第50回:株式会社つくば研究支援センター

写真1 玄関風景

 昨年度末からコロナ感染の広がりのため、つくばサイエンスアカデミー(SAT)の事業の多くが延期または中止となってしまいました。夏からオンラインで可能なものについてとりかかり始めましたが、まだまだ従来のレベルには戻らない状況です。賛助会員訪問についても、見合わせておりましたが、コロナの広がりが少し落ち着いてきたタイミングで(株)つくば支援センター(Tsukuba Center Inc.)に打診したところ、ご快諾いただき、11/19に訪問させていただきました。
 (株)つくば研究支援センター(以下、TCIと表記)はつくば市千現にあり、東隣に筑波宇宙センター(JAXA)、南向いに産業技術総合研究所(産総研)があります。大学・研究所が集積しているつくばならではの事業をされている同社をつくばサイエンス・アカデミー(SAT)の大越課長と渡辺コーディネータの2名で訪問しお話をお伺いしました。TCIからは及川直文常務取締役、高井一也常務取締役、石塚万里部長のお三方にご対応いただきました。
 まず1.全体的な概要、そのあと事業の二つの柱である 2.具体的事業(ベンチャー支援と地域貢献の2本柱)の順にお話を伺いました。以下ではそれに続いて3.全体的な質疑、4.まとめとして記述しています。

1. 全体概要
Q:まず、御社の設立の趣旨や理念をはじめとして全体的な概要についてお話いただけますか?
A:それでは当社の概要をざっと話させていただきます。まず設立の趣旨と理念についてお話します。当社は世界有数の研究開発機関が集積している研究学園都市の中で、産学官の研究交流を軸とした研究開発支援拠点という役割を持ったセンターとして設立されました。経営理念については、こういったつくば研究学園都市の持つ優位性を生かして、産学官の密接な連携・交流を積み重ねることによって、地域社会との信頼ネットワークを築きながら、今後筑波研究学園都市が新しい産業とか新しい事業を、たくさん生み出す拠点にするということで、地域経済の発展および社会貢献をしていくという経営理念でやっています。大きくはベンチャー企業の創出支援と、地元企業の成長支援、この二つが事業の基軸になっています。
Q:出資者はどのような組織でしょうか。またそれは初期とどう変わっているでしょうか?
A:資本金は28億円で、出資割合は茨城県が18.3%、日本政策投資銀行が15%、この2者が公的セクターで、合わせて1/3の出資になります。その他に民間企業が66社、個人1人となっています。1988年2月2日に第三セクターとして設立された当初は74社で、その後、株主同士の合併等により株主数は減っていますが、実質的には変化していないと言って良いと思います。民活法の下で、公的制度に基づき施設整備をしてきましたが、その法律は既に終了しているため、現在は普通の株式会社と同様に経営しています。
Q:施設の概要はどうなっていますか?
A:敷地1万8千m2、建物5千m2弱、延床1万m2弱となっています。自社施設のほか、同じ敷地内に「つくば創業プラザ」という県の施設が2003年に、また、敷地外のつくば駅近隣には同プラザの分室として「つくばスタートアップオフィス」が昨年12月にそれぞれ設置され、当社が管理・運営を任されています。いずれの施設も、ベンチャー企業やその支援企業に利用していただいており、総数は146室、内訳は事務室が86室、研究室が60室です。そのほかに、コワーキングスペース、レンタルガレージといったものもあります。
Q:どれくらい利用されているのでしょうか?
A:よく使われておりまして、ここ数年は平均入居率が95%以上、現在141室が使用中です。入居施設に関しては、現在のところコロナの影響はほとんど出ていません。コワーキングスペースは個室でなく共同で使うものですが、その会員が現在40者(ほとんど会社)以上登録されています。 ほかに各種研修室とコンベンションホールがあり、年間600件以上利用されています。
 施設面での当社の特徴は、研究機関に非常に近いことと、レンタルラボを提供していることです。レンタルラボは、大学や研究機関でも共同研究の一環でレンタルするケースはありますが、一般に募集する形で提供しているのはあまりないと思います。
Q:「つくば」という名前がついているが、支援対象等に何か限定はあるのでしょうか?
A:ベンチャー支援に関しては、つくば発のベンチャーが主な対象です。つくばに所在するベンチャーばかりでなく、ここで生まれた技術を使っているベンチャー企業も支援しています。中小企業支援の方は、国・県の施策絡みが多く、つくば市というより、県内企業対象です。同様の支援を行っている機関として、(株)ひたちなかテクノセンターがあり、県央は主にそちらが行っています。ほかに(公財)いばらき中小企業グローバル推進機構があります。ベンチャー支援に関しては、大学、つくば市なども手掛けています。
2. 具体的事業 - 二つの柱
(1) ベンチャー支援
写真2 左から及川常務、大越課長(SAT)、髙井常務、石塚部長
Q:具体的事業に関して、まず2本柱の一つめ、ベンチャー支援についてご説明をお願いします。
A:当社のインキュベーション事業の一番の特徴は、ハードの提供とソフト支援を両輪として支援する体制があることです。
 ハード面では企業の各成長段階に応じて、最適な施設を用意しています。まず起業前を想定して安い金額で使える、コワーキングスペースがあります。審査があり、利用は技術系ベンチャーに限っていますが、24時間利用でき、技術系の人が集まっていることで利用者同士の交流が生まれやすくなっています。他の分野の人に対しては、昨年、だれでも気軽に使えるドロップイン型のコワーキングスペースを用意しました。
 その次のフェーズとしてシェアードオフィス、つくば創業プラザがあります。つくば創業プラザは県が設置、当社が指定管理者として管理・運営しています。昨年、同プラザの分室として、駅から徒歩8分のところにスタートアップオフィスも開設されました。これらは設立5年未満のベンチャー向け施設で、利用は最大で5年です。
次の段階が当社が平成元年から運営しているレンタルラボ、レンタルオフィスです。こちらは利用年限はありません。ほとんどの会社が技術系で、つくばの大学や研究機関と連携している企業もたくさん入居しています。初期段階から進んできて、徐々に大きくなって地域に根付いている会社もあります。さらに海外の空港で製品が使われるなど、グローバルに活躍する企業も出ています。
 全ての段階で使えるものとして、共用作業場としてのTCIガレージがあります。ガレージは、入居者限定です。
Q:なるほど、各段階において様々な施設を用意されていることがわかりました。それでは、ソフト(企業支援)に関してはどのような取り組みをされているでしょうか?
A:多様な専門家がたくさんおり、特にインキュベーションマネージャー(IM)を社内で育成して現在5名います。彼らが中心となって外部のメンター、サポートパートナーと協力して、各成長段階に応じて支援を進めるという仕組みを整えています。
 また、これから起業したいという方の意欲を高め、必要な情報を提供する「TCIアントレ・クラブ」というのを作っています。会員に有用な情報の提供や相談に対応しています。
Q:スクールの形の支援はありますか?
A:2014年から、つくば市創業支援ネットワークの一環として、独自事業として「TCI創業スクール」を行っています。毎年20名以上受講して、半分以上が起業しています。全国的にみても、技術系ベンチャーを支援するための創業スクールは他にはない取り組みです。今までに129人の卒業生が居て、33社がその後ここの施設に入居しました。スクールを終えた人には専門家がついて、立ち上げまでハンズオン支援を行います。今年度からさらに、ステップアップスクールという位置づけで、スケールアップを目指す起業家向けの「TCIビジネススクール」を新しく開始しました。11/28から12/12にかけて、ビジネスモデル構築の考え方、スタートアップの資金調達、研究開発型スタートアップの創業ストーリーと続きます。
Q:起業家どうしの交流促進活動はありますか?
A:入居者交流のためのお茶会、秋の入居者交流会、クリスマスパーティーなどを行っています。ただし、今年度はコロナでやりにくくなっているのが残念です。また、つくば発ベンチャーの交流会「TCIベンチャーサロン」では社長どうしで話が盛り上がることが多いです。
Q:マッチングに関しては、どのような事業がありますか?
A:当社と産総研、三井物産の連携による「つくばビジネスマッチング会」、産総研、筑波大との連携による「ベンチャー技術発表会」、関東経済産業局との共催で「つくば発!研究開発型ベンチャー企業ミートアップ」などを開催しています。今年度はオンラインとリアルを併用して開催しています。オンラインでは交流が難しいですが、一方で全国から参加者を呼べる利点があります。
Q:企業間交流の具体的な成果をご紹介いただけますか?
A:入居ファブレス企業とものづくり企業が連携して製品を作ったりとか、入居バイオベンチャーとものづくり企業とでセンサーを作ったりとか、入居企業が研究機関の先生に技術を提供したりとか、いろんな連携が生まれています。そのほかに大手企業との連携マッチングなど、いろんな支援を創業期から育つところまでやっており、様々な成果が出ています。
Q:最近のトピックは?
A:今年度の新しい事業として、「TCIベンチャーアワード」を開始しました。募集は12/10に終了しますが、年明け1/19にファイナリストプレゼン会が開催されます。オンラインでも行いますので、広く皆さんに見ていただければと思います。つくば及びその周辺に所在する企業、つくばの技術を活用している企業が対象になっています。
 もう一つ、昨年度から「TiiMs」というマッチングサイトを開設しています。オープンイノベーションの推進のため、最先端技術やアイデアを持つつくば発ベンチャー等の企業と、新製品・新事業を協創したい企業との出会いの場を提供するものです。これを通じてマッチングを強化してきています。現在、技術力の高い企業ばかり130社くらい登録しています。
(2) 地域貢献
Q:それでは、柱の二つ目、地域貢献の事業についてご説明をお願いします。
A:つくばの立地を最大限に活かし、産学官の研究交流・連携のもとに、同時に地域の活性化に役立つセンターとなることを理念として謳っており、運営の基本にしています。県等の施策に基づくものが多いです。
Q:「いばらき成長産業振興協議会」という組織の事務局をされているようですが、これはどういうものでしょうか?
A:茨城県の施策に基づき設立されているもので、この運営事務局を受託して10年目になります。協議会の趣旨は、県内中小企業の成長分野への進出を支援することです。成長分野の技術を5分野ピックアップして研究会を立ち上げています。次世代自動車、環境・新エネルギー、健康・医療機器、食品、IT・次世代技術です。それぞれに2名ずつコーディネータを配置し、このコーディネータが企業との接点となり、いろいろな活動をしています。それに加えて、会員のニーズに応じたセミナー、見学会、交流会の開催、技術展示会や商談会への参加を支援しています。最近、会員企業の新型コロナ対策製品を紹介するため、ホームページに新型コロナウイルスに対する特設サイトを新設しました。会員は、約800社になります。
Q:他に技術開発的支援の取り組みはありますか?
A:令和元年度より 近未来技術社会実装推進事業を茨城県からの受託で開始しました。内閣府の制度に茨城県が応募して地域として採択され、その事務局を受託したものです。AI、IoT、ロボット等の近未来技術の活用により、高齢・人口減社会の課題解決を目指す、近未来技術の社会実装に向けた研究会の運営を行っています。農業、環境、防災・インフラの3分野の研究会を設置しています。
 ドローンを使った例をご紹介します。農業分野では、キャベツ畑を上空から撮影して、適切な収穫時期や収量の予測等を実施しています。
 防災・インフラ分野では、鹿島灘において浸食による砂の流出を防ぐ構築物である「ヘッドランド」に関して、ドローンにグリーンレーザーを搭載して海中の構造物の状態を調べる実証実験を行っています。グリーンレーザーは水中での吸収が少ないので、水中の構造物の可視化が可能となります。茨城県の河川・土木関係の施設の点検に役立てることができないか検討を行っています。令和元年から2年間の事業として進めています。
Q:情報配信等の関係ではどのような取り組みをされていますか?
A:茨城県からの受託で産学官研究交流促進事業として、情報配信を行っています。週1回の「つくばホットライン配信」では、つくば地域の公的研究機関、大学等による各種イベントなどの情報を一括して収集・発信しています。月1回の「研究・技術シーズの配信」では、つくば地域の研究機関、大学等の研究成果の中から、企業の新事業創出・新商品開発に必要な技術シーズを収集したうえで配信しています。いずれも県内中小企業など1500件以上にメールで配信しています。
 また、ホームページ上につくば研究人材情報という無料掲示板を作っており、よく利用されています。 年間で求人が1200-1400人、求職が50-100人あります。求職に関しては、掲示せずに閲覧・検索だけの方が多いので閲覧者はかなりの数です。
3. 全体についての質疑と意見交換
Q:職員はどのくらいいるのでしょうか?
A:常勤は役員4人と嘱託も含めた社員が13人、計17人です。
Q:様々なことをやられているわりに意外に少なく感じます。コロナの影響はどのような状況でしょうか?
A:レンタルラボやオフィスへの入居に関してはコロナの影響はあまりないと言いましたが、研修室の利用については、影響がありました。3-6月は特に影響が大きく、4月下旬からの約1ヶ月間は完全休館していました。割引プランとか、定員を半分にして大きな部屋を使ってもらうとかすることにより、7月からは7-8割戻ってきた感じです。入居者に関しても、昨年とれた仕事を続けるなどして年度前半は影響が少なかったのですが、後半から仕事が止まったような先もあり、今後、影響が少し遅れて出てくる可能性があるので、来年度の入居は不透明な部分があります。ただし、逆に入居室を増やしたところもあります。
Q:関連して、いろんな会合へのオンライン導入をすでにいくつか始められていますが、問題点や工夫されている点などをお聞かせいただけますか?
A:オンラインのイベントを6月から始めていますが、他所と比べてもかなり早かったのではと思います。つくばにいること(東京でなく)のデメリットが減り、イベントを東京でやることとの差が無くなった感じがあります。オンラインを導入してから、遠くの方の参加もあって増えています。対面を望む参加者もあり、また講師も画面より人相手に話かける方がやりやすいみたいなので、一応リアル会場も開けて併用しています。今のところ会合は100人以下。今後他の支援機関との共同開催を考えているので、100人以上のイベントの運営も考えていかないといけないと思っています。
 オンラインだけでリアルが無ければ、配信とかは簡単ですが、業者がいないと、もしトラブルが起こった場合に対応が難しいのではないかと思います。Wifiが切れてしまったらとか、いろいろ心配はあります。相当予行演習をやっています。
Q:特に重点を置いている分野はありますか?
A:分野が広いのがつくばの特徴なので、それはありません。
4. まとめ

 最後に社内をざっと短時間見学させていただきました。多数を占める個室の中は見られませんでしたが、コワーキングや食堂と続きのスペースにあるドロップインでは、ソーシャルディスタンスをとりながら、みなさん自由な雰囲気で仕事をされていました。ガレージはやや雑然といろんなものがあり、自由に作業できる感じでした。3Dプリンタやレーザーカッター、一般的な工具やはんだ付け用具と作業台などがあり、段ボールを切り抜いてロボットの形を構想している途中のような感じの工作物、試作機納入前の組み立てのようなものとかがあり、起業の初期段階の雰囲気が感じられました。
 広範囲の取り組みを展開されており、職員17名は意外に少ない印象でした。いろんな工夫をされているのだと思いました。SATとは交流推進という共通項がある一方、扱う対象は大きく異なるので、相補的な協力を進めていければと感じました。

(2020年11月19日訪問 渡辺記)