特別シンポジウム(企画:高エネルギー加速器研究機構(KEK))
特別シンポジウムの様子のアーカイブ配信は、2023年2月末日で公開を終了しました。ご視聴ありがとうございました。
加速器だから見える世界
16:00〜18:00 つくば国際会議場 中ホール 200

 「見えないものを見る」ことを可能にする加速器の役割、魅力を取り上げて、物質の根源探索から産業・医療応用まで加速器が広げる世界を紹介するとともに、将来の展望を語る。

【プログラム】
16:00~第1部 特別講演 座長 KEK理事 足立 伸一
1.イントロダクション 花垣 和則
16:20~2.最先端の加速器 道園 真一郎
16:40~3.加速器の利用研究1 薮田 ひかる
17:00~4.加速器の利用研究2 梅名 泰史
17:20~休憩
17:30~第2部 パネル討論
SDG'sカーボンニュートラルに関して加速器科学が貢献できること
パネラー:KEK理事 足立伸一、第1部の講演者 花垣和則、道園真一郎、薮田ひかる、梅名泰史
モデレーター:KEK広報室長 勝田敏彦
第1部 特別講演
座長 KEK 理事 足立 伸一(あだち しんいち)氏
1.イントロダクション:見えない素粒子を見る 〜最先端素粒子実験〜

 加速器はサイエンスに「光」をもたらし,測定器はその「光」に対する「眼」の働きをします。素粒子は物質を構成する最小単位であり,極めて小さく,肉眼で見ることはおろか,顕微鏡でも見えない微粒子です。加速器により「光」となる素粒子反応を引き起こし,最先端技術を駆使した測定器により,その「光」を捉え,宇宙の根源である素粒子の運動法則を理解することにより,宇宙の成り立ちまで見通そうとしている人類の挑戦を紹介します。

【講演者】

花垣 和則(はながき かずのり)氏

KEK 素粒子原子核研究所副所長 教授

講演者の略歴
高エネルギー加速器研究機構教授。大阪大学大学院理学研究科終了後,米国プリンストン大学にて博士研究員。その後,米国フェルミ国立加速器研究所でパーマネントの研究員となり,大阪大学理学研究科准教授を経て,2015年より現職。専門は素粒子物理学実験。特に,エネルギーフロンティア実験と呼ばれる,世界最高エネルギーでの素粒子衝突実験を主導してきた。
2.最先端の加速器:〜加速器とは何か?加速器研究開発が目指すもの、その面白さ。今後の応用、社会実装に向けて〜

 加速器の原理・歴史と、最新の加速器開発の状況についてお話しします。大型加速器から生まれた波及効果としては、超伝導電磁石やWEBなどが有名ですが、世界の加速器研究では、今、超伝導加速技術が注目されています。電力効率に優れているだけでなく、大電流を加速できるという特徴を生かした様々な産業医療応用が提案されており、次世代の薄膜超伝導空洞が実用化されれば加速器のブレークスルーになることが期待されています。当日はこれらの技術開発の現状を紹介します。

【講演者】

道園 真一郎(みちぞの しんいちろう)氏

KEK加速器研究施設
応用超伝導イノベーションセンター長 教授


講演者の略歴
東京大学大学院 工学系研究科物理工学専攻博士課程修了(工学博士)。高エネルギー物理学研究所(現、高エネルギー加速器研究機構)に入所。加速器真空および高周波源の研究開発に携わる。現在は、応用超伝導加速器イノベーションセンターのセンター長として、国際リニアコライダー(ILC)の研究開発及び先端加速器の産業医療応用に取り組んでいる。
3.加速器の利用研究1:放射光X線顕微鏡を使って、宇宙に生命の起源を探る

 小惑星と彗星に含まれる有機物は、約46億年前に太陽系が形成された歴史を記録しています。これらは、最初の生命誕生に必要な材料として、生まれたばかりの地球にもたらされたと考えられています。地球外物質中のナノメートルサイズの有機物の組成と分布を明らかにすることができる放射光X線顕微鏡を用いると太陽系と生命の起源にどこまで迫ることができるかについて、お話しします。

【講演者】

薮田 ひかる(やぶた ひかる)氏

広島大学大学院先進理工系科学研究科 教授

講演者の略歴
名古屋生まれ、東京育ち。2002年 筑波大学大学院博士課程化学研究科修了。アリゾナ州立大学、カーネギー研究所でのポスドク生活を経て、2008年より大阪大学大学院理学研究科 助教、2017 年より広島大学大学院理学研究科 准教授、2019 年より現職。専門は宇宙地球化学。2021-2022年に行われた「はやぶさ2」初期分析では、固体有機物分析サブチームのリーダーを務めた。
4.加速器の利用研究2:人工光合成のお手本となる天然の光合成タンパク質の構造を見る

 生物が行う光合成は、複数のタンパク質が精密に連携して、光と水から酸素ガスとエネルギー源を作り出す唯一の反応です。20億前から存在するにシアノバクテリから陸上植物まで、普遍的に存在する完成された仕組みの光合成反応の仕組みが理解できれば、クリーンエネルギーとしての人工光合成の糸口が期待されます。光で水を分解する光合成タンパク質の立体構造を放射光X線で解き明かした研究を紹介ます。

【講演者】

梅名 泰史(うめな やすし)氏

名古屋大学 シンクロトロン光研究センター 准教授

講演者の略歴
2007年、大阪大学大学院理学研究科高分子科学科専攻博士課程修了、博士(理学)。同年より大阪市立大学(現大阪公立大学)にて、光合成蛋白質の結晶構造解析の研究に博士研究員として従事。その後、大阪大学蛋白質研究所、岡山大学、自治医科大学を経て、2021年より、現在の名古屋大学シンクロトロン光研究センターにて准教授として勤務。あいちシンクロトロン光センターの名古屋大学ビームラインの担当者にて、光合成蛋白質を中心した構造生物学研究に取り組んでいる。
第2部 パネル討論
SDG’sカーボンニュートラルに関して加速器科学が貢献できること
【パネラー】

足立 伸一(あだち しんいち)氏

高エネルギー加速器研究機構 理事

パネラーの略歴
京都大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所研究員の後、高エネルギー加速器研究所入所。物質構造学研究所助教授、准教授、教授を経て現職
【パネラー】

第1部特別講演の講演者4名

【モデレーター】

勝田 敏彦(かつだ としひこ)氏

高エネルギー加速器研究機構 広報室長

モデレーターの略歴
京都大学大学院工学研究科数理工学専攻修了後、1989年に朝日新聞社入社。記者として科学、技術、医療を主に担当し、ワシントン特派員時は宇宙開発やオバマ政権の環境政策など取材。科学医療部次長などを経て2021年に高エネルギー加速器研究機構に移り、22年から現職。単著は「でたらめの科学サイコロから量子コンピューターまで」。