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第33回:育良精機株式会社
育良精機(株)本社
 つくば市内には、企業研究所は多いが工場は少ない、という話をよく聞きます。確かに、ソフトやベンチャー企業を含め事業所が多くなるのは望ましいことでしょう。その中にあって、育良精機株式会社は広沢グループの一員として、省力機器・工具機器の開発・製造に携わり、また賛助会員としてSATを応援してくださっています。
 グローバル化の進展、東日本大震災の影響等々経済社会変化の著しいこの時代、同社はこのような状況にどのように対応しておられるのでしょうか?
 平成24年3月5日、同社工場を訪問させていただきました(コーディネーター溝口、同補佐齊藤、事務局鈴木)。同社からは佐藤憲治常務にご対応いただきました。
 簡単にSATについて説明させていただいたあと、今回は特に、工場見学をお願いしました。機械工場見学の機会は、これまでもあまりありませんでしたし、ホームページによれば、同社は主に自動棒材供給機・高機能電動工具の開発・製造がご専門とのこと、自動化や材料技術の進んだ最先端の工場をぜひ見学させて欲しいということで、無理にお願いしたところ、快くご案内いただきました。


(工場見学)
 育良精機(株)のみでなく、グループ内の(株)広沢製作所、キング工業(株)、(株)ビアン エアー ジャパンの工場もご案内いただきました。ダイナミックなプレス工程から細かい作業の進む開発部門まで、それぞれ興味深く見させていただきました。
 断片的ですが、見学の印象をまとめてみると、
工場内部の様子
デンタルショールーム
  1. 全体として、車や複写機の部品製造、金庫、歯科器材など、多角的な事業活動が行われています。
  2. 同一グループ内ということなのでしょうが、各企業それぞれが技術開発や製造にあたってかなりオープンにやり取りしているという印象を受けました。
  3. また、当たり前なのでしょうが、素材や道具の配置・整理、安全対策に留意しておられるように見受けました。
  4. 私は自動棒材供給機(バートップ)に興味があったのですが、長さ2mほどの棒材が旋盤にまっすぐに供給され、加工されて30cmほどの部品として連続的に取り出されていました。
  5. 敷地内には、診療の認可を受けた歯科診療所があり、歯科衛生専門学校生の教育及びショールームとして使っているとのこと、また偶然、若者たちとのミーティングの場に行き合わせ、若者教育に熱心だなという印象を受けました。
  6. ところどころに女性作業員の姿が見られました。これまで機械工場での女性従業員は少なかったように思います。女性が男性と同じように働く姿は、私には大切なものに思われました。
そのほか工場現場でいくつか質問させていただきましたが、それらは下記のインタビューの一部に使わせていただきます。


(インタビュー)
Q.工場見学の前までは、御社のイメージとして、"高機能工具の製造"というように思っていたのですが、もう少し広く捉えた方がよいようですね。
A.そうですね。金属加工、というようにとっていただいたらと思います。

Q.それではまず、広沢グループ・御社の事業内容・事業規模などについて概略説明をお願いいたします。歯科技術を中心に教育にもご熱心なようですが。
A.広沢グループの出発点は、プレス事業をやっている広沢製作所です。それに育良精機やキング工業、ビアン エアー ジャパンなどが入ってきた。今は製造部門のほか、流通開発サービス部門、教育・健康部門もあります。歯科事業はキング工業の中にあって、これから歯科衛生専門学校が生まれています。
 年商はグループ全体で550億、従業員数は国内2000人、海外1000人です。中国に工場があり、タイには支店があります。

Q.いろいろな分野が連携しあって発展してきた、ということなんでしょうね。ところで中国の工場の方が設備が新しい、というようなことはないでしょうか?
A.そういうことはありませんが、どこの工場にも新しい機械が入っています。
バートップ(本格派オイルサポート式供給機)
ライトボーラ―(切削工具)

Q.育良精機さんとしては、例の自動棒材供給機‐バートップがメインということでしょうか?
A.そうですね。グループ全体でみると、育良精機、キング工業、ビアン エアー ジャパンは自分のところで商品を考えて作る、広沢製作所、育良精機製作所などは受注して部品を作っています。

Q.タイに支店があるようですが、このまえの洪水は?
A.影響を受けましたが大きな被害を受けることも無く、お客様への対応を速やかに開始しました。

Q.国際化は進んでいるのですね。社会状況が大きく変化する時代、最近10年で見て何か印象に残ることは?
A.たとえば、自動棒材供給機のオイル化があります。

Q.先ほどもお聞きしようと思ったのですが、自動棒材供給機についてもう少し。
A.NC旋盤では、自動的に回転速度を変えています。急に速度が変わるというような場合、素材をキチンと中心に据えることが難しい。従来は、中心サポートはメカ式で行われていたのですが、ローラーでのサポートに加え、素材をオイルの中に置くようにしたのです。そうするとオイルも一緒に回り、素材は中心にいやすくなるのです。これで速度の急な変化にも追随できるようになりました。

Q.それは生産性、精度どちらに効いているのでしょうか?
A.両方共です。これでNCの本来の機能が生かされるということです。最初は高価ということだったのですが、良さがわかってもらえて売り上げも伸びています。

Q.その技術はどのように開発されたのでしょうか?
A.オイル化はむしろ海外で進んでいました。私どもはローラーサポートとオイル化をミックスしたのです。うまく合わせることが大切だったのです。

Q.ついでながら工場見学で見た歯の治療器、1分間に45万回も回転するということでしたが、それはどういう目的で?
A.あのようにすることで、治療の際、痛くなく、治療も早くなり高精度な治療が出来るのです。
齊藤事務局員、溝口コーディネーター、佐藤常務(写真左より)

Q.最近は材料技術が大きく進歩しています。それにともなって生産方法が変化したというようなことはないでしょうか?
A.たとえば 今の歯の治療器(エアータービン)は難削材の純チタン製ボディを使用し軽量で高強度にした事、又形状を変えてコンパクトで使いやすく、音を静かにした事などです。

Q.進歩の著しい情報技術、生産手段あるいは製品の中にどのように生かされているでしょうか?
A.たとえば 自動棒材供給機では操作パネルに多彩な機能を入れスムーズに操作出来る様にしております。

Q.ちょっと変わった質問かもしれませんが、自動化の進展で職人技はどのように変化・継承していくのでしょうか?
A.それはエキスパートシステムでなく、若い人に現実の技として伝えていくようにしています。

Q.若い人の就職が大変、と聞きますので、できるだけ日本で、と思ったりするのですが。
A.私どもも、基本的にモノづくりは日本で、と思ってやっています。特に高精度が必要なものはやはり日本で、と思います。実際問題として、目の前で作っていないとアイデアも生まれないんですよ。

Q.そういうことで頑張っていただきたいですね。
A.最近、東北の奥州市に工場を建設したのですが、みな出ていくのに、広沢グループが来てくれてありがたい、という話もありました。

Q.品質・環境問題への具体的な対応策は?
A.品質・環境については、ISO9000、14000についての審査を毎年受けています。
ショールームカーによる被災地支援
広沢グループ 筑波工場

Q.東日本大震災時はどのように対応されたのでしょうか?また復興支援はどのように?
A. 震災が金曜日で 土、日曜日で復旧し、月曜から製造は稼動しました。
 営業はお客様への対応を速やかに開始しています。又 デンタルクリニックショールームカーで被災地に行き各大学、歯科医師会、歯科医院の方々にご協力いただき、災害援助を支援し、皆さんから喜んでいただきました。

Q.ライフイノベーションというか、健康長寿のためにいろいろお骨折りいただきたいと思うのですが。
A.たとえば 各家庭に車に載せて行く訪問歯科診療用ユニットを製造販売しております。

Q.話題を変えさせていただいて、つくば内の国立研究所や大学とは、なにか具体的にコミュニケーションをとっておられますでしょうか?共同研究など・・。
A.特に今はないのですが、必要に応じて筑波大学や茨城大学、産総研などに相談したりしています。

Q.他分野企業との交流は考えられないでしょうか?
A.考えて行きたいと思っています。

Q.一般論として、研究学園都市への希望は?
A.知的な街ですし、いろいろな情報を大切にしたいと思います。

Q.研究者と企業の協力というと、研究者が十分ニーズを把握していないように思われますが。
A.こちらからも もっと問いかけると良いかもしれませんね。

Q.ひとことSATへの期待をぜひ。ショーケースなどお役に立つと思います。
A.ショーケースには、昔、参加させていただいたことがあるのですよ。

Q.それは気がつかなくて失礼しました。ほかにつくばスタイル交流会、賛助会員交流会にもご出席いただきたく思います。
A.もちろん関心はありますので、検討はさせてもらっていますよ。

Q.参考にさせていただきます。本日は見学も合わせて、長時間おつきあいいただき本当に有難うございました。今後も賛助会員としてご支援お願いいたします。
A.こちらこそ、よろしくお願いします。


(感想)
 広沢グループの工場見学とインタビュー、あわせて3時間という長時間をお付き合いいただきました。工場は、想像以上に清潔で整理整頓されており、安全対策にも心を配られているように思われました。それと、従業員の皆さんが非常に礼儀正しいのに驚きました。
 佐藤常務とのやり取りの中で、目の前で作っていないとアイデアも浮かばないんですよ、というお話は印象深いものでした。現場経験のない私が言うのもおかしいですが、現場から刺激を受けることで、発想に大きな飛躍が生まれるように思います。グループ全体として教育にも力を入れておられるとのこと、育良精機さんには、この地で世界に羽ばたく若者を育てていただきたい、そのように思いました。
(2012年3月5日 溝口記)
広沢グループ シンボルマーク
(シンボルマークはヒロサワグループの企業理念をあらわしています。技術の象徴である「手」と、心の象徴である「ハート」を形象化したものです。)

(参考)
育良精機株式会社 ホームページ
http://www.ikura.com/


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