないように思われます。昔からの住民を含め、どうやったら「語らいのある町」づくりができるか、行政に期待しています。

Q:SATへの期待をぜひ。
A:私どもは異業種に対して引っ込み思案なところがあります。何が私たちと接点になるのか教えていただきたいと思います。

Q:本日は、ずいぶん長い時間お付き合いいただきました。まことに有難う存じます。最後に改めてのお願いですが、今後ともSATをご支援いただきたく思います。また大変ぶしつけですが、SATの案内ポスターの掲示などでご協力いただければさいわいです。
A:こちらこそよろしくお願いします。ポスター掲示についてはご協力させてください。


(感想)
 ピントはずれの質問が多かったような気もしますが、内田さんには、一件ずつ丁寧にお答えいただきました。
 ここ24、5年、社会は大きく変動しています。少子高齢化、そして情報化は小売業界にも大きな影響を与えています。そのほか目に見えない技術革新が、小売業(中でもスーパーのあり方)に影響しているようにも思えます。
 今回は、社会の変化や技術革新が小売業に及ぼす影響を把握し、ひいては、基礎的な産業技術研究が小売業に与える影響をイメージアップできないか、また異業種間で共鳴することの可能性はないか、そんなスタンスで潟Jスミを訪問させていただきました。
 インタビューの中で私なりに理解が進んだのは、「ITにしろ冷凍保管技術にしろ、新しい技術を必要に応じて取り入れるのは当たり前である。大切なのは、セルフレジに見られるように、お客様の満足が得られるサービスをどのような科学的な考え方で実現していくかという点である」、ということです。したがって、たとえば省エネ研究に意味があれば、スーパーはどんどん取り入れていくでしょうし、サービス関連研究のあり方にも、いつも注目しておられるように思われます。
 2時間近くのインタビューでは、今までは縁のなかった面白い話題が多く、良い勉強になったと同時に、スーパーがずいぶん身近になったように思われました。社会の変化がスーパーに影響する、その変化はまた新しい技術を要求する、そういう回転を視野に入れることは、(分野にもよるでしょうが)研究者として大切なことであるように思われます。
(10月26日溝口記)

(参考)
株式会社カスミ ホームページ
http://www.kasumi.co.jp


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