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第48回:新日鐵住金株式会社 鹿島製鐵所
 今年(2018年)の夏は記録ずくめの猛暑が続きました。彼岸を過ぎて一か月が経ち、つくばの街路樹もうっすらと紅葉してきた11月1日(木)に新日鐵住金株式会社 鹿島製鐵所(以下、新日鐵住金(鹿島))に賛助会員訪問記のインタビューに出かけました。偶然ではありましたが、この日は新日鐵住金(鹿島)が出場する第44回社会人野球日本選手権の開幕日と重なりました(この日本選手権では準決勝戦まで勝ち進む活躍でした)。
 事前に調べたところではつくば国際会議場から鹿島製鐵所までは約70kmで、所要時間1時間30分、またHPによると敷地面積は1,000万m2とのことでした。これは東京ドームの210倍以上の広さです。
 本館に到着後、会員企業訪問にあたり準備段階でお世話になりました総務部人事総務室の中野陽介氏にご挨拶をした後、インタビューに入りました、対応いただきましたのは有田進之介総務部長です。つくばサイエンス・アカデミー(SAT)から渋尾篤事務局長と私(伊ヶ崎)が鹿島製鐵所を訪問しました。

I.新日鐵住金株式会社(新日鐵住金)に関しまして
Q:まず新日鐵住金全体としての紹介をお願い致します。
A:当社は製鉄事業のほか、エンジニアリング事業、ケミカル・マテリアル事業、システムソリューション事業の4つの事業を行っています。

Q:製鉄事業ばかりでなく、上述のような事業を含めた高い総合力を有するということが世界の製鉄業界の中で見た御社の特徴といえるのですね。目標は「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」。
A:その通りです。もちろん製鉄事業が売上高からみれば8割以上ですが、製鉄事業と各事業間での連携によるシナジー効果があります。例えば製鉄事業とケミカル・マテリアル事業共同で今までにない新素材の開発をするとか、エンジニアリング事業では橋、タンク、海洋構造物などをつくるのですが、現場から要求される品質の鉄を共同で開発するなどです。そのような技術力、お客様要望への対応力で世界No.1の鉄鋼メーカーを目指すということです。鉄の生産量では世界第3位ですが。

Q:環境経営についてお願いします。
A:当社は、エネルギーの使用量が日本全体の約5%を占めるなど、事業活動の環境に及ぼす影響が大きい企業です。そのため、全グループをあげての総合的な「環境経営」を企業の使命と考え、「環境基本方針」を制定しています。原材料・資機材の購入、生産、技術開発、製品の輸送・使用・リサイクルに至る全ての段階にわたって、環境負荷低減に向けた経営を目指しています。

Q:環境基本方針についてお話し下さい。
A:当社は、環境基本方針に掲げる3つのエコ(エコプロセス・エコプロダクツ・エコソ リューション)と革新的技術開発を4本柱として環境経営を推進しており、2018年度からの3年間は2020年中期環境経営計画を策定し5つの重点分野を中心としてさまざまな環境課題に取り組んでいます。これらの取り組みを推進していくことは、SDGsの目標達成にも寄与するものと考えており、さらに今後も、SDGsの視点から当社の事業を通じて貢献できる課題を見出し、取り組んでいきます。

Q:5つの重点分野はどのような分野でしょうか。
A:5つの重点分野とは、①環境マネジメントシステムの推進、②地球温暖化対策の推進、③循環型社会構築への貢献、④環境リスクマネジメントの推進および⑤環境リレーション活動の推進です。

Q:御社のような日本を代表する企業の中期環境経営計画にSDGsの達成に向けた取り組みを掲げていることは素晴らしいですね。
A:ありがとうございます。今後も頑張ります。

II.鹿島製鐵所に関しまして
Q:新日鐵住金の中での鹿島製鐵所の位置づけとして、その他の製造所、製鐵所との関係について教えてください。
A:鹿島製鐵所は、大分製鐵所、君津製鐵所に次ぐ粗鋼生産量を持つ製鐵所であり、薄板・ 厚板・鋼管・形鋼(かたこう)の4品種を製造している当社の基幹製鐵所です。

Q:鹿島製鐵所の業務の概要および組織についてお願いします。
A:鹿島製鐵所では、自動車・家電向けの薄板製品を中心に、厚板・鋼管・形鋼(かたこう)製品を製造しています。2基の高炉を有する銑鋼一貫製鉄所で年間700万トンを超える生産能力を持っています。面積1,000万m2の広大な敷地の中には直営・協力会社を合せると約13,000名が働いています。直営社員のみでは約3,400名います。

Q:敷地面積を表現する場合に、東京ドーム(約4.7万m2)との比較がされますね。東京ドームと比較すると実に210倍くらいになります。想像を絶する広さですね。
A:そうですね。東京都の中央区とほぼ同じ面積になります。

Q:鹿島製鐵所の歴史・沿革をお願いします。
A:鹿島製鐵所は1968年12月1日に発足し、翌1969年4月に熱延工場が操業を開始しました。1971年1月には高炉と製鋼工場が操業を開始したことにより、銑鋼一貫体制が確立され、本年12月1日で開所50周年を迎えます。
(写真1) 鹿島製鐵所全景 (右側が鹿島灘)

Q:50周年ですか。それはおめでとうございます。50周年ですから発足以来の従業員はいないと思いますが、一番変化があったことはどういったことでしょうか?
A:一番大きな変化は新日本製鐵(新日鐵)と住友金属工業(住金)との2012年の合併ではないでしょうか。合併により全国で12製造拠点を持つことになり、規模もぐっと大きくなりました。

Q:新日鐵と住金の合併以前の特徴を簡単にお願いします。
A:新日鐵は自動車、家電などの薄板鋼板が強み、他方住金は石油パイプラインなどの鋼管が強みでした。新日鐵住金はお互いの強みを伸ばすことで成長できる企業になったといえますね。

Q:50年前に鹿島製鐵所がこの地に出来たわけですが、常陸風土記に「若松の浜(鹿島)の鐵(まがね)を採りて剣を造りき」と記されているようですね。鹿島製鐵所建設と常陸風土記の記載との関係はあるのでしょうか。
A:常陸風土記との関係はないと思います。鹿島開発という県のプロジェクトがあり、それまで和歌山、尼崎など西日本にのみ拠点があり、関東に拠点がなかった当時の住友金属工業㈱が鹿島に新設したということです。

III.鹿島製鐵所の製品およびプロセスなど
Q:鹿島製鐵所の製品についての特徴を教えてください。
A:製造している製品では、薄板製品が6割を占める薄板が主力の製鐵所で、工場が効率的なレイアウトで配置されており、上工程から下工程まで品種ごとにシンプルな製造フローが特徴です。鹿島製鉄所は更地に建設されましたので、敷地も十分あり、全体の設計ができたことが効率的なレイアウトが出来た理由です。

Q:製鐵プロセスについて。例えば自動車向けの薄板が出来るまでの原料から製品が出来るまでのプロセスについて教えてください。
A:(鉄の製造工程が描かれたパンフレットを前に説明いただいた。)
 製鉄プロセスは、まず原料となる鉄鉱石・石炭を海外から輸入し、前処理を行った後に高炉に投入します。高炉に投入された原料は、下から約1,200℃の熱風で溶かされ、取り出されます。
 取り出された鉄は銑鉄といい、そのままでは不純物が多く固くて脆いため、次に転炉という設備で不純物を取り除き、製品に合せた成分調整が行われます。そこで出来るのが鋼です。溶けた鋼は、連続鋳造設備でスラブという長さ約10m、幅約1.5m、高さ約25cmのかまぼこ板のような形に固められ、各製品に応じた加工がされていきます。
 その後、例えば自動車のボディに使用される薄板であれば、スラブを熱いまま圧延する熱間圧延工程を通り、さらにその後に常温で冷間圧延工程で薄く延ばされ必要に応じてめっき処理等をして出荷されます。
(図1) 鉄の製造工程

Q:連続鋳造設備から出てくるスラブの温度はおおよそ何℃でしょうか。
A:およそ1,000℃です。スラブは熱間圧延工程前に加熱炉で再度1,200℃程度まで加熱し圧延されます。

Q:製品として熱延鋼板、冷延鋼板はどう違うのですか。
A:鋼板の厚さが違いますね。

Q:お客様からの要望のあった仕様の鋼板を特別に製造することもありますか。
A:あります。ただ厚さだけではなく、例えば自動車メーカーが新型車を開発するような場合には、これまでにない強度や加工性についての要望があります。その仕様を満足する薄板鋼板をつくって提供します。そのために、開発段階から共同で技術開発を行います。このようにお客様のニーズに応じて求められる仕様を満足する鋼板を製造することは日本のメーカーの強みの一つですね。

Q:中国の製鉄技術は如何でしょうか。
A:生産量だけではなく、品質的にもあがっています。こうした競合メーカーと世界のマーケットで競争していかなければなりません。

Q:鉄というと重厚長大なイメージがありますよね。しかし説明のような製造プロセスでつくられる鉄は持続可能な素材と言われています。簡単に説明くださいますか。
A:まず、リサイクル性が高いという点です。鉄スクラップは磁石にくっつくので分離が簡単で、転炉に投入して鉄だけを取り出すことができます。このリサイクル性が特徴です。炭素繊維は材料として硬くて軽いという良い点がありますが、リサイクルが難しいという点があります。
 次に、鉄をつくるためには高温を必要としますが、高炉やコークス炉から高カロリーのガスを回収し、熱源として使用しています。また、それら高温になったものを冷やすために大量の水が必要ですが、水の再生循環利用率は92%、蒸気も排熱を利用してつくられています。さらに鉄の価格が他の素材と比較して安いことも上げられます。これらを踏まえて持続可能な素材として鉄は今後も間違いなく使用されていくでしょう。 参考までに鉄のエネルギー原単位(鉄1トンつくるのに必要なエネルギー)に関し、日本の製鐵所を100とすると、中国は116、インドは123そしてアメリカは130です。

IV.技術開発
Q:技術開発についておたずねします。新日鐵住金の技術開発体制は如何でしょうか。
A:当社は、茨城県に波崎研究開発センター、千葉県にRE(Research and Engineering)センター、兵庫県に尼崎研究開発センターと全国に3つの研究開発拠点を持っています。また鹿島製鐵所にも技術研究部を設置し、ハイエンド製品の開発等を行っています。

Q:御社のHPを見ますと、技術開発本部に鉄鋼研究所、先端技術研究所およびプロセス研究所が置かれています。この3つの研究所と上記のセンターの関係についてお願いします。
A:技術開発本部は3つセンターを統括しています。鉄鋼研究所、先端技術研究所、プロセス研究所は主としてREセンター内におかれています。どちらかというと基礎研究所という位置づけです。

Q:鹿島技術研究部の特徴を簡単にお願いします。
A:鉄鋼製品の開発や鉄鋼製造設備の研究など自社の製品・製造現場からの要望・課題の解決にあたる部署です。

Q:最近の技術開発事例を紹介いただけませんか。
A:今年8月のプレスリリースされました“業界最軽量となるスチール缶を開発~約40%の軽量化を実現”は東洋製罐(株)との共同開発によるものです。お客様(東洋製罐(株))からの要望として、従来より薄くて、軽くて、可塑性が大きく冷間での打ち抜き製缶に耐える超薄型鋼板を開発しました。鉄鋼研究所とも連携しながら、鉄の組成を高精度で解析するとともに、加熱法や圧延工程での圧力などの検討の結果、開発できた成果であり、既に市場に流通しています。

SAT:HPを見ますと技術開発や受賞実績など記載があり、御社の技術力の高さがわかりますね。
(写真2) 有田進之介総務部長

Q:現在では、IoTとか、AIが今後の産業発展にとって重要と言われていますが、製鐵業界では、IoTやAIを活用する動きは如何でしょうか。
A:当社では、1968年に他産業に先駆け鉄鋼の製造プロセスに24時間365日稼働するオンラインシステムを導入しました。以降、ITの進展と共にデータの高度活用に取り組みながら、AIを活用した技能伝承や生産、設備の保全・メンテナンスの最適化・効率化等の取り組みを行ってきました。
 2016年4月に、更なる先進的な高度IT活用を検討・推進する専門組織を本社の情報システム部門に設置、加えて、2018年4月には、研究所内にビッグデータ解析やAIを研究する組織をつくり、基礎研究から高度IT活用に取り組む体制を整えました。

Q:製鐵工程においてロボット活用はどのような状況でしょうか。
A:二本腕のロボットが稼働しているというのとは違います。高炉から圧延装置までフルオートメーションで操業しています。

Q:直営の従業員は約3,400人とのことですが、どういう作業に従事しているのでしょうか。
A:事務作業や製造工程の操業に従事している方はもちろんのこと、その他にメンテナンス業務をしています。装置産業では多くの装置がありますので、安定生産・安定稼働にメンテナンスは重要です。

V.地域貢献・社会貢献について
Q:鹿島製鐵所は様々な地域貢献・社会貢献があると思います。お教えください。
A:鹿島製鐵所で取り組む地域・社会貢献活動として代表的なものとしては、まず年間2万人を超える工場見学の受け入れを行っているということ、また新日鐵住金杯といった冠スポーツ大会、今は中学生軟式野球・中学生卓球・中学生女子バレーボール・小学生ミニバスケットを開催しています。さらに理科教室・野球教室などにも取り組んでいます。
 その他、海岸や製鐵所周辺の清掃活動、福祉施設の方をアントラーズの試合にご招待、地域のまつりに参画といった取り組みも行っています。

SAT:地域の中核企業の様々な地域貢献・社会貢献は素晴らしいですね。今後とも地域との共生に期待しています。

Q:来年4月1日に日本製鉄(にっぽんせいてつ)株式会社になりますね。
A:日本発祥の総合力世界No.1を目指す製鉄会社であることの意思表示の意図もあります。

SAT:インタビューどうもありがとうございました。

【ここで、SATのパンフレットを用いて、SAT活動について紹介をいたしました。つくば奨励賞(実用化研究部門)などの推薦に関しまして、今年度(2018年度)は日立製作所の方が受賞されたことをお伝えし、来年度のつくば奨励賞などの推薦が12月から始まるので新日鐵住金からも是非推薦を、とお願いしました。】

SAT:鹿嶋市とつくば市は距離的にかなり離れていますが、SAT行事への参加についても考慮いただければと思っています。今後とも宜しくお願い致します。


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