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第35回:インテル株式会社
新しい機器に囲まれて(インテルHITACにて)
 インテルのマイクロプロセッサーは、今では世界中のほとんどのPCに使われているのではないでしょうか?
 インテルはロバート・ノイス、ゴードン・ムーア、アンディ・グローヴをはじめ、著名な経営者に率いられ、マイクロプロセッサー(以下CPU)を中心に世界を牽引しています。CPUは、ムーアの法則に従いどんどん微細化・高性能化が進んでいますが、それには限界があるのではないでしょうか?
 PCが普及しインターネットが一般化したのは、たかだか20年ほど前のことです。我々を取り巻く社会も我々の生活自体も驚くほど大きく変化してきました。この変化は、しかしまだ途上であって、これからもっと大きな変化が訪れてくるように思われます。そのカギの一つは、やはりCPUでありましょう。
 平成24年12月19日、個人会員のブライアンさんを窓口に同社つくば本社をお訪ねしました(溝口)。同社では、インテルHITAC(Human Interactive Technology Application Center)見学でテクノロジーセンター佐藤義和担当部長、植田慎司担当部長、玉城秀善担当部長、荒木義満広報室室長の皆様からご説明を受け、あとのインタビューで阿部副社長、荒木さん、ブライアンさんにご対応いただきました。

 まずインテルHITACの見学です。ここはまだ一般公開されていませんが、新しい社会の中でCPUがどのように使われるのか、そのユーザー体験の場ということのようでして、介護に役立つ対話型ロボット、議論を効率的に進めるためのディスカッション・テーブル、視線で遊ぶビデオゲーム、カメラで年齢などが判別できる自動販売機・・・などの最新機器が置かれています。概要説明では、「マカフィー社などと協力し、またクラウドを利用しながら、これからのCPUの応用を考えていきたい、それは文化の世界の話でもあり、いろいろな意味で共存のあり方をこのセンター発で考えていきたい」といったお話がありました。私は、新しい社会は便利さだけでなく、人間同士の関係に潤いを持たせるようなものであってほしい、したがって社会のイメージ作りに謙虚さが必要ではないかと思っていますが、驚いたことに、そのあたりはすでに十分考えておられるようで、概要説明のPPTに「人と技術の共存・・・、思いやり」という表現があり、何か嬉しくなりました。
インテルHITAC説明の一部

 約1時間のインテルHITAC見学の後、阿部副社長とのインタビューに臨みました(荒木さん、ブライアンさん同席)。以下、Q&Aです。

Q:最初に、最近10年での御社の大きなトピックス、あるいは変化をお話しいただきたいと思います。
A:インテルでは、(1)Sales &Marketing Group、(2)Technology& Manufacturing Group(TMG)という二つのグループがあります。TMG はいろいろなサプライヤー様とお付き合いがあり、買い手側ということになりますが、トピックスをまずこの買い手側の立場で言いますと、日本では、消費者から見てCPU の性能向上とともに低消費電力へのニーズが強い。この二つはトレードオフの関係にあるのですが、(1)もれ電流を減らすためのHigh-K、メタルゲートという技術、および(2)シリコントランジスターの3D化、ということでこれを乗り越えてきました。これには日本のサプライヤー様が大きく貢献しています。
 電界効果トランジスターで集積化がどんどん進んでいますが、そうするとゲート絶縁膜が極薄になり、漏れ(リーク)電流が増えてしまいます。これが熱発生や消費電力増のもとになっており、これをどうするかが大きな問題でした。Hjgh-Kというのは誘電率の高い材料で絶縁膜を作り、リーク電流を減らそうというものです。しかし、このHigh-Kを使うと、ゲート電極の材料を変える必要が出てきます。それでメタルゲート電極が使われることになったのです。3D化については、インテル提案のゲートラスト方式が採用されています。ゲート形成をソース-ドレイン形成前に行うか(ゲートファースト)、後で行うか(ゲートラスト)で、プロセス上はかなり変わるのですが、インテルはゲートラストを提案し、今はこの方法が広がっています。
 次に売り手の立場から見るとですが、一番大きいのは、2003年3月にプラットフォームブランドとしてセントリーノが売り出されたことです。これはペンティアムCPUとチップセット、それとWi-Fiモジュールを組み合わせたものです。今はもう、ノートパソコンにWi-Fiは当たり前になっています。2008年には、ノートパソコンがPCの70%を占めるようになっています。

Q:Wi-Fiというと、無線LANいうことでしょうか?
A:そうですね、Wi-Fiは無線LANと同じ意味ととっていただいてよいと思います。昔、IBMのPCで工場やビジネスでの生産性が向上しました。今は消費者にPCが行き渡り、さらにモバイルになって、生産性より利便性へと価値観が変わってきています。ユビキタス社会でネット人口は急増し、世界で15億人という状況になっています。

Q:次に、今後10年の社会変化をどのように見ておられるでしょうか、そのときのINTELの対応は?
A:コンピューターが生まれて50年以上になりますが、今後の10年で、過去の変化が一気に起きると思っています。ネット人口は2015年25億人、2020年には40億人になるでしょう、それに合わせてデバイスも爆発的に増えていきます。そしてそのインフラをベースに、世界の誰でもモノが作れる時代になるでしょう。誰でもハード、ソフトを合わせたアプリケーションによってビジネスを生むことができると思います。これから発展途上国がますますネットにつながり、ビジネスに参入してきます。いろいろな人がネットに入ってきますから、それに伴う新しいビジネスモデルを作っていかなければならない。新しい技術を開発するときに考えるべきは、技術はあくまでも手段であるということです。その技術を使って何をどうするか、道具を生かして、どうやって収入を得るかを考えなければならない。つまり、ビジネスモデルをしっかりと持つことが必要です。そして、今後は外に出て行かなければなりません。日本では、スマートグリッドなどの新しい社会インフラを市場に展開するには時間がかかります。スピードの向上のためには、自分のところで抱え込むだけでなく、本当の意味でのグローバル化、オープンにならなければならない。Made in Japan & high qualityだけでは、市場価値としての必要十分条件を満たすことが難しい時代になっています。そして今や、日本の常識は世界では非常識と言っても過言ではありません。
 モノ作りはもう終わりではないかという意見もありますが、私はそうではないと思います。重要なことは、技術とビジネスをうまくバランスさせなければならないということです。
阿部副社長

Q:ムーアの法則(筆者注:チップの集積度が2年ごとに倍増する)はインテルとして大切な指標と思いますが、この法則に限界はないでしょうか?
A:これは技術開発の目標というより、実はビジネスモデルなんです。これに従うことでGDPを上げていく、そういうように位置づけています。

Q:何点か刺激的な話を伺いました。技術の中身もさらに詳しくお聞きしたいのですが、話題を変えさせていただいて、研究学園都市としてのつくばへの期待を一言お願いします。
A:もっとフランクな交流を進めていただきたいですね。ご存知と思いますが、インテル自身も筑波大学、つくば市とのコラボを進めています。

Q:インテルHITAC設置の理由について
A:人と人をもっとオープンに結び付けたいのです。これからの社会のためには、幅の広い人、コラボのできる人が必要です。20世紀は勝負の時代だった、ですが、21世紀はコラボの時代、win-winの時代であると思います。

Q:今日はご多用中に長時間とっていただいて有難うございました。面白い話を聞かせていただいて勉強になりました。これからもSATへのご支援、どうぞよろしくお願いいたします。
A:こちらこそよろしくお願いします。

 阿部副社長には、かなり時間をオーバーしてお付き合いいただきました。これ以降は、荒木さん、ブライアンさんとのやり取りです。

Q:線幅が32nmというと、細かすぎて信じられない思いがします。具体的にはどのような方法で?お差し支えない範囲で。
A:たとえば液浸型のリソグラフィーなどの方法が使われています。

Q:インテルは世界中に事業所を持っておられますが、日本での役割は?
A:ムーアの法則に乗るように、次世代商品の開発を担当しています。日本のサプライヤー様とのお付き合いが深くなっています。

Q:そういうことはアメリカで行われているように思っていたのですが・・・。
A:たとえば450oウエハの開発というと、日本の装置メーカーは技術レベルが高くこちらでやっていますし、製品検査の技術開発拠点は日本、つくば市にできました。一方、総合的な開発センターはニューヨークです。

Q:本日はインテルHITAC見学、阿部副社長インタビューとご便宜を図っていただいて有難うございます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。ご存知いただいていると思いますが、1月22日、国際会議場で恒例のSATショーケース2013が開催されますので、ぜひお付き合いください。
A:こちらこそよろしくお願いいたします。ショーケースはチラシをお預かりして、社内で案内するようにいたします。


(感想)
 インテルHITAC見学、阿部副社長インタビューと長時間にわたり実り多い訪問をさせていただきました。
 インテルHITACの運用はこれからのようですが、ユーザー体験の場を超えて、新しい社会のイメージを創造していく場となるのではないでしょうか。市民の参加を得たイメージ創造の場として活用していただきたい、そうすることで、コラボのできる人材の育成につながる、そんなように思いました。大いに期待したいものです。
 阿部副社長とのインタビューでは、ずいぶん刺激を受けました。これまでの10年、これからの10年ということで、率直明快なご意見を伺いました。これからも否応なくグローバル化は進んでいくでしょう。その中にあって、日本はどのような生き方をしていくか、技術とビジネスのバランスというご意見には、改めて目を開かれる思いがしました。
 一番刺激を受けたのは、ムーアの法則がビジネスモデルだ、という点です。ムーアの法則に従うためには、並大抵でない技術開発上の課題を乗り越えなければならないでしょう、しかしそれは同時に次の世代のビジネスモデルを他に先んじて構築していくということでもある。企業のひとつの生き方として、納得できる興味深いお話でした。
 グローバル化は厳しい知恵勝負の場でもあります。研究者も論文で世界に発信すると同時に、社会(企業)とのコラボ、そのためのわかりやすい発信が要請されているように思われます。SATはそのための場として活動を進めるべきである、と改めて痛感する機会となりました。
(溝口記)

(参考)
インテル株式会社 ホームページ
http://www.intel.co.jp/


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